48話・陰の功労者

 ブリムンド王国第一王子ルキウスとシャーロット嬢の結婚式は予定通り開かれることとなった。二人は挙式の前日まで隣のモント公国まで出掛けていたが、ごく限られた者しかその事実を知らない。婚儀の前に王宮内の神殿で祈りを捧げていたことになっている。


「私も見たかったわ。あのラシオス様が膝をついて告白とか、なんてロマンチックなのかしら!」

「シャーロット様ったら。そんなに動かれては着崩れてしまいますわ」


 花嫁の控え室で、フィーリアはシャーロットの興奮を必死に抑えた。既に化粧を済ませ、宝冠ティアラ装飾具アクセサリーを付けている状態だ。下手に動けば直すのに手間が掛かる。


「でも、良かったわねフィーリアさん。ラシオス様が勝ってくださって」

「ええ。正直申し上げて不安しかありませんでした」

「愛の力は偉大だわ。そう思わなくて?」


 元はと言えば、フィーリアが未来の義姉であるシャーロットに相談を持ち掛けたことが今回の騒動の発端であった。


 親が決めた婚約者。王家との婚姻。それはまだ良い。貴族ならばよくある話だ。


 ラシオスは周りからどう見られるかを意識し過ぎて感情を表に出さぬようになった。常に家臣や国民の規範であろうと努めてきた。


 フィーリアも、いずれ王家に嫁ぐ身として幼い頃から覚悟を決めていた。誰よりも優秀で品のある女性になるために努力を重ねてきた。


 しかし、彼女には問題を抱える身内がいた。

 モント公国大公妃メラリアである。表立って問題にはなっていないが、様々な事件やトラブルの裏にいる存在。そんな身内がいる自分が果たしてブリムンド王国の王家に入っていいのか。将来何かに利用されないか。それだけが彼女の心を苛んだ。


 その悩みを打ち明けられるのは、自分より年上で同じ立場にいるシャーロットだけ。


 シャーロットは可愛い未来の義妹のために国を動かす決意を固め、ルキウスと国王に話をつけ、今回の計画を立てたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る