雪解け

二階堂由美

第1話

「いい加減、前を向こうと思う。」


煙草を咥え、優しく笑った。


ーーーーーーー……


漆間は歩いていた。

口にはココアシガレット。

ドカドカと歩きながら、自身の所属する部署へ足を踏み入れた。


「よっ!おはよーさん。」


「はよ…」


「眠そうだなーお前。」


「徹夜して家帰って寝てまた出勤…休んだ気がしねぇ…」


「働く者の使命…!」


「嬉しくねぇ。」


ガリっとココアシガレットを噛んで、自分のデスクに座り天井を仰いだ。

すると三原はそう言えば、と漆間の顔を覗き込んだ。


「あれ、ドラマ化決定だってよ。」


「……マジか…」


「大マジ。何でも、警察全体の戒めの為だと。そっとしとけばいいのに…」


5年前に起こった、警視総監の息子が一家を殺害したあの事件。隠蔽、冤罪、証拠改竄…あの事件は酷かった。その事件を今回、ドラマになるんじゃないかと噂があった。

漆間は気には止めてなかったが、漆間が来る前に、それが正式決定したと知らせが入ったのだ。


「で、その話をする時間をくれって。」


「…俺?」


「上からのご指名。というか、お前功労者だろ?だからだろうよ。」


「功労者じゃねぇ。俺よりお前が行けよ。」


「まぁ俺も呼ばれてるけどさ…」


「話すつもりはねぇ。」


漆間は顔を戻し置いてある書類に手をつけた。

これ以上話はしない、三原は溜息をついたのだった。


ーーーーーーー……


「姉ちゃん。」


「ん?」


「相談あるんだけど。」


芸能事務所の事務員である桜と、事務所所属で桜の弟海斗が、隣の空いてる席に座った。


「これなんだけど。」


「えー…あ、オーディション受けたやつ?」


「そうそう。俺、この刑事さんやるんだけど…」


「え?!受かったの!おめでとう!!」


「俺犯人とか、そっちかと思ってたのに、この刑事さんだぜ?イメージ違くない?」


海斗は狂気的な役が多かった。

だが、今回に関しては刑事役というやったことの無い役に振り分けられたのだ。


「んー確かに。警視総監の息子さんっぽいよね、どちらかと言えば。何かハマるのがあったんじゃない?何か言われた?」


「監督がモデルの刑事さんに会ったことあるんだって。佇まいとか、雰囲気とか似てるとかで、ならべくそういうの忠実に再現したいし、何より俺の新しい一面を見てみたいって…」


「そっか。監督の言うことも分からなくもないなー。海斗なら大丈夫だよ。折角受かったんだから、頑張ってみよう!」


「…姉ちゃんがそう言うなら、やってみる。」


「うんうん!頑張れ青年!!我が事務所の名誉の為に!!」


「ちょっとよくわからない。」


止まった時間が、進み始める。



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