第2話

テレビ局会議室。

そこには三原、海斗等のドラマ関係者やスタッフが集められていた。


「あの、漆間さんは?」


プロデューサーが聞けば、三原は苦笑いをした。


「来るとは思うんですけど…アイツ、ちょっと反対派なところがあるのでもしかしたら…」


「え、そうなんですか?」


海斗が聞くと、表には出てないがあれは嫌がってる、と三原が答えた。

三原はだいぶ前に送った、今どこー?の返事を確認していると、ガチャ、と会議室の扉が開いた。


「漆間さん来ました!」


「あの人が…」


スタッフに連れてこられた漆間が来た。

着崩した黒いスーツに、黒いネクタイ。

海斗より幾分か背が高く、スラッとした佇まい。少し気だるそうな雰囲気は、似てるかもしれない。


「漆間さん!来てくださってありがとうございます!」


「いえ、俺は直ぐ戻らなきゃいけませんので。」


「え?でも今日はお休みだと聞いてますが…」


「俺に呼び出しがあったので。とりあえず誰が俺をやるのか見に来ただけです。」


「そ、そうですか…それなら急ぎましょう。」


嘘だと三原は気づいているものの、何も言わなかった。漆間は最初からこの会議に参加するつもりなんて無い。

監督が四季くん、と呼べば海斗が立ち上がった。


「四季海斗くん。彼が貴方の役をする事になってます。」


「四季海斗です。よろしくお願いします。」


「…漆間だ。」


「何か、昔の漆間に似てない?」


そこへ三原が声をかければ、知らねぇよ、と辺りを見渡した。


「じゃ、俺はこれで。」


「え、早っ!!」


「仕事で忙しいんだ。三原!あとはお前がやっとけ!」


「えー俺よりお前の方が当事者だろーよ。」


「黙れお前の仕事増やす。」


「ちょ、やめてよ!!」


「精々俺に扱き使われろ。」


「俺とお前、階級、一緒。OK?」


「俺が1年先になった。」


「クッソ…!」


「では、俺はこれで失礼します。」


漆間は三原を笑ってから、本当に帰って行った。


「全く、人任せなんだから…」


「…漆間さん、いつもあんな感じ何ですか?」


んー、三原は両手の指先を合わせニコッと笑った。


「まぁあんな感じかな?」


「ふーん…」


「苦手でしょ、君。」


「えっ。」


漆間のあの態度が、海斗は苦手だと思った。

人の話を聞かないような、圧があるというか…

思わず苦手意識が芽生えたのを、三原に当てられてしまった。


「アイツ、誤解されやすいっていうか…口は悪いけど良い奴だよ。真っ直ぐな奴。ただ、これに関しては、さっきも言った通り反対派なところがある。だからちょっと非協力的なのよ。」


「…三原さんはどう思いますか?」


「俺は…どっちでもない、かな?」


「中立、ですか。」


「うん。そっとしておいてー!とも思うし、いい加減乗り越えろ、とも思う。今そんな狭間にいるかな。」


「そうなんですか…」


「俺も、アイツの事はわからんでもないしね…」


三原は、自分では気持ちの整理がついているつもりでいる。多少なり昔よりかは前に進んでると思う。しかし、漆間はそうはいかない。


「止まったまま、動いてないからな…アイツ…」


「止まったまま…?」


独り言の様に言っていた言葉を、海斗が思わず拾ってしまった。

三原は少し驚いたかのように海斗を見れば、慌てて海斗は謝った。


「すみません、聞こえちゃったもので…」


「いいよ。聞こえたものは仕方ない。気になる?」


「えっと…」


気になると言えば、気になる。

自分の役のモデルなのだから、少しは役作りに役立てたい。三原はそれを察してか、アイツね、と口を開いた。


「ずっとあの格好なんだよ。」


「あの格好…黒スーツと黒ネクタイですか?」


「そ!」


「ずっとって、何時から何ですか?」


三原は海斗を見て、少し、悲しい表情をした。


「あの子の葬式から、ずっとね。」


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