6 雨が好き

「さら!」


 僕の声は意外と大きく出てしまった。しかしそれも仕方ないだろう。幻かもしれないと疑っていたさらが今ここにいたのだから。


「るか……」


 僕の声に反応してくるりとこちらを向いたさら。その顔は困惑を表現していた。


「なんで……」

「僕、さらのことを学校中探したんだよ? また会ってくれるって言ってたし。それに僕自身、さらとまた話がしたいって思って。それなのに会えなくて……もしかしたら雨の日の放課後なら会えるかなって思って。」


 さらの目の前まで歩き進み、さらを見下ろす。さらは僕と目を合わせずに下を向く。


「るか……ごめん。私嘘ついた。」


 ぽつり、小さな声でそう呟いたさら。


「うん。そのことについて今日は僕に教えてよ。前回は僕の話を聞いてもらったからさ、今度はさらの話が聞きたい。駄目、かな?」


 僕のその言葉にバッと顔を上げるさら。その顔は未だに困惑一色だった。


「いい、の? 現実的じゃないよ?」

「いいよ。どんな話でも聞きたい。」


 これは本心だ。さらの話ならどんなにくだらなくても、どんなに暗くても聞きたい。そう思う。さらが僕の暗い話を聞いてくれたのと同じように。


 その気持ちはさらに伝わったようで、さらは一度深呼吸して、顔を上げて僕の目を見る。さらの目には決意が表れていた。


 どんな話が聞けるだろうか……


「私ね、もう死んでるの。」

「……え。」

「それもこの教室で死んだの。だからね、私、幽霊なの。きっとるかは私に触れない。それは逆も然り。」


 そう言ってさらは僕の腕に触れ……


 ようとしてスッと僕の腕をさらの指が貫通した。


「え、えええええ!? 本当だ!?」


 いや、ほんの少しだけ嘘なんじゃないかって思ったよ。うん。あの状況で嘘なんてつくはずがないとも思ったけれども。


「だからるかがどんなに学校中探しても私は見つけられない。それに私自身、雨の日の放課後しかここにいられないみたいなの。」

「……というと?」

「いつもは何もかもが真っ白い世界に一人ぽつんと立っていて、雨の音が聞こえてくるとヒュッとここに移動してるの。」

「ヒュッと……」


 随分抽象的だなあ。まあ、意味は分かるけど。ふむふむ、ヒュッと、か。


「そう。多分だけど、私って雨が好きだから雨の日だけここにいられるのかなーって思ってる。」

「へえ、さらは雨、好きなんだ。」

「うん! だって苗字にも雨ってつくから親近感がすごいんだもん。」

「なるほど。」


 雨のことを話すさらはとても楽しそうで、ニコニコ笑っていた。なんか僕まで雨の日が楽しくなってきちゃったよ。あんなに嫌っていたのに。


 確かに今日は雨が待ち遠しかった。さらに会えるかもしれないと思ったからだろう。雨の日にこんな穏やかで楽しい気持ちになるの、久し振りだ。


 ふっと笑みがこぼれる。

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