47話・一世一代の告白

「此度の決闘は俺の負けた。残念だが、フィーリア嬢の婚約者の座は諦めよう」


 言いながら、ローガンはラシオスに貸していた手をパッと離した。支えを失い、崩れ落ちるラシオスに手を伸ばすフィーリア。至近距離で手を取り合う形になった二人は思わず顔を赤らめる。


 どうしたものかとラシオスが視線を彷徨わせると、闘技場の隅で何やらハンドサインを出しているカラバスの姿を見つけた。そして、彼から教わったことを思い出す。


「フィーリア、聞いてくれ」

「?はい」


 その場に片膝をつき、ラシオスは目の前の婚約者を見上げる。胸に右手を当て、左手をフィーリアへと差し出した。

 ざわついていた観客たちも、何事かと声をひそめ、成り行きを見守る。




「君との婚約は親が決めたからではない。僕自身が望んだことだ。……フィーリア、共に生涯を歩んでくれないか。僕には君が必要だ」




 澄んだ声が闘技場内に響き渡った。

 観覧席の国民や貴賓席の周辺諸国の王侯貴族たちの前で、ラシオスはフィーリアに求婚したのである。


 これこそが従者兼護衛カラバスが授けた秘策。感情を表に出さない主人あるじに痺れを切らし「なにがなんでも勝ってフィーリア様に告白しろ!」と指示したのだ。

 普段のラシオスならば人前でそのような真似は出来ないが、今は少々酔っている。理性のたがを外したおかげで、これまで言えなかった言葉を口にすることができた。


 観客たちはしん、と静まり返っている。一世一代の告白に対して渦中の令嬢がどう答えるのか、ひと言も聞き漏らすまいとしているのだ。


 しばらく沈黙が続いたあと、フィーリアが大きく深呼吸をした。そして、大輪の花が咲くような笑顔を見せ、ラシオスが差し出していた左手を両の手のひらで包み込む。




「もちろんですわ。わたくしの婚約者はラシオス様以外におりません」




 その返事を聞いた瞬間、ラシオスの身体はぷつりと糸が切れたように地面に倒れ込んだ。

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