第8話「神、踊る」(1)



 神域。


 それは、旧神たちの住まう、神の領域。


 それは、深き森の深淵しんえんであったり、はたまた天をく霊樹のうろであったりーー竜神山脈の頂上であったりする。



 竜神山の頂上には、小さな白亜の神殿がある。


 過度な装飾はほどこされていない。


 無骨ながらも、上品で、そして美しい神殿だ。



 神殿からは、四方向に下り階段がついており、三〇フィート程下に、天輪てんりんのような、大きな輪っか状の白い台座があった。


 その円形は巨大で、竜人や白竜が何体並んでも、問題なさそうな程に見える。



 ふわっ、ふわっ、とゆったり翼を舞わせて、その巨大な円形の台座に、白竜が着地する。



「【神聖】殿、到着致しました 」



 ウラナゥルさんの報告に、皆一斉いっせいに白竜から降りる。



 僕は、アゥスファさんにわきを抱えられて降りた。


 ちょっと恥ずかしい。



「ここが、神域……」



 僕はつぶやいて、辺りを見回す。



 頂上の神殿以外には、建物らしいものがない。


 大理石のような光沢のある真っ白い床が、山の向こうまで続いていているだけだ。



「あ、【神聖】殿、ここは神域ではありません 」


「え?」



 アゥスファさんの発言に、僕は思わず間抜けな声を上げる。



「ここは"竜着場"。我ら竜人族ドラゴニアや純竜が竜神様に謁見えっけんする場であり、神域ではないのです 」


「あぁ、そうでしたか……」



 少し早とちり。



「神域は、私どものような、神にあらざる者が立ち入って良い場所ではありませんので 」


「というか、そもそも入れないんですよ。神域は、神様以外の一切の侵入を拒むんです 」



 ウラナゥルさんが補足する。



 つまり、神域は、神様だけが入れるの……か。


 ……僕はどうなんだろう。


 アウト?セーフ?



「さ、竜神様がお待ちです。【神聖】殿、階段を登り、竜神様のたもとまでお進みください 」


「は、はい……」



 手でうながされるまま、僕は白亜の階段へと向かう。



 やばい。どうしよう。


 今更、「僕、自分が【神聖】かどうか知りませんよ?」とか言えない……。



 ちょっとつまんでそこら辺からポイってやれば、僕は死ぬんだ。


 反感を買うようなことは言えない……。


 今更引き返せない……!



 僕は冷や汗をかきながら、階段の目前まで到着する。


 チラッと背後を振り返る。



 三人とも、普通の顔だ。


 僕を疑っているようには見えない。



『どこからが神域ですかー!?』



 とか聞けない……!



「ふぅ……ふぅ……!」



 呼吸が荒い。


 動揺を隠しきれないまま、僕は一段目を登った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る