End1

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選択肢分岐です。




前回の選択肢で2を選んだ方はこのまま下へ。


1を選んだ方は次の話へ飛んでください。


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AUGUSTDAY1
























































































































































2 君と話してる時間が楽しかったと答えた。


「……今、見つかったよ」


俺は彼女の目を見て、力強く言い切った。


【空美】

「へ、今ですか?」


「うん」


「君と話してる時間が楽しかったよ」



「俺、ずっと張り詰めたような生活してたからさ、友達とかも全然いなかったし。こんな風にまともに誰かと喋ったのっていつ以来だったかな」


「なんていうか、お陰ですごく心が軽くなった」


【空美】

「そ、そんな……わたしなんて全然!ただお話聞いただけですし……」


「あはは。それが嬉しかったんだよ。とにかく、本当にありがとうね。すごく楽しかった」


なるべく明るく、精一杯の笑顔を作る。


それは歪でぎこちなかったかもしれない。


確実なのは、その時俺の心の中ではどす黒い暗雲のようか気持ちが渦巻いていたこと。


それでもなんとか、気丈に取り繕って、かんださんには悟られなかった。


【空美】

「ふふ。それじゃ、また会いましょうね!」


かれこれ1時間くらい他愛もない話で盛り上がったあと、かんださんは笑顔で去っていった。


RAINとTwittarのI.D.を書いた紙を俺の手に残して。


「……ほんと、いい子だったなぁ」


ノートの切れ端に書かれた丸っこい手書きの文字を見つめ、しみじみと俺は呟いた。


ポタポタと垂れる滴が紙をねずみ色に変えていく。


俺は大粒の涙を流していた。


「ごめんよ……俺、ケータイ持ってないんだ……」


かんださんにはその場での交換を申し込まれたが、家にスマホを忘れてしまったとごまかしたのだ。


もちろんそれは嘘で、本当はスマホは退所と同時に解約して処分してしまっている。


職を失ったことで、毎月の契約料が払えなくなったからだ。


バイト暮らしでは家賃や年金を支払うだけで精一杯で、到底贅沢などできない。


だから、せっかく美少女が渡してくれた連絡先も、俺からしたらただの紙切れと変わらないのだ。


でも、もったいないとは思わなかった。


どうせ、もう俺と彼女が会うことはないのだから。


「……さ、行くか」


三十分たっぷりと泣き続けると、俺はおもむろに立ち上がり、公園を出た。





それから俺は近くの駅へやってきた。


──全てを終わらせるために。


かんださんとの会話の途中で、俺は自分の人生に幕を下ろすことを決意した。


このままバイト暮らしで生きても、先は見えなかったからだ。


食費を削り、生活費を削って。それでもなお所得のほとんどは家賃や年金、その他諸々の支払いで消える。


それでも生活保護制度や、ハローワークに通って仕事を探すという道もあるかもしれない。


……でも、もう疲れた。もう取り返しがつかないほど、俺の心は疲れてしまっていた。


実を言うと、自殺については前々から検討していた。しかしながら、なかなか踏み切る勇気が出ずのうのうと生き続けてきた。


そんな時に天使が最高の贈り物をくれたのだ。


かんださんはきっと、死を目前に踏みとどまっていた俺に、手向けの花として遣わしてくれた天使なのだ。


だから俺は。彼女がくれた思い出を抱えて終わりにしたい。


最後に彼女が寄り添ってくれた。それだけで十分。満足だ。もう人生に悔いはない。


「特急が来るまで、あと10分……」


電光掲示板を見ながら、俺は呟く。


自殺を決めて、真っ先に思い浮かんだのが駅での飛び降り自殺だった。


想像しうる限り最も確実に、かつ一瞬で楽になれる。


電車での自殺がどれだけ人に迷惑をかけるかは知っていた。目撃者にトラウマを植え付けることになるともわかっている。


だけど、許してくれよ。俺は長らく辛酸を舐め続けてきたんだ。最後くらい、わがままを言わせてくれよ。


【おっさん】

「……おい。突っ立っとんなってぇ!」


電光掲示板をぼーっと眺めていると、突然肩を掴んで押し除けられる。


「え……え?」


【おっさん】

「そこに突っ立っとったら迷惑だろ?そんなこともわからんのかぁ?なぁお前ぇ?」


戸惑う俺に文句を言ってきたのは、七分刈りくらいの坊主頭に黒縁の眼鏡をかけたおっさんだった。


背はそこそこ高く、モグラのような顔をしている。


何がそんなに苛立つのか知らないが、下唇をわなわなと振るわせていた。


「い、いや……あの。すいません」


突然の出来事で動揺していたのと、コンビニバイトの癖で、俺はとっさに頭を下げてしまった。


【おっさん】

「なんだその謝り方は!すみませんだろぉ、おっ?」


それでもおっさんは気が済まなかったようで、イチャモンをつけながら俺の額を小突く。


【おっさん】

「ちゃんと人の目を見て。誠心誠意頭を下げろや。な? それが社会の常識ってもんだろ。なあ?」


なんでちょっと道を塞いでしまってたくらいで、この人はこんなにキレてるんだろ。


あまりの理不尽さにわずかな怒りを覚えながら、俺はもう一度おっさんの顔を見る。


「……あ」


思わず、声が出た。


この人は俺が働いてるコンビニで、朝によく来る迷惑な客だった。


期限切れのクーポンを出してきたくせして、それが使えないことに怒り出し、今のように俺の態度にイチャモンをつけて、その後何度も俺をイビリに来店する迷惑な客だ。


【おっさん】

「あぁ???それが謝罪の言葉か?」


おっさんは興奮しながら、俺に顔を近づけてくる。


かんださんが詰め寄ってきた時と逆で、激しい不快感しか感じない。


向こうは俺のことに気付いているのだろう。出なければこんな強気では来ないはずだ。


おっさんが近づいてくるのに合わせて、俺は一歩一歩と後ずさる。


こいつの方が背が高いせいで、筆舌に尽くし難い圧がある。


【おっさん】

「ちゃんとあやまれぇ!」


「す……すみませ──」


気圧されて、謝罪の言葉を口にしかけたが、俺は寸前でやめた。


「……なんで、なんでお前なんかに謝んなきゃいけないんだ?」


【おっさん】

「あん?」


「なんで……俺が死ぬのにお前みたいな奴がのうのうと生き続けるんだよ!」


【おっさん】

「は……?死ぬ?」


「腹立たしい許せない許せない許せないゆるせないユルセナイユルセナイユルセネェ……」


狂人のように俺は呟いた。


もう限界だ。


なんでだよ神。どうして安らかに死なせてくれないんだよ。


なんで最後の最後までこんな理不尽な仕打ちができるんだよ。


頼むから……もうほっといてくれよ。


それに。こいつもこいつだ。


「あんた……なんでこんなしつこく突っかかって来るんだよ。俺になんか恨みでもあんのかおい!」


やけくそ気味に俺は叫ぶ。


【おっさん】

「そ……そんなものはないが……」


「じゃあなんでいつもいつもバカみてえに嫌がらせしにくるんだよ。ふざけんなよなぁ?」


【おっさん】

「い、嫌がらせなんて。俺はただ客として金を払ってやりに……」


「金を払う?うるせぇ!てめぇみてえなのはお呼びじゃねえんだよ!あと払ってやりって何だ。客が神様だと思ってんじゃねえよおい!」


勢いに乗せて、まくし立てる。


「な、なんなんだ急に……」


袋の鼠ほど恐ろしいものはない。


普段絶対に抵抗してこないと思ってた存在が、烈火の如く怒りだしたことに驚いたのだろう。


今度はおっさんが気圧される番だった。


「なんなんだって。本当になんだったんだろうなぁ……俺の人生ってさぁ」


「本当は。こんなはずじゃなかったのになぁ……」


また涙が流れる。何が悲しくて、こんなおっさんと揉めなきゃいけないんだ。


あぁ……だんだん虚しくなってきた。


「俺が生きてきた意味って、なんだったのかなぁ……」


ほんと、俺って何も残せてないよな。


縁切りされた親に恩返しも何も出来ていない。本当に惨めで空っぽな人生だった。


「だからさぁ。俺、最後にゴミ掃除するよ。それを俺がこの世界に残した唯一の爪痕にしよう」


グイッと涙を拭うと、俺は狼狽していたおっさんのネクタイを掴んだ。


そして、力任せに線路に向けて放り投げる。


【おっさん】

「な!?」


まるでスローモーションのようにおっさんが落下する。目と口を大きく開いた間抜けな顔が鮮明に見えた。


【おっさん】

「がっ!?」


背中から地面に落下し、空気が漏れたような悲鳴を上げる。


【おっさん】

「な、何をするんだ!」


同時に打ち付けた後頭部をさすり、おっさんは俺に悪態をつく。


【おっさん】

「……って、せ、線路!」


それから自分が落とされた場所を知ると、クモのように這いつくばって逃げようとした。


「逃すかよ」


その背中めがけて、俺も飛び降りる。


躊躇いは微塵もなかった。


【おっさん】

「がふっ!?」


おっさんの背骨に膝が直撃する。


そのまま俺は頭を押さえつけ、マウントポジションを取った。


「お前はここで俺と死ね」


自分でも驚くほど冷たい声が出た。


【おっさん】

「ひっ!や、やめーーふがっ!」


「黙ってろ」


うるさいおっさんは顔を地面に叩きつけて黙らせる。


電車が来るまでもう五分もない。


ホームの上から悲鳴が聞こえる。


非常停止ボタンを押している人がいたが、もう遅い。


死の汽笛はもう寸前だ。


【おっさん】

「お、俺が悪かった!だからやめてくれ!俺には家族もいるんだぞ!」


電車の姿が見えると、おっさんはいよいよ必死になって命乞いをしてきた。


俺は全く持って取り合わない。


報いを受ける覚悟もないのなら、あんな真似をするな。俺が言えるのはそれだけだ。


プオオオオン!


超スピードで特急列車が迫ってくる。


──ああ。電車ってこんなに大きかったんだ。


死ぬ間際に抱いたのは、そんな呑気な感想だった。


直後、今まで感じたことのない衝撃が身体を襲う。


鈍い音が聞こえて、俺の視界は真っ黒に染まった。








ーーーーEND1 自殺ーーーー


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