第三章 ふるえる肩
そして、今。
俺は握りしめていた缶ビールを飲み干すと、コンクリートの床にそっと置いた。
コトリと、音がした。
スクリーンではあの日、彼女と観た映画を上映していた。
主人公の若い兵士が戦場で手柄を立てて、褒美に故郷へ帰る途中だった。
軍用列車に密乗車していた、美しい少女と出会うシーンが再現されている。
モノクロの画面が、かえって新鮮で心を捕らえて離さない。
二人は次々と列車を乗り換え、時間を共にするうちに恋に落ちていく。
だが恋心を打ち明けるまでもなく、二人は別れてしまう。
休暇の期限ギリギリで兵士は故郷にたどり着き老母と再会するが、別れを惜しむ間もなく戦場に向かい、帰らぬ人となる。
農場が広がる地平線に沈む夕日を、じっと見つめる老母の後ろ姿で映画は終わった。
エンドマークの後、場内が明るくなり客が立ち去る中俺は座ったまま、ただの白い布になってしまったスクリーンを見つめていた。
そう言えば、あの日もこうして座っていた。
彼女が泣きじゃくっていたからだ。
震える肩が、ひどく小さく見えた気がした。
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