27話・ガサ入れ

 警備兵からの報告を受け、カラバスとヴァインは揃って闘技場から裏へまわった。

 そばに居ても、王子たちを見守ることしか出来ないのだ。ラシオスの体力が尽き、動きを止めればまた何処からか矢が放たれる。その前に、決闘に横槍を入れる不届き者を成敗するほうが先決。


 容疑が掛けられた人物の貴賓席に急行し、扉をノックする。すると中から若い侍女が顔を出し、「いかがなさいましたか」と柔らかな口調で尋ねてきた。開いた扉の間から内部を見れば、備え付けられた大きな寝椅子カウチには一人の貴婦人が腰掛けており、後ろを振り返ることなく闘技場を見下ろしている。侍女は二人。護衛の姿はない。


「失礼だが、内部を改めさせていただきたい」

「まあ。何かありましたの?どうぞどうぞ」


 突然の申し出にも関わらず、 侍女は快く招き入れてくれた。カラバスとヴァインは貴賓席に入り、内部をくまなくチェックした。小部屋程度の広さで、テーブルと寝椅子以外はお茶を淹れる道具などが納められた棚があるだけ。何かを隠しておくようなスペースなどない。


「何か見つかりまして?」

「……いえ」


 声を掛けてきた侍女を見れば、他の貴族が連れている者より上等な衣服を身に付けていた。布地の高級さはもちろん、ドレス部分もふんわりと膨らみ、下級貴族の令嬢並みの装いをしている。


 不審物を隠す場所など貴賓席にはなく、もし別の場所に隠されれば証拠はない。あらゆる状況が『ここが怪しい』と裏付けているのに、何も見つかねば追及もできない。


 どうしたものかと思案するヴァインの隣で、カラバスは覚悟を決めた。こうしている間にも、主人あるじであるラシオスが力尽きてしまうかもしれないのだ。迷っている暇などない。


「大変申し訳ないッ!」

「きゃああっ!」


 何を思ったか、カラバスは目の前に立つ侍女のドレスの裾を掴んで一気に捲り上げた。甲高い悲鳴が上がり、流石に貴婦人も振り返った。

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