第7話 天才美少女天川新名

 さて、入社式が終わり。次はクラス分けだ。

 俺は再び、学園の広場のところに来て、学校の掲示板を見上げた。自分のクラス分けを確認する。1年A組に俺の名前は記載されている。

 ふむ。どうやら、俺はこの1年A組に配置された。

 知っている名前がないか、他にも見てみる。


「ゲェ!愛香も同じ教室なのか」


 よくよくみると、坂本愛香の名前も1年A組に記載されていた。同じクラスであることに俺は顔を苦くする。

 これからの1年間の高校生活が灰色になっていく。

くそ、あの女の仕業だな!


「見つかりましたわ。吉田健次!」

「ふえ?」


 俺は情けない声を出しながら、声元に振り向く。そこには、あゆみが剣幕を浮かべながら、こちらを見ていた。

 彼女は怒りで顔を真っ赤にしながら、こちらへと顔を向けている。

 どうして、そんなに怒っているのかって?

 答えは入学式の行動にある。俺が盛大にやらかした態度は彼女には多少迷惑をかけてしまった。

 仲戸川あゆみは花びらの会、学校の式典の管理を行なっている。無論、入学式も彼女の管轄にも入る。俺が盛大にやらかしたせいで、彼女にも被害を及ぼした。


「あの、スピーチは何ですの!あなたが、この高校生活を純粋に仲良くなれるために儲けた時間よ!どうして、あんな風にしたのですか!」

「うん。すまんな。俺は欲望に誠実になると心から決めたんだ」

「こ、この獣!お、女の敵」


 俺が爽やかに答えると、彼女は両手で自分の肩を抱き締める。そして、虫を見るかのような目でこちらに向けてくる。

 ……完全に嫌われたな。すまんな、あゆみ。

 その気持ちは忘れないでくれ。俺が死んでも、その気持ちを忘れないでくれ。


「で、俺を罵声しに来たのか?」

「要件を忘れてしまいましたわ。改めて、学園の案内させてください」


 ゴホン、と彼女は咳払いをしてから、彼女は続けてこう語る。


「今から、あなたのクラス。1年A組に案内いたします。それから、他の施設を案内いたします。校舎、旧校舎、職務室、教会、部活棟、食堂、体育館。学校で必要な場所を案内いたします」

「そこまで案内しなくてもいいよ。お前も、俺のことを嫌いだろ?俺と関わっているのを誰かに見られたら、評価下がるぞ?」

「いいえ。それは花びらの会の会長としては、転入生の面倒を最後まで見るのが、ポリシーです」

「真面目だなー」

「別にそんなんじゃありませんわよ」


 あゆみは少し悲しそうに嘆息をする。

 俺はそんな彼女を見て、その真面目さに感動する。

 到底真似ることができない。しっかりと、最後まで責任を取れるのは、俺が描いた創作しかできない。


「では、時間もあまりないですし、案内いたします。まずは校舎から、行きましょう」

「ういす」


 俺は彼女の案内されるままに、彼女のあとをついていく。

 まず案内されたのは、校舎内にある教室だ。1階が高校1年生、2階が高校2年生、3階が高校3年生。俺が通う1年A組はもちろん、この1階のある教室だ。

 一クラス30人が鉄則だが、緊急転入のせいで俺はこのクラスの31人目。俺の出席番号は31番だ。

 この件についても、花びらの会が色々と手配してくれたのだろう。

 そう考えると、あの愛香がいきなり、俺をこの高校に転入させるのは、色々と横暴過ぎることにもなっている。

 後で、愛香にもお礼一つを言ってもいいかも?


「では、こちらの4階が図書室ですわ」

「すげー……」


 教室の後にして、図書館と職務室を案内された。

 図書館はさすが偏差値70を超える高校だと、4階の全体が図書館である。本の量も尋常ではないほどの多さに俺は驚く。

 ここでは静かに高校生活を過ごせそうだ。

 

「では、次は職務室を案内します。この3階にあります」

「ふむ、ここが社畜たちが働いている場所か……」


 俺はそう言うと、共に、顔をひょっこりと中を覗く。

 中には教師たちが一生懸命働いている姿が見られる。しっかりと働いている。

ふむ、これ以上、のも彼らの迷惑になるから、俺たちはここから去る。


「ここが、部活棟です。すべての部活がこの棟にあります。無論、あなたが望む、美術部もこの棟にあります」

「入部は考えさせてくれ。俺は流離な人生だから、部活に囚われないぜ」

「カッコよく言ったつもりでしょうけど、厨二病全開ですわ」


 うむ。確かに彼女の言う通り。

 高校一年生にもなって、厨二病は中学生二年生までしか許されない行為だ。高校生に上がった人は許されない。


「次は、教会ですわ。ここはこの東京美高等学校の神聖な場所とも言っていいほど、大事な場所です。先代の学園長がキリスト教であるため、学園の設立時にこの教会を設立しました」

「へーそうなんだ」

「どうやら、興味なさそうですわね」

「まあな。先日に来たことがあるから、特に興味はないかな」


 俺は先日のことを思い出しながら、千花の双子の由美のことを思い出す。彼女は慈悲深く、この教会の修道女として勤めている姿は神々しくて、俺には眩しかった。

 彼女……由美にできれば会いたくなくなかった。

 なぜならば、彼女の前にいると調子が狂ってしまう。

 きっと、俺は無意識に千花のことを思い出してしまうのだろう。死んだ元恋人の未練がまだあったのだから。

 そんなことを思い出していると、部活棟から、「あ、いた!」という、女性の声がした。

 声元に振り向くと、ピンク色の髪を肩まである少女がこちらの方へ走ってきた。俺の前まで来ると彼女はにっこりと笑みを浮かべてこちらに挨拶をする。


「君、転校生の吉田健次だよね!」

「そうだ。何のようだ、雌豚」

「うわ、まずは罵倒かいいね。君、すごく気に入った!」


 エメラルドグリーンの瞳で俺を捉えると共に、彼女はキラキラと顎彼の眼差しを送ってくる。背丈は俺より10センチぐらい短かった。肌色は白く、絵の具の白を連想する。綺麗な肌だ。

 彼女の顔は理想的の楕円形をしている。鼻筋はちょうどいい高さになっている。

一言でまとめると並にいい顔をしている彼女は俺の罵倒を楽しんでいる。


 ……なんだ、この女。俺がこうして罵倒しているのに、引き下がらない。どういうメンタルしているんだ。


 もしかして、彼女は変態なのか?こう凌げられるのが好きな人なのか?

 と、俺が顔を引きつると、あゆみがため息を吐いた。


「少しは落ち着いたらどうですの?新名さん」

「あーごめんごめん。あゆみちゃん。少し彼のことが気になったので」


 新名と呼ばれた彼女は、カリカリと頭を掻きむしってから、自分の自己紹介する。


「自己紹介がまだだったよね。わたし、天川新名。新名と呼んでもいいよ。1年B

組で美術部の部長を務めている!」

「俺は知って通りの、吉田健次だ。変態だ!よろしく頼まない」

「あははは!やっぱり、健次くんは面白い!」

 

 いきなり名前呼ばわりかよ!普通は苗字から呼び合って、関係が縮まってから名前を呼ぶのだろ!この女すげーな。色んな意味で!

 俺は思わず、隣にいるあゆみに向ける。すると、彼女はまたも嘆息を切ってから、顔を左右に振った。

 どうやら、あゆみも新名の性格に呆れているらしい。

 うむ。これ以上、彼女の負担を抱えないように、こちらも努力しよう。


「ねえ。一つ聞いてもいい?」

「何だね?」

「入学式のとき、どうして、わざとルノワールの言葉を引用したの?」

「!?」

 

 そう言うと、俺は言葉を失った。

 なぜならば、彼女に見破られたのだ。俺があのルノワールの言葉を引用していること。あの時スピーチした、俺は自分の言葉で発した部分は、最後の自分の名前を自己紹介したときだけだ。そのほかはルノワールの言葉を借りたのだ。


「それどう言うことですの?」

「えーあゆちゃん知らないの?ルノワールって、女性のおっぱいと尻が大好きで、一晩中見ながらデッサンしているんだよ」

「卑猥な話を訊いているのではありません。彼がルノワールの言葉を借りたのはどう言う意味ですか?彼がわざと自分を貶めるようにスピーチをしたと言うのですか?」

「うん。健ちゃんはわざと、自分を貶めるようにスピーチしたんだよ。あーわかったかも。もしかして、人を近寄せてほしくないとか?」

「さ、さあ?どうかな?」


 新名が指摘すると、俺はゆらめいた。

 なぜならば、彼女の指摘の通りだ。俺は、この学園と誰かと知り合う気はない。俺は一匹狼でいるつもりだった。

 この学園が最後に送る俺の青春だからだ。


「えー本当のことを教えてよ!学校の前の看板とバルーンアートを一人で作ってあげたのに!それくらい教えてよー」

「待って、君が看板とバルーンアートを一人で作ったのか?」

「そうだよ。だって、美術部はわたししかいないから」


 それを聞くと、俺の視線は無意識にあゆみに向ける。すると、彼女は顔を縦に振った。彼女が言っていることは本当よ、と遠回しに告げた。

 ……この女は化け物だ。一人で校門にある大きな看板と俺の名前をバルーンアートで文字起こしを一晩で作り上げるのは、化け物並みの想像力だ。

 そして、俺は彼女の名前に聞き覚えがあることに気づく。


 ……その名前は一年前のコンクール受賞者の名前でもあった。


 それは去年の同じコンクールについてだ。彼女、天川新名の名前は金賞を受賞したものだ。大賞より一つ下の賞だ。

 彼女はよほど、美術に実力の持ち主であることには間違いないのだ。


 ……この俺が保証する、天川新名は天才だ。


「昔、部員は2、3人いたんだけど。なぜか、退部していくんだよねー。どうしてだろう?」


 ……それはお前の才能が化け物すぎるからだよ。


 この東京美高等学校の美術部は必ずしも、東京藝術大学に進学する。そんな藝術大学を目指すものたちが、彼女の圧倒的の才能を前にして挫折してしまったのだろう。

 この天才には勝てない、と心をポキッと折れたのだろう。

 天才はシステムエラーだから、致し方がない。


「あ、用事を思い出したから、先に行くね!」

「あ、うん。じゃあな、新名」

「うん。じゃあね、天才の健ちゃん!」


 新名は嬉しそうに手を振ると、そのまま走り去った。

 嵐は過ぎ去った。本当に唐突だな。


「嵐のような人だな」

「ええ。全くそうですわ。芸術の才能を取り除けば、彼女は人間性が欠けていますわ」


 俺がそう答えると、彼女は顔を覗かせるように、顔を近づけた。そして、溜めている感情を俺にぶつける。


「一つ、お尋ねしてもいいでしょうか?」

「なんだ?」

「彼女が言っていることは本当でしょうか?人を近寄せないために、あんなスピーチをしたのは」

「あゆみさんはどう思う?」

「……もし、それが本当であれば、あなたはとてもとても、可愛そうな男ですわ」


 悲しげにそう語った。綺麗な青い瞳に水溜りがあるようにも見れた。

 初対面なのに、このように悲しんでくれるのは、彼女の優しさが身に占める。


「本当さ。俺は、学園のものと馴れ馴れしくする必要性がない」

「なぜですか?」


 ……俺が自殺するからだよ。

 俺はそんなことを口にせず、ただ笑っている。彼女はそんな態度をとる俺に疑問符を浮かべている。

 そして、人差し指を唇元に持っていき、こう語る。


「秘密事項だ」

「やっぱり、あなたは厨二病なんですわね」

「そうだな。高校でも卒業できない厨二病なのかもな」


 桜が散った木並みの下で俺たちは冗談を交わす。

 これから、3年間のこの高校にお世話になる。

 俺の願いが先か、この高校に卒業が先か、どちらが先に達成するのか、俺は密かに楽しみにしていた。

 よーし、これから、10億円稼ぐぞ!そして、あのクソ女から自由になるのだ。

 と、俺は一人で気合を入れていると、あゆみは「何をやっているのですか?」と尋ねられる。

 まあ、人生そんな甘くないよな。

 10億の謝金……どう返済すればいいのやら

 神頼みでもするか……

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