28話・発見された凶器

 突然ドレスを捲ったカラバスの暴挙に、その場は騒然となった。膝まで覆う純白のドロワーズが露わになり、侍女が羞恥で赤くなる。

 闘技場での決闘に見入っていた貴婦人も、さすがに自分の侍女が辱められて黙ってはいられない。手にしている扇で自らの膝を軽く打ち、カラバスとヴァインを一瞥する。寝椅子カウチに腰掛けたままだというのに、二人は貴婦人から見下ろされているかのような錯覚を覚えた。


「貴方たち、誰の前で狼藉を働いているかご存知?あたくしの侍女に手を出すなんて、その勇気だけは誉めてさしあげるわ」


 決して大きな声ではない。口調も穏やかであるが凄みが違う。ヴァインは膝をつきそうになる衝動を抑え、貴婦人に引き攣った笑みを浮かべながら頭を下げた。


「これはこれは、モント公国大公妃メラリア様の御前だと言うのに連れが大変失礼な真似を致しました」

「挨拶など要らないわ。あたくしは王子たちの決闘を見届けたいの。さっさと出ておゆきなさい」


 こうしている間にも眼下の闘技場ではラシオスとローガンが木剣を振るっている。目を離した隙に決着がついてしまうかもしれないのだ。大公妃メラリアはヴァインたちを睨む傍ら、ちらちらと視線を闘技場に向けている。


「早く出ておゆき。警備兵に摘み出されたいのかしら」


 彼らをここへ導いた存在こそ警備兵だという事実を大公妃メラリアはまだ知らない。

 度重なる退出命令にも関わらず、二人は貴賓席から出て行こうとはしない。それどころか、カラバスは更なる暴挙に出た。


「度々申し訳ないッ!」

「きゃああ!」


 先ほどの侍女ではなく、壁際に控えていたもう一人の侍女のドレスを捲ったのである。


「なっ!」


 二度目の蛮行に、メラリアは再度絶句した。


「……おや?これはなんでしょうね」


 ヴァインが勝ち誇った笑みを浮かべた。

 侍女のドレスの中、太ももにベルトで固定された小型のクロスボウを発見したからである。

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