ライムの香りと血の匂い

 美しい夫を眺めながら私は残っていたジンライムを飲もうとグラスを手に取った。ふと見ると少しばかり赤みがかっているではないか、恐らく夫を彩る最中、夫の血液がジンライムの中に入ってしまったんだろう。ジンライムを夫の血液で割って飲むなんてそうそうない体験だ、そう考えると余り悪いものでもないのかもしれない。ジンライムの血液割りの味に興味が湧いた私は、胸を躍らせながらグラスを手に取り一息に飲み干した。ライムの酸味と血液独特の鉄のような匂いが入り混じり何とも美味だった。私はもう一度飲みたいと思い夫に目を向けた。しかしながら夫は腐りかけ、同じようにして血も腐り始めているだろう。私は惜しみながらも固定電話の方に足を向け、受話器を手に取った。酒の所為とは言え私は殺人犯だ、出頭しなければいけないだろう。

 それからは簡単だった、捕まって、ただ刑務所で五年を過ごすだけ。それだけだった。特に問題もなく、味気もない日々に何度首を吊ろうと考えたか。ご飯は不味いけど私の作ったものよりは美味かったから不満もなかった。それが不満だった。苦味でさえ味であり、時にはスパイスとなるのに。それすらないなんて辛かった。

 五年はいつの間にか経っていた、長いとも短いとも思わなかった。ただただ退屈だった。退屈な日々を、喉を潤す為アパートを借り、一人暮らしを始めた。前科者とは言えど食える仕事なら見つかった。雑用係は辛く、苦しいがそれもまた味というものだ。

 夜になり、疲れ果てた体を何とか動かして冷蔵庫に向かう。フルーツナイフとライムとジン。これがなければ始まらない。私はタトゥーを手首に彫りながら、ジンライムを楽しんだ。ああ、これだけは止められない。だけどまだ少し足りない。

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ライムの香りと血の匂い アルファポリスにて重複投稿 ソウカシンジ @soukashinji

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