第18話 映画館のデート
その後、俺たちは5階にある映画館へとやって来た。
他の階と違って、人は多かった。映画を観賞する人々だらけになっていた。
そんな人混みに、俺は愛香に尋ねる。
「なんの映画かみたいだ?」
「えっと、確か『この愛を永遠に』だったかしら」
「あ、あった。14.45時の上映、あと10分くらいだな。席も丁度3人席も残っているし、先にチケット買って置こう」
俺はそういうと、チケット販売機にてチケットを購入した。タイトルを『この愛を永遠に』を選ぶと、お金を入れる。チケット販売機がビビーと音を立ててから、チケットを3枚発券する。
チケットを手にし、俺は愛香達の元に行くと一人ずつにチケットを手渡す。
「はい、愛莉ちゃんの分」
「ありがとう!健次お兄ちゃん」
「おう!と、これが愛香の分」
「ええ。ありがとう」
チケットを手渡すと、愛莉が怪訝な顔をする。
そして、愛香にこう言う。
「ねえ、愛香お姉ちゃん。わたしの席と変わってよ」
「え?」
「愛香お姉ちゃんは、健次お兄ちゃんの隣に座ってよ」
愛莉はにぱっと笑って、そう言う。
愛香は静かに口を開けたまま、何も言わなくなった・
俺はと言うと、彼女の行動には驚くと呆けている。
俺たちがそんな態度をしていると、愛莉は笑ったまま、こう告げる。
「お姉ちゃんはね。幸せになるべきなんだ」
「私は今も幸せだよ、愛莉」
「ううん。お姉ちゃんには恋人が必要だよ。健次お兄ちゃんと幸せになって」
そう言う途端、愛香の顔は真っ赤になる。
……おいおい、そんな態度をすると、脈ありだと勘違いされるぞ。
それより、この幼女は姉と違って優しすぎる。
自分の幸せを願うのではなく腐った性格の姉に幸せを願うのは、凡人にはできることはない。
俺と愛香の相性は言うまでもなく、最悪である。俺はこいつのことが一番に嫌いなのだ。けれど、幼女の目線からすれば、俺たちはいい化学反応に見えるのだろう。
ここは愛莉の言う通りにしようじゃないか。
「言った通りにすれば?」
「健次?」
「彼女のリクエストを受けいればいいだろ?どうせ、俺たちの仲は主従関係以外なんでもないさ」
俺は肩を竦めてそう答える。
本心から言うと、この女と隣に座るのは鳥肌が立つほど嫌だ。
けれど、愛莉のお願いであれば、俺は首を横には振れない。愛莉の気遣いを無駄にすることはできないのだ。
そして、入場アナウンスが響き渡る。俺たちは映画館内に入場した。
席順は俺、愛香、愛莉と並んでいたのだ。
C Mが終わると、やっと映画が始まる。
物語の内容はこうだ、主人公は芸術家であり、恋人を失い絶望をしている。すると、彼はとある財閥の娘に偶然に出会う。彼は第二の人生を歩もうとしたのであった。
俺が映画に集中していると、右手から温もりを感じる。
愛香の左手が俺の右手を握りしめる。
俺は彼女の顔に振り向く。愛香はスクリーンの方を集中している。瞬きをすることなく、真っ直ぐと見つめている。
……こいつ、わざと手を握っているのか?
と、俺はそう思いながらスクリーンの方へと向き直す。
映像が流れていくが、俺はそんな内容には全く頭が入ってこなかった。だって、隣の美少女が俺の右手をずっと握っているのだ。
キスシーンになると、愛香は強く俺の手を握りしめる。
もう、指と指を絡め合うように手を繋いだ。
流石にまずいと思って、俺は彼女に忠告しようとするが、彼女の目尻から水滴が溜まっていた。
よほど、感動するシーンなんだと、俺は改めてそう思う。
そんなムードを壊すことを避けて、俺は黙って画面上の方へと向ける。映画はクライマックスに走っていたのだ。
ヒロインは主人公を庇って、銃弾に打たれる。
最後の最後にヒロインは涙を流しながら、主人公に愛の言葉を告白する。永遠の愛を告白し、ラストキスをするのであった。
本当に、涙頂戴するシーンで、俺の鼻がむすっとする。
あれ?このシーン、どこかで見た感じがあるぞ?デジャブかな?
と、映画がエンドクレジットを流れ終えると俺たち3人は席から立つ、映画館を後にする。そして、3人仲良く手を繋ぎ帰路へと向かっていた。
真ん中に愛莉があり、俺と愛香は彼女の左右の手を繋いでいた。
「映画、楽しかったねー健次お兄ちゃん、愛香お姉ちゃん」
「あ、ああ。楽しかったな」
……愛香の手が気になって、映画の途中が抜き落ちていることは口が裂けても言えなかった。
呆けている俺に、愛香は口を開く。
「永遠の愛は、なんだか、陳腐ね」
「そうか?俺はドラマチックでいいと思うぞ」
「現実にそんな恋愛があるわけないわ。この世界はそんな出会いがあるわけないわ」
「すごく悲観的な意見だな。この映画に何か恨みでもあるのか?」
「ええ。冴えない男子と見に来たのが、失敗でしたわ」
「のやろう」
俺はギロっと愛香に睨みつける。
すると、愛香はふふふ、と悪戯な笑みを浮かばせる。
俺たちの様子を見て、愛莉は嬉しそうに話す。
「二人とも仲がいいね」
「え?愛莉ちゃん、それはどう言うことかな?」
「健次お兄ちゃんから来てから、愛香お姉ちゃんが笑うようになった」
「そうか?このドS女はいつもむすっとしているんじゃないか?」
「スイッチ押すわよ?」
「すみませんでした!どうかご慈悲をください!お優しい愛香様!」
「ふん……」
愛香は顔を背ける。
その横顔に、頬が微かにリンゴほっぺになっていた。
デレているのか?あのドS女王様がデレているのか?
とにかく、ここで電撃ショックを押されなくてよかった。押されたら、ここの3人ともとも倒れになってしまう。
まあ、色々とあったことで俺たちはセバスが用意してくれたリムジン車に乗り、帰宅する。
明日はいつもの学園生活が待っている。3日間休んでしまった俺は、学園生活に復帰しなければいけない。これ以上、長引く訳にはいかない。
「愛莉」
「何よ?」
「今日は、ありがとうな。元気づけてくれて」
「……ペットの飼い主としては当たり前のことをしたまでです。礼は不要です」
愛香はふん、と鼻を鳴らし。そっぽをむく。ほっぺを赤く染め上がっていたままだ。
本当に俺にデレてはないのか?デレていないよね?
この女、俺に気はないよね?
勘違い男性は痛々しいので、俺は彼女が俺にデレていないことに考えることにする。彼女は照れ隠しで赤面作っているだけ。俺たちの関係はペットと主人。
それ以上でもそれ以下でもないのだ。
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