第6話 入学式はぶっ壊すためにある

『では、次は学園長からのご挨拶です』

 

 生徒会長の愛香が壇上で挨拶を終えると、ぷっくりしているおっさんが愛香と交代するように、壇上に出る。

 ここは劇場ホールだ。この東京美高等学校内にある施設の一つ。

学園の式典を行うためにある場所だ。だがしかし、学園のパンフレットを確認したところ、式典以外にもコンサート、演劇もこのホールで行われるのだ。

 半年に一度演劇部がここで演劇するらしい。

 俺はパンフレットを見ながら、「へー」と声を上げながら、壇上に目を向ける。

 学園長のスピーチが始まった。


『えーと。高校生の諸君、おはようございます。私がこの高等学校の学園長、坂本正田だ。諸君らはもう中学ではなく、高校生になったのだ、しっかりと将来のために勉強を励むように。みなさんの努力は無駄にはなりません。だから、この3年間はしっかりと勉強をするように』


 ああ、本当につまらないスピーチだな。

 俺は退屈凌ぎに、大きくあくびをする。どこの学校の学園長は退屈なことを言うのだな、と思いながら、壇上に控えている愛香を見つめる。

 彼女は真っ直ぐとこちらを見ていた。そして、俺にアイコンタクトを送る。

 次は、俺がスピーチする番だと、忠告する。


『そこから、もう一点。君たちに重要な話がある。この高校に転入生があります。彼は素晴らしい美術の才能の持ち主です。この絵画を描いたのは彼です。ご紹介いたします。そこに座っている、吉田健次くん。どうか皆さんに挨拶をお願いします』


 学園長が告げると、スポットライトがぱしんと、俺を照らす。

 おいおい。手を凝っている演説をするなよ。こっちもそんなにいいスピーチを用意していないだよ。

まあ、さすがはエリート学校、やり方が他校とは違う。

 俺は立ち上がる。みんなの目線が俺の方へと集中した。

 馬鹿どもめ。俺は天才であることを教えてやるよ、覚悟しておけよ。特に、愛香。お前の期待を裏切るぞ。

 ここはルノワール先生の出番を披露するべきだな。


「おっぱい……」


 俺がぽそっと言葉と、周囲の空気が緊張を走る。

 耳を疑ったのか、学園長の頭の上にはてなマークを浮かばせている。ホール全体に沈黙が走る。

 聞こえるか聞こえないかの音量で喋ったからだ。みんなが俺の言葉に耳を傾けている。

 よし、狙い通りだ。みんなが俺に注目したぞ。

 次の瞬間、俺は大きく空気を肺に吸ってから、次に俺は大声で叫ぶ。


「おっぱいがなければ、俺は芸術家にはなれなかった!おっぱいこそ、俺の人生だ!俺の名前は吉田健次だ!坂本愛香に推薦されたエリート生徒だ!よく、覚えていろ!」


 かちり、と空気が真っ二つに割った音が聞こえた。冷たい風が吹くと共に、この場は氷付けた。

 誰もかもが、目を大きく見開きして、俺の方を見つめていた。

 その目はまるで、こいつは何を言っているんだ?と疑っているようでもあった。が、しかし、徐々に状況を理解できた生徒たちは口を開き出す。

 そして、数秒の沈黙の果てに、学生のブーイングがホール上から浴びさせる。


『おい、何だよ。この転校生は!』

『ひ、卑猥ですわ』

『この変態!』

『あはははは、この転校生はおもしれえわ』 

『生徒会長の推薦生徒だってよ。草』


 罵詈雑言の雨霰だ。

 俺はブーブーと、ブーイングの声をあびながら、凛々しく立っていた。

 状況が狙った通りに、行ったため、爽快感を感じる。この緊張した空気をぶっ壊してやったぞ。愛香。お前の推薦エリート生徒はただの変態野郎だ。

 お前の面子もここで壊れていく。

 フハハハハ、どうだ、愛香!

 これがお前への復讐だ。

 不意に、壇上の裏の方を見つめると、愛香は今でも笑っている。

 全く動じない様子で、にっこりと、俺の方を見つめていた。そして、彼女は何かしらのスイッチを取り出す。

 ま。まずい!あれは電撃スイッチ!

 など、俺が考える前に彼女はそのスイッチをポチッと押す。


「ぎゃああああああああああああ!」

 

 と、俺はその場に踊り狂う。なぜならば、稲妻が体中に走り出す。毛穴が逆立ちするのを感じとる。痛みが、増していく。今まで感じたことがない電圧に、俺は悶絶しながら、踊った。

 相当電圧を上げた。どうやら、相当怒らせてしまったのだ。

その場の生徒たちは俺が踊り狂っている様子を見て、ギャハハ、大笑いをする。

 この転校生は、変態で面白おかしく演技する、芸術家である。

 くそ、場を壊したのは狙い通りだけど、電流をくらうのは思いも知れなかった。

 おのれ!坂本愛香!

 いつか、この首輪を取って、お前を陵辱してやる!

 まあ、今の俺のちっぽけの根性だと、やる勇気はないけどな!

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