第167話:「ルーシェ、長期休暇をもらう」
アンネ・シュティ。
ルーシェに初めてできた、[後輩]メイド。
彼女はどうやら、ルーシェと同じように、誰よりも早く洗濯物をすませてしまおうとやってきたようだった。
ただ、それ以上に早くルーシェが洗濯場にやってきていたから、遅れを取ったようだった。
それから2人は、一緒に洗濯物を済ませてしまうことにした。
エドゥアルドの衣服も含め、ヴァイスシュネーに暮らしている大勢の人々の洗濯ものだから、量はたくさんある。
そのたくさんの洗濯ものを片づけるのは、やはり、1人より2人の方がいい。
洗濯をしながら、ルーシェはアンネといろいろなおしゃべりをした。
それは、楽しい時間だった。
アンネは、人当たりのいい、社交的な性格をしていた。
話題を振るのがとても上手で、ルーシェの言ったことにうまく言葉を返して、会話が途切れないようにしてくれた。
相手は18歳で、自分よりも年上。
あまりにも会話が弾んだため、そのことを、うっかりルーシェは忘れてしまいそうになるほどだった。
しかもアンネは、メイドとして、かなり優秀だった。
洗濯物はルーシェもたくさんしてきたから、手際の良さでは負けるつもりはなかったのだが、アンネの手際の良さはルーシェと同じか、それ以上のものだった。
それだけではなく、アンネは、きちんと役割分担というものを考えながら動いていた。
そのことにルーシェが気づいたのは洗濯物がもうほとんど終わるというとろだったが、アンネは自然な形でルーシェと自分に仕事を割り振って分担し、効率的に仕事を進められるように調節してくれたのだ。
おかげで、洗濯物はずいぶん早く終わってしまった。
「さっすが、センパイ!
いやぁ、見事な手際でしたね! 」
「アンの方こそ、すごいです!
手際がいいだけじゃなくて、ちゃんと、役割分担まで考えてくれるなんて!
すごく勉強になりました! 」
「いやぁ、それほどでもー、あるかもー?
えへへー」
そして、洗濯を終えるころには、2人は互いのメイドとしての実力を認め合い、互いのメイド力(ちから)を称えるようにハイタッチするほど、すっかり打ち解けていた。
なんでも気兼ねなく話すことのできる、古くからの友達のように。
2人はそのまま、洗い終わった洗濯物を干すために仲良く並んで歩いて行った。
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「えっと。
ルーに、長期休暇、ですか……? 」
アンネという、生まれて初めての後輩メイドとすっかり打ち解け、今日は素敵なことがあったいい日だと、ルンルン気分でエドゥアルドの朝食の給仕へと向かったルーシェ。
しかしその給仕の仕事をしている最中、エドゥアルドから突然、「ルーシェ、しばらく長期休暇を取っていいぞ」と言われたルーシェは、困惑していた。
「だって、お前、まともに休んだことがないじゃないか」
そんなルーシェの方へは視線を向けないまま、朝食のパンをちぎってバターを塗り、口に運んで咀嚼(そしゃく)しながら、エドゥアルドはルーシェの問いに答える。
「お前は、アルエット共和国にまでついて来たんだし、その疲れもどこかに残っているはずだ。
それに、僕のメイドになって以来、自分から休もうとしたことが、1度もないじゃないか。
そんなんじゃ、いつか、身体を壊すんじゃないか? 」
どうやらエドゥアルドは、ルーシェのことを気づかって言ってくれているようだった。
(嬉しい!
……けれど、やっぱり、ルーは……)
ルーシェは、複雑な気持ちだった。
エドゥアルドが自分のことを気づかってくれている、大切に思ってくれているのは嬉しいしありがたいのだが、しかし、やはりルーシェは働いていないと落ち着かないのだ。
「あの……、ちなみに、長期休暇って、どのくらい、でしょうか? 」
「そうだな……、一週間くらい休んでみたらどうだ?
お前はそれくらい休んでもいいくらいには、頑張ってくれているからな」
「いっ……、一週間……? 」
エドゥアルドはそのくらい当然、という態度だったが、ルーシェは、気が遠くなるような気がして、エドゥアルドの「必要だろうから、一時金も出そうと思っている」という言葉も聞こえていなかった。
そんなにメイドとしての仕事を休んでしまったら、ルーシェはきっと、不安に押しつぶされてしまうだろう。
そもそも、そんなにお休みをもらったところで、ルーシェは、なにをしたらいいのかもわからない。
今までそんなふうにお休みをもらったことがないから、[どんなふうに休めばいいのか]が、ルーシェにはまるでわからないし、想像もできないのだ。
「あの……、でも、その……。
エドゥアルドさまのお世話は、その間、どうされるのですか……?
シャーリーお姉さまや、マーリアさまは、いつもお忙しいですし?
ルーが、お休みしちゃっても大丈夫なのかなー、って」
エドゥアルドが気づかってくれているのがわかるので断りづらい雰囲気だったが、ルーシェはおずおずとそう主張する。
ルーシェはほとんどエドゥアルドの専属のメイドのようになっていて、シャルロッテやマーリアにはまだまだ及ばないと思ってはいるものの、他の使用人たちよりもずっと、エドゥアルドのことをよく知っていると、そう自負している。
自分がお休みしてしまえば、きっと、エドゥアルドは不便な思いをすることになる。
ルーシェはそういう口実で、なんとか、休みを回避しようと試みた。
「心配しなくても大丈夫だ。
その間は、別のメイドに仕事をしてもらう」
しかしエドゥアルドは、ルーシェがそうやって反抗してくるだろうと予想し、準備を整えていたようだった。
「えっと……、別の、メイド? 」
そのエドゥアルドの言葉に、ルーシェは、なぜだか心の中がざわつくのを覚えていた。
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