29話・追及

 他の貴族が連れている侍女より上等な衣服を身に付けた大公妃メラリアの侍女たちの、ふわりと膨らんだドレスの中からクロスボウが見つかった。

 同行していた警備兵の中から女性兵士が前に出て侍女の太ももに固定されたクロスボウと矢を外し、闘技場から回収された矢と見比べて同じものだと断定する。


「さて、これはどういうことでしょうか」

「この者たちはあたくしの護衛です。護衛が武器を携帯して何か問題でも?」


 女性の貴人が女性の護衛を傍に置くこと自体はよくある話だ。周囲にそうとは悟られぬよう、使用人のふりをすることも珍しくはない。


「この狭い貴賓席で、護衛が持つ武器がクロスボウ遠隔武器とは妙ですよね」


 つい先ほどカラバスが一人目の侍女のドレスを捲るという不埒な真似をしたと言うのに、もう一人の侍女は何もせず壁際で控えていた。彼女が本当に護衛ならば、この時に行動に出るべきであった。

 ヴァインの指摘にメラリアは扇で口元を覆い隠し、フンと鼻を鳴らした。


「それがなんだというの。……あたくしを怒らせて、ただで済むと思って?」


 モント公国は鉱山資源に富んでおり、小国にも関わらず発言力がある。大公妃は国家元首の太公に次ぐ身分。不興を買えばどうなるか。

 しかし、ここはモント公国ではなくブリムンド王国。例え大公妃といえど、彼女が好き勝手にできる場ではない。


 睨み合うヴァインとメラリア。

 そこへ警備兵が左右に割れて道を作り、一人の令嬢を貴賓席の内部へと招き入れた。


「大叔母様、もうおやめください」


 凛とした声に、メラリアは口元を扇で隠したまま、ぴくりと眉を上げた。


「……フィーリア」


 フィーリアはドレスの裾を摘んで腰を屈め、目上の身内であるメラリアに対し、形式上の礼を尽くした。ゆるく巻かれた金の髪がさらりと流れる。


「貴女、どういうつもりなの」

「大叔母様の悪事は調査済みです。過去のことは勿論、此度の企みも全て」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る