第7章 大公妃と侯爵令嬢

34話・高位貴族の威圧

 再び剣を交わし合う二人の王子たちへの歓声が飛び交う闘技場。観覧席の中ほどに位置する貴賓席のひとつ、モント公国に割り当てられたブースでこのような問答が行われていることを知る者は少ない。


「大叔母様の側仕えで自由に動ける手駒はもうおりませんね」


 闘技場に出入りする際、貴人がお供を何人連れてきたかは記録されている。大公妃メラリアの三人。ここに居る二人と、先ほど別の貴賓席で捕まった一人だ。


「ラシオス様たちの動きが止まったら撃つように命じられたのですよね。何故でしょうか」


 淡々と問うフィーリアは、まだ十六という若さにも関わらず冷静に振る舞っている。血縁とはいえ相手は大公妃。侯爵令嬢の彼女より遥かに身分が高い。


 その身分の高さ故に、メラリアは寛大な心をもって無礼な闖入者ちんにゅうしゃたちが同じ貴賓席に在ることを許していた。居ても居なくても同じ。少々五月蝿うるさい小動物のようなもの。どうせ自分に牙など立てられないのだから、とたかくくっていた。


 実際、これまでも大小様々な悪戯をしてきたが不問とされた経験しかない。今回も大したことではないと本人は考えているが、自分より下の者にいつまでも偉そうに喚かれることには我慢がならなかった。


「あなた、あたくしに意見するの?」

「……ッ」


 高位貴族の威圧。侍女二人は即座に両膝を床につき、こうべを垂れた。カラバスとヴァインは強く押さえつけられるような感覚を覚えたが、辛うじて耐えた。


 平然と立っているのはフィーリア唯一人ただひとり


「あなたは賢い子ですもの。あたくしの不興を買えばどうなるか解っているわよね?フィーリア」

「ええ。大叔母様は絶大な権力をお持ちになっておりますから」


 これ以上この件で意見するなというメラリアからの警告に対し、フィーリアは頷いてみせた。ここで退かざるを得ないか、とカラバスとヴァインが唇を噛む。


 しかし、フィーリアに退くつもりは全くなかった。

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