最終話・幸せになる義務

 ついに結婚式が始まった。


 ブリムンド王国の王宮内にある大聖堂には近隣諸国から招かれた王侯貴族が参列している。真新しい赤の絨毯が白い内装に映え、柱や椅子に飾られた色とりどりの生花が会場を華やかに彩った。


 闘技場で戦った面々も正装し、何食わぬ顔で用意された席に着いている。戦いの場で見せた荒々しさとの落差に周囲の令嬢たちが色めきたった。


 主祭壇で聖句を捧げるのは大司教ルノー。彼の美声は大聖堂内に響き渡り、参列者の耳に心地良く届いた。天窓に施された装飾の色硝子越しに降り注ぐ陽の光が花婿と花嫁の純白の衣装に色を添える。


 夢のような光景を目の当たりにして、フィーリアはほう、と息をついた。そんな彼女の手を握るのは隣に座るラシオスだ。柔らかく穏やかな笑みを浮かべ、愛しい婚約者を見つめている。


 決闘翌日は丸一日寝込んだものの、今はすっかり回復している。世紀の告白を終えた彼はどこか吹っ切れたようで人前でも憚らずに愛情表現するようになった。


「いつか、僕たちも」

「ええ」


 その言葉に、フィーリアは彼の手を握り返した。


 全ての問題に片を付け、憂いのなくなった二人にはもう迷いなどない。

 たくさんの人に協力してもらい、たくさん助けられた。ラシオスとフィーリアには幸せになる義務がある。それでも、これまで感じてきた責任や不安に比べれば心は軽い。


 そんな二人を後方の席で睨み付ける存在があった。ローガンだ。彼は親友ルキウスの晴れの舞台を祝福しながらも、その弟ラシオスから想い人を奪い損ねたことをまだ悔しがっていた。


「オレはいつ結婚できるやら」

「まあまあ。ボヤくと幸福が逃げますよ。運命の相手は意外と近くにいるかもしれませんから」


 呑気に笑うヴァインに、ローガンは小さく溜め息をついた。


 結婚式後の披露宴で彼は一人の令嬢と運命的な出逢いをするのだが、これはまた別のお話。







「愛を語るなら闘技場で。」完

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