第7話 コボルトを救え!前編

 太陽が微かに傾き始める午後3時、約束の時間。正直な所、サイモンは自分が指定した時間に間に合えるとは思っていなかった。不覚。予想外に色々押してしまった。しかしドラゴンの速度はこちらの想定以上にずいぶん速い。ぐんぐんジルベール骨董品店が近づく中、時計を見る…3時2分。いける。これならほぼ間に合ったと言える範疇だろう。

「あ、あそこです、降りてください」

 指を指すと、ドラゴンライダーが頷き手綱を操る。ドラゴンの翼がしなり、急降下し…ぶわり、ぶわり。両翼が大きく羽ばたいて減速、着地。なんとか無事辿り着くことが出来た。

「はーやれやれ。ありがとうございました」

「こちらこそ。またご贔屓にどうぞ」

 ベルトを外してもらい、ライダーの手を握ってドラゴンから降りる。あとは荷物をもらって運賃を…と思ったところで、

『遅い!レディを待たせるなんてけしからんなぁ〜サイモン君』

『やっと来たか』

 ジルベール、ビッグケットの声がした。くそ、もう着いていたのか。この様子だとしばらく待ったのか?ほとんど遅刻してないのに…

「って、」

 顔を上げたその先。二人分の人影。見慣れたはずの人達…なのに。

「なんだそれ」

『サイモン、お前。髪切ったのか』

 お互いぽかんとして見つめ合ってしまった。

 ビッグケットは両肩を出した漆黒のドレス…大きく胸元を開けたドレスを着ており、波のような裾、大胆なスリットから太腿が覗いている。優雅に微笑む唇には真っ赤な紅。細められた目元にも赤いアイシャドウが塗られていて、瞬きする度に鮮烈な色が煌めく。黒、赤、金、赤、黒。丁寧に梳かされ、風に流れる黒髪との対比が美しい。

 元々素材がいい物を更に飾り立てたその姿。それはまるで舞踏会に行く令嬢のようであり、悪趣味な酒場の接客嬢のようでもあり…天使のような悪魔のような。美とは、こうも人を翻弄するのか。思わずごくりと唾を飲んだ。

『ビッグケット…ドウシタンダ、ソレ』

 しばらくの無言の後、サイモンがなんとか絞り出した言葉。すると、それを聞いたジルベールはバン!とサイモンの肩を叩いた。

『はぁ〜?!酷くない!??こんなに可愛いのに!男ならもっと褒めてあげなよ!!』

 いや、わかっている。そんなこと。でも、そんな歯が浮くような言葉は彼女に相応しくない。無意識に俯いてしまう。

「ごめん…綺麗すぎて怖いくらいなんだ、ビッグケット。可愛いなんて軽い言葉…違う。もっと華やかで、毒があって、そうだ、」『ビッグケット。コノ世界ノドンナ生キ物ヨリ綺麗ダ。人間ジャナイミタイ』

 率直に表現するならこうだと思った。エルフよりも天使よりももっと崇高な。一段上の何かに見えたんだ。

『…ふふふ。ありがとう』

 意を決して本音の賞賛を贈ると、猫耳と尻尾を揺らしてビッグケットが微笑む。磨き上げられた外見とは対象的な、少々幼い笑顔。それを見てようやく、ああ…あのビッグケットか…と心が落ち着くのを感じた。

『でも、サイモンも服と髪型変えたんだな。男前になったじゃないか』

『あっそうだ、サイモン君!?随分見違えたね、新しい髪型似合ってるよ』

「おう…」

 そこで二人からこちらの感想が返ってくる。よく見ると、ジルベールも眼鏡を外して髪を整え、少し良い服を着ている。なんだなんだこいつら、この姿で外を彷徨うろついてたのか。めちゃくちゃ目立つじゃねーか。

『イヤ…オ前ラヲ見テカラダトアンマリ…自信無クス…』

『えー、そんなことないよ!この服高そうだね〜、いい布使ってるじゃない。さっきまでボロボロの安物着てた人とは思えないかっこよさだよ?』

『ウン…アリガトウ…』

 さすがにジルベールは物の価値がわかる。一目でこの服が高いと見抜き、笑顔で頬を紅潮させた。しかし肝心の、もっと褒めて欲しかったビッグケットには物の良し悪しなどわからない。あいつの目には「そうか髪を切ったんだなぁ」くらいにしか映ってないだろう…少し落胆してしまう。すると。

『私が人じゃないみたいなら、お前はさしずめ王子様っぽいって感じかな。金の髪も、緑の目も、私にはないから。すごく素敵に見えるぞ』

 白い牙を覗かせてビッグケットが笑った。王子様みたい。そんな概念こいつの中にあったのか。ゆっくりじわじわ、口角が上がってしまう。サイモンはへへ、とぎこちない笑みを浮かべた。

『ソッカー、王子ミタイカー、ソッカァ』

『良かったね〜、外見磨いたかいあったねぇ?まぁサイモン君元々そこそこなんだから、これからは頑張りなよね』

「お前は一言うるせぇんだよ」

 ジルベールがサイモンの肩を気安く叩くので、青筋を立てた彼は思わず横に佇むエルフの鳩尾を肘打ちしてしまう。ドンピシャで急所に入ったらしく、むせこんだが知らん。それを見たビッグケットがげらげら笑ったところで。

「あの…お客様。運賃の支払いをお願いします…」

「あっ」

 おずおずとドラゴンライダーが話しかけてきた。そうだ、うっかりまだ払ってなかった。待たせてすまなかったな。サイモンは思わず何度も頭を下げた。

「すみません、ありがとうございました。いくらですか?」

「銀貨2枚です」

 言われて白金に輝く硬貨を袋から摘み出す。差し出されたライダーの手にそれを乗せる。

「はいどうぞ」

「どうも、確かにいただきました。またご贔屓に」

 するとドラゴンライダーとドラゴンは綺麗に一礼し、また空に舞い上がっていった。今日何度かドラゴンに乗ったが、ここまで芸を仕込まれた見事なドラゴンは初めてだ。思わず空を見上げてしまう。…と、視界に別のドラゴンが入ってきた。ぐんぐんこちらに近づいてくる。

「えっ?!」

 それはライダーのいない小型の翼竜だった。呆気に取られるサイモンたち3人の目の前に、そいつが鮮やかに着地する。その足に巻き付いているのは紐と鍵。

「あっこれ!僕の店の鍵だ、もしかしてずっと探してくれてたのかな?!ごめーん!!」

 それを確認した途端、ジルベールが駆け寄り鍵を外す。店の鍵?なんで?

「なんで店の鍵をドラゴンが?」

「いやー、今日荷物運ぶのにドラゴン便頼んだんだよね。鍵を渡して中に運んどいてくれって。でも僕達そのあと色々移動しちゃったから、鍵返せなくて困らせちゃったみたい。いや〜ごめんごめん」

 ジルベールが竜の頭を撫でると、クルル。と喉を鳴らしたそいつはまた忙しなく空へ旅立っていった。…偉い。勝手にいなくなった客をちゃんと捜索、識別して物を渡せるなんて。

「ったく、俺達の荷物が店にあるんだろ?しっかりしてくれよ」

 危うく店の扉が開けられなくなる所だった。サイモンが軽くジルベールを睨むと、

「ごめんってば…いや、ごめんなさい。以後気をつけます。で、」『ビッグケットちゃん、店の鍵返してもらったよ。これでいつでも君たちの荷物返せるからね』

『あーさっきの。わかった』

 ジルベールは二人それぞれに言葉を返した。ビッグケットは事情がわかるようだ…したり顔で頷いている。…さて。必要な物も揃ったみたいだしそろそろ行くかな。

『ジルベール、ジャア俺達モウ行ク。ビッグケットト買イ物アリガトウ。マタ今度飯奢ルカラ」

『あ、もう行くの?わかった、じゃあまた後でね。僕ずっとここに居るから、夜中でも大丈夫だよ』

『いや大丈夫、どうせそんなかからないぞ。それなりに早く来るはずだ。またな』

 互いに別れの言葉を交わし、ジルベールと別れる。サイモンがビッグケットと肩を並べて歩き出すと、衣擦れの音の後華やかな甘い香りがして少し驚いた。こんなに滅茶苦茶飾り立てなくても、雑に手足を投げ出してるだけでも、こいつは可愛いんだけどな。

(…まぁそんなこと言わねーんだけどさ)
















 これから舞踏会にでも行くのかとばかりに着飾った全身黒い獣人少女と、高価な布を贅沢に使った長衣を身に纏った金髪の男。そう俺。この取り合わせは、さすがに道行く人の視線を集めた。それはさながら、いつかぶつかった金持ち人間ノーマンの夫婦のようだったろうか。そうなれていたら嬉しいが…

 その二人が辿り着いた東部内北部、不動産屋。いざ物件選択の時。最高の便利と近隣へのアクセス、どちらがいい?とビッグケットに聞くと、

『便利な奴がいい!!!』

 と力一杯の返答が返ってきた。彼女の目の先にはサイモンが見ていた物と同じ資料。そして内装を伝えるための挿絵があった。

『お風呂もキッチンもあるのいいなぁ〜、洗濯も勝手にしてくれるんだろ?すごいなぁ〜〜』

 せっかく引いた口紅が唾液で溶けるんじゃないかと思うくらい、ビッグケットは口を緩ませて資料を見つめていた。いやでも近隣とのアクセスって地味に重要事項だぞ?

『ナァ、買イ物遠イノッテケッコウ大変ダゾ?後デ後悔シテモ遅イゾ?大丈夫カ?』

『やだーーー、風呂入りたい!水じゃぶじゃぶ使ったって金はあるんだろ?!』

『イヤ、水代クライ平気ダケド…』

 店員に解読できないケットシー語で喧々話し合うサイモン達。それを見た店員がおずおずと話しかけてくる。

「あの、お客様。意見が割れてるのはどの部分でしょう」

「あ、いえ。この子は最新設備の物件がいいって言ってくれたんですけど、やっぱりアクセスの悪さが気になって…」

 へらりと愛想笑いするサイモン。すると、人魚の店員ともう1人の店員が真剣な面持ちで目配せする。

「あの…何か?」

「いえ、もし。お客様が本当に金銭に糸目をつけないとおっしゃるなら、オススメしたい商品がございます」

「え、他の物件ですか?」

「違います」

 すると、もう一人の方の店員が緊張したような顔でカウンター下の扉の鍵を開け、何かを取り出した。これは…丸めたラグ?

「お客様。この世には空飛ぶ絨毯というマジックアイテムがございまして」

「そらとぶじゅうたん。」

「これがあれば多少のアクセスの悪さは吹き飛ぶと思うのですが」

「おいくらですか?」

「金貨10枚でございます」

「買いますね」

 脳死。サイモンの瞳は何の思考も感情も映していなかった。しかし確かな声音。そのまま財布袋を取り出し、金貨10枚数えてカウンターに並べる。店員はその即断即決ぶり、気風の良さに目を丸くしていたが…

「つまり、これで歩かなくても移動出来るんですね?」

「そうです。ではあの、物件は…」

「最新マンションでお願いします」

「かしこまりました…」

 決定。無事決定である。そんな便利な物があるなら、なんならドラゴンライダーもそれほど必要なくなるかもしれない。ドラゴンは建物を越える分、充分速いが…何せこちらは金貨10枚ぽっきりだ。むしろ安すぎないかこれ?

「魔法の絨毯って…安いんですね…」

「あの、金貨10枚を安いと表現して即金で買われたお客様は初めてですけど…」

「アッ、そうですね?そうですよね?ハハハ…」

 店員二人と笑うサイモン。最早金貨10枚の価値がわからない。いや、こうなるとグリルパルツァーのステーキめちゃくちゃ高くないか…?いやめっちゃ高いけど。どんだけ食ったの?あーもうなんなんだろう。

『なぁ、なんだそれ?ラグ??』

 そこで好奇心で目を丸くしたビッグケットが話しかけてくる。そうだ、ちゃんと通訳してやらないと。

『コレ、魔法ノ絨毯。コレニ乗レバ歩カナクテモ移動出来ル。コレヲ買ッタカラ、物件ハ最新ノ奴ニスルゾ』

『本当!?やったぁ!』

 もしかしたら、これが彼女と出会って以降、一番の笑顔を浮かべた瞬間だったかもしれない。華が咲いたような本当に明るい笑顔だ。サイモンも思わず口元を緩める。

『ヨシ、ジャア最後店トヤリトリ。書類書イタラ終ワリダカラ』

『あんがと!』

 その後、書類に目を通し説明を受け、必要な情報と名前をサインして契約。物件の鍵と地図をもらい、これで晴れて新居のオーナーに……

「あっ。」

『どうした?』

『アメーリアサンニ最後ノ挨拶忘レテタ』

『…えーと、ノームの大家だっけ?掃除終わりましたって?』

『ソレ』

『……………。行こう。』

 仕方ない、魔法の絨毯の試運転がてら行ってくるか。早速店員に使い方を教えてもらう。

「まずは所有権の情報をお客様に変更します」

 店員が床に絨毯を広げ、ポンポンと叩くとふわりと端がめくれる。反応している。そこに店員が声をかける。

「所有者譲渡、この声を聞けウォクス・アウスクルターレ

(…お客様の名前を仰って下さい)」

 小声でこちらに話しかけてくるので、言われた通り名前を告げる。

「…サイモン・オルコット」

 すると、なんと絨毯が光った。うっすらだが、確かに微かに青く光った。これでいいんだろうか?

「よし、これで権利譲渡は成功です。絨毯が所有者は男性、サイモン・オルコット様と認識しています。あとは上に乗って、浮かんでとか前に進んでとか右に曲がってとか、声で指示を出すだけです」

「へぇ〜〜〜〜、すっご…」

 せっかくなので、実際に乗って試してみる。まずはサイモン。そして後ろにビッグケットが座り、準備オーケー。指示を出してみる。

「…浮かんで」

 一言呟くと、二人分の重さなど物ともせずすっと絨毯が浮かび上がる。すごい。さらに進んでみる。

「ゆっくり前に進んで」

 細かい指示を出しても、絨毯はちゃんと聞き分けている。店内で突然壁にぶつからない程度に、そろりそろり前進した。すごすぎる。なんて便利なんだ。図らずも、これで買った荷物を運ぶのも楽ちんだ。

「あの、このままお帰りになります?必要ならそこの扉開けますよ」

「お、いいですね。じゃあお願いします」

 すると店員が二人、笑顔で扉に向かってくれる。右と左、両側から。重い音を立てて扉が開かれたので、そのまま外に出る。

「前に進んで!」

 すぃ、すーーぅ。滑るように進む絨毯。だがいざ外に出ても、このままでは通行人にぶつかってしまう。だったら…

「もっと高く飛んで!」

 すると声の大きさに呼応したのか、ぐんと高度があがった。

「もっと!」

 さらに上に。これでそのへんの通行人の頭の上まで上がった。道行く人が目をまん丸にしてこちらを見上げている。そりゃそうだ、世の中空飛ぶ絨毯なんて生まれて一度も目にしたことのない人の方が大半だ。なんて気分がいいんだろう。

『うわーーーっ、楽しいな〜!』

『ヨシ、ジャアコノママアパートマデ行クゾ!』「前に進んで!」

 ドレスの裾を押さえ、弾んだ声を上げるビッグケットの気持ちがよくわかる。これは楽しすぎる。はためく二人の服、そして絨毯の端。サイモンとビッグケットはそのまま、たくさんの人に見送られながら西部ノーマンエリアに向かうことになったが…まぁ、この際恥ずかしいなんて言える立場ではない、か。

















「まぁまぁまぁ!二人とも見違えたわ!」

「へへ…最後の挨拶遅くなってすみません」

「そんなのいいのよ!それよりどうしたの、そんなにおめかししちゃって!」

 ノーマンエリア、第一の門内部。衛兵リンダにもしこたまイジられたが、大家アメーリアの驚きようはその比ではなかった。

「まぁーーーーかっこいい!可愛い!お金が手に入ったから身なりを整えたのね、とっても似合ってるわ!」

「ありがとうございます…。で、あの、掃除終わりましたので。今夜からは新しい家に移ります」

「うん、うん、お幸せにね!元気でね!!」

 なぜだろう、感激して涙まで流してしまったアメーリアさん。いやあの、めちゃくちゃ嬉しそうに手ぇ振ってるけど、俺達結婚するわけでもなんでもないよ…?なんか勘違いされてる???微妙なわだかまりはあったものの、これで無事引っ越しの手続き完了。あとは闇闘技場が終わったら新居に向かえばいいだけだ。…その前に。

『ヨシ、ジャア飯食ウカ』

『わーーい飯だぁ〜!』

 無邪気に両手を上げるビッグケットを見ながら、さて。今晩はどこに行こう?ここから東部に行くのは魔法の絨毯があってもだるいな…。じゃああそこかな。

『ビッグケット、今日ハオレノヨク行ッタ店ニ連レテクヨ』

『よく行った店?行きつけってこと?』

『アーソレソレ。アソコナラ中央南ダカラココカラスグダ』

 会話しながら、丸めていた絨毯を地面に広げ、よっこらせと座る。後ろにビッグケットが乗ったことを確認し、移動開始。

「高く浮かんで、前に進んで」

 途端にサイモンの意図通り動いてくれる絨毯。リンダと門の隙間をすり抜け、ぐんぐん加速する。

「左…真っ直ぐ…右…もう少し」

 建物の間をくねくね抜け、開けた所に出ると。

「止まれ!ここ!」

 人間用商店街ノーマンマーケットの一角。レンガで作られた素朴な店構えのそこは、まだ夜と呼ぶには明るいが既に灯りが灯され、たくさんの人で賑わっていた。漏れ聞こえてくる人々の楽しげな声。そして開けられた窓からは料理の香ばしい香りが漂ってくる。

『いい匂い!ここ何の店だ?』

『安イ食堂ダヨ。大食イノオ前ニハコウイウノガイイト思ウ。…ア、大食イチャレンジメニューガアルカラ食ベル?全部食ベタラ無料タダダゾ』

『わぁ〜、やりたーい!』

 和やかにそこまで話したところで、サイモンがドアノブに手をかける。カランカラン。賑やかにドアベルが鳴る扉をくぐると、店内の客の何人かがなんとなしにこちらを見た。

「……!!」

「?」

 瞬間的に冷えていく空気。わかってはいたが、この店の利用客はほぼ全員が人間ノーマンだ。そういえば、以前まではサイモン1人で利用していたのですっかり忘れていた。

(…獣人だ…!)

(うわっ、獣人の女連れ…酒場の女かな?)

(獣人とデートするならヨソでやってくれよ…)

 口々に囁かれる冷淡な言葉。そうだ、そうだった。あくまでノーマルな人間ノーマンは、だけど…亜人や獣人に抵抗があるんだった。この街で暮らしてるくせに、人間ノーマンばかりのエリアに引きこもってるような奴らならなおさら。

『…ゴメン、チョット早ク食ベヨウカ』

『?いいけど…』

 ビッグケットに、周りが陰口を叩いていると気づかれないうちに。とっとと食べてとっとと出よう。視線を伏せ、ため息をつく。こんなことならここに来なきゃ良かったかな…。サイモンがそんなことを考えていると。

「あれ〜、サイモン!久しぶり!…だよな?別の人じゃないよな??」

 彼に声をかける男がいた。振り返ると、オーダー表を抱えた若い店員が立っている。ああ、こいつ。赤毛にソバカスのこの男は、名前をニコラスという。過去何度も話したことのある顔馴染みの店員だ。

「よう、久しぶり。また食いに来たぞ」

「おっ、やっぱりサイモンだったか!えーーー、なんでしばらく来なかったんだよ〜?心配してたんだぞ〜」

「いやー、ちょっと前までめちゃくちゃ金欠でさー。でももうこの通り、髪切って服新調するくらい金持ちになったから。今日はガッツリ食べさせてもらうぜ」

「おーおー、食ってけ食ってけ!…で、このネコチャンは誰?」

 そこで視線がビッグケットに向かう。この男はさすが飲食店の従業員、肝が座ってるというか。普段仕入れなどで身近に接するのだろう、獣人に抵抗がないらしい。

「えーと…仕事のパートナー、かな…」

「仕事?今調子いいの?…あ、とりあえず座って。何食べる?いつものにする?」

「今日はグレードアップしま〜す」

 つらつら会話しながらニコラスが空いてる席を示すので、ビッグケットの肩を叩いてそちらに向かわせる。席について、机に置かれたメニュー表を手に取る。今日はずっと金があったら食べたいと思っていたメニューを頼もう。

「じゃ、今日はトマトと鳥のリゾット。コートレット(牛肉の薄切りカツ。ソースで煮込むのが定番)をつけて。こいつにはピラフとコートレットのチャレンジメニュー出して」

「え、このネコチャン女のコじゃないの?!あれを食べるの!?」

「大丈夫、こいつグリルパルツァー亭で金貨10枚分ステーキ食べた女だから」

「ひええ〜〜〜っ!!!」

 そこで一旦会話が途切れ、戦々恐々といった面持ちのニコラスがビッグケットを見つめる。澄まして黙っている分には、ビッグケットはクールビューティーと呼ばれる部類の顔をしている。目元と唇を赤く強調した今は尚更だ。日が傾くのに合わせて少し膨らんだとはいえ、縦長の虹彩をした猫の瞳が見知らぬ人間の姿を捉え、離さない。その美しい顔面の圧に耐えられず、ニコラスはサッと目を逸らした。

「…ホントに?ホントにこんなに綺麗なネコチャンがあれを食べるの?冷やかしじゃなく??」

「いや、むしろガチで完食目指すから。いいから注文厨房に伝えてくれよ」

「はい…」

 ニコラスがそこで奥に引っ込む。ビッグケットはそれを見送り、ようやく口を開いた。

『あれは馴染みの店員か?随分楽しそうに話してたな』

『ソウダヨ、金ガ多少アッタ時ハ大体ココデ飯食ッテタンダ』

『へぇ〜』

 そこでふと舞い降りた間。あんまりキョロキョロされると周りが嫌そうな視線を向けているのが見えるんじゃないかと肝を冷やしていたが、ビッグケットは特にそうすることもなく、サービスで出されたエールをちびちび飲んでいた。…口に合わないのかな?

『麦ノエールハ不味イカ?』

『うーん、やっぱりりんごのシードルの方が美味しかったかな』

『アア、コレハ慣レダカラナ。仕方ナイ』

 そんなことを話していると、もう早料理がやってきた。大衆食堂は料理が出るのが早いのも魅力だよな。まずはニコラスがビッグケットの前にドデカイ皿を置く。

「…チャレンジメニュー、ピラフとコートレットと芋のサラダの特盛です。完食したら無料、残したら銅貨6枚。ルール厳守でお願いします。あとトマトリゾットとコートレットね」

 次いでサイモンの前にも皿が置かれる。こちらは通常メニュー、通常サイズ。しかしビッグケットの前に置かれたのは、明らかに尋常じゃない量の山盛りピラフとその他メニューだった。

『わぁ〜、美味そう!すごい量!!』

 ビッグケットは嬉しそうに目をキラキラさせてるけど…これ、大丈夫か?

『…頼ンダオレガ言ウノモ悪イケド、闘技場前ニコレ食ベテ大丈夫?ソノドレスハチ切レタリシナイ?』

『全然大丈夫!むしろこれだけ食べたら絶好調で動けそう!』

『エッ…本当…??』

 とんでもない奴だ。普通の人なら“チャレンジ”して腹をパンパンにする量なのに、こいつはこれをウエスト絞ったドレスを着ながら平然と食べるという。ば…化け物だ…。

『そんなことより、せっかく引いてもらった紅を落とさないように食べることの方が大変だよ…頑張るぞー。いただきます!』

 そして、ビッグケットは。紅を落とさないというミッションがありながら、呆気にとられるサイモンの前で本当にもりもり食べ進め、普通の人間が普通に食べるような時間でなんなく皿を空にした。むしろ、呆然とそれを見ていたサイモンの方が遅いくらいだ。恐ろしい食欲、恐ろしい胃袋。ビッグケットが笑顔でエールを飲むのを見ながら、サイモンは背筋が凍るような気持ちで自分の料理を食べた。

「…えっ、まさか。ネコチャンこれ、完食したの…?」

「ああ、したよ。めっちゃ豪快にもりもり食べてたよ」

 しばし後、サイモンが自分の皿を空にしたくらいのタイミングで。先程のニコラスがこちらの様子を見に来た。ビッグケットの皿は見事に空っぽだ。あれだけ山と料理が積まれていたのに。

「…嘘でしょ?完食だけでもヤバいのに、早くない?どっか捨ててない??」

「気になるなら窓の外でもゴミ箱でも探してみろよ」

「…いや、チャレンジメニューは不正のないよう必ず誰かが見てることになってるから…多分、食べたんだよな…すごいな…」

「うん、こいつヤバいよ。色々ヤバい」

「怖…」

「ごめん…」

 押し黙るサイモンとニコラスをよそに、ビッグケットは暗くなり始めた窓の外を見ている。…いや、顔の角度を何度も変えている。窓に映っている自分の顔を見ているようだ。

『なーサイモン、口紅取れてないか?』

 いー。と歯を剥き、唇を引っ張り、左右から紅の色を確かめる。その仕草は色気の欠片もなかったが…

『…大丈夫…少シ取レタケド、アンナニ食ベテソンナニ残ッテルナラ上出来』

『よーし、じゃあ闘技場に行くぞ!』

『マジカ…本当ニピンピンシテル…スゴイナ…』

 よっこらせ、と立ち上がったビッグケットを見ても、特にどこかの幅が増えた様子はない。グラマラスとは程遠いが、すらりとした美しいウエストラインを保ったままだ。仕方ない、これは考えても時間の無駄だろう。今後はこれくらい食べられると考えて食料を用意してやらねば。サイモンも続いて立ち上がる。

「あんがと、ごっそさん。会計頼む」

「えっ、あ、うん…ありがとうございます………」

 傍らのニコラスに伝票を渡すと、彼はぎこちない仕草で伝票に何か書き込んだ。それは恐らく完食の文字。いやまぁこんなん、誰にも信じられないよ。相棒のサイモンにですら無理だったのだから。

『…ヤッタ、本当ニ会計俺ノ分ダケダ!』

『良かったな。あれすごく美味かったぞ、また食べたいな』

『アア、マタ来ヨウナ』

 会計後。連れ立つ二人の足取りは軽い。そして…ついに決戦の時がやってくる。

 闇闘技場2回戦。その開始時刻が迫っている。



 










 午後5時、開門の時間。

『少シ早イケド、モウ行ク?』

『まー、もうやることないしな。何かするには時間が足りない。もう行くか』

 ビッグケットが後生大事に持ってきた黒いストール。彼女はそれを肩から羽織り、堂々とした足取りで闘技場に向かう。夕日に染まる街角、橙色の空の下。並んで歩く二人の影が伸びる。

『今日は最初から堂々としてていいんだよな?』

『アア。今日ノオ前ハ勝チ抜キチャンピオンダカラナ。好キニシテロ。周リノ話ガ聞キタイナラ通訳スルゾ』

『…いや、それは要らない』

 昨日の喧騒を思い出したらしいビッグケットが顔を歪めるが、まぁ…昨日の勝者と知ってビビリ散らかす他の出場者はちょっと見たいんだよなぁ、などと思いつつ。本人が嫌がるならやめておくか。

 もう少しで大階段に続く隠し扉に辿り着く。一応関係ない通行人に見られないように…なんとなく周りに人がいないか見回すと。

「おい兄ちゃん、女連れで闇闘技場とは随分イイ趣味してんなァ」

 聞き馴染みのある下卑た男の声が聞こえた。これはもしかして…

「ボブさん。本当に来てくれたンスね」

「げっ、お前もしかしてサイモン!?嘘だろ!!?」

 それは昼間別れた元隣人のボブだった。こんなところで会うとは奇遇も奇遇だ。

「うわっ、めちゃくちゃ小綺麗だから気づかなかった。随分様変わりしたな!」

「へへ、どうも。金の力で変身しました」

「うええ、羨ましい!…で、そこのお嬢チャンは?」

「ああ、こいつが例のビッグケットです。可愛いでしょ」

「…はぁ!!??」

 例のごとく、とりあえず背中を押してビッグケットの顔を見せる。例によってわけがわからないビッグケットは、眉間にシワを寄せつつサイモンを見た。

『誰だ?この汚いオッサンは』

『ボロアパート住ンデタ時ノ隣人。今日引ッ越シノタメノ掃除ヲ手伝ッテモラッタンダ』

『ふぅーん…じゃあ私からも礼を伝えてくれ』

『わかった。』「ボブさん、こいつが引っ越し手伝ってくれてありがとうございましたって」

「いや、全然そんな顔にゃあ見えないけどな…」

「すいません、こいつ人見知りなんスよ」

 真っ赤な嘘だけど。懐疑的な視線を寄越すボブに、適当な嘘をついて笑うサイモン。何せビッグケットは気に食わない相手をすぐ殺す癖があるから…あまり険悪な雰囲気になられても困る。内心緊張しつつ、相手の言動を見守る。

「しっかし、随分とでかい嘘をついてくれたな。勝ち抜き戦に出るのが女の獣人だと?勝て、るのか?でもお前が金持ってるのは事実だよな。うーん…」

 そこで上から下まで、ジロジロと無遠慮にビッグケットを見つめるボブ。開いた胸元に、露わな太ももに、時折熱い視線を向けているのをビッグケットは確かに感じ取って、澄まして黙っているが尻尾を左右に大きく振っている。…あ、イライラしてるな。

「…すいません、そろそろ時間なんで。もう行きますね。とにかく、こいつに賭けてくれたら絶対勝たせますから。昨日の結果を知らない奴や、まだ信じきれない奴がいる今夜が勝負です。つぎ込んで下さい」

「…まぁ、お前がくれた金貨、せっかくだから使うけどよ。がっかりさせんなよ」

 それまでのイメージと比べて、あまりに細く荒事と無縁に見えるビッグケットを見て、不満げな様子のボブだが。まぁ見てろ。今夜も観衆全員あっと言わせてやるぜ。

『ビッグケット、行コウ』

『もういいのか。じゃあ行くぞ』

 何の変哲もない住宅街の、奥まった一角。その影に知る人ぞ知る隠された扉がある。苔むした小さなツマミをくるくる捻ると、鈍い石がぶつかる音がする。がこん。さらに少し凹んだ隙間を押せば、砂と石が擦れるような重い音を立てて少しずつ、塀が左右に分かれていく。

「何度見てもすごい仕掛けだよな、これ…」

 やがてぽっかりと闇が、人一人入れる程度の空間が現れる。下を見れば、地下へ降りる階段が口を開けている。ある人にとっては名誉と栄光の、またある人にとっては避けられぬ死に向かう長い螺旋階段。

 今日は1ミリの恐怖もない。梳かされた金髪を靡かせて、サイモンは強気の笑みを浮かべた。

『ヨシ、行コウ!』











「いらっしゃいませ。勝ち抜き戦への出場ですね」

 意気揚々と辿り着いた地の底。受付の男は今日も澄ました静かな笑みを浮かべていた。後ろから着いてきたボブが未だに信じられない、と言いたげな顔でサイモン達と受付を交互に見ている。…そうか、受付が今あっさり勝ち抜き戦って言ったんだもんな。うわぁ〜、こいつが本当に勝ったんだーーって思ってるんだ。全く愉快なことこの上ない。

「ああ、よろしく頼む。じゃあボブさん、またどこかで。うちのビッグケットをよろしくです」

 受付に参加の意思を示し、サイモンが奥の扉へ向かう。取り残されたボブは少し不安そうだったが…

「おう、勝てよ!ホントにこれ全部つぎ込むからな!!」

「楽しみにしてて下さ〜い」

 サイモンは去りながら軽く片手を上げるに留める。そんなに心配なら今夜の試合、じっくり見ててくれよな。早すぎてあっという間に終わるだろうから。瞬き厳禁!て奴だな。そのまま小ぶりな扉に手をかけ、それを潜るとビッグケットもついてくる。今日は恐れるものなど何もない。他の参加者のクソみたいな喧嘩も全力で買ってやる。

 ちらりと後ろを見る。暗い蝋燭の灯りの下、引き結ばれる真っ赤な唇。そしてビッグケットの大きな金の瞳が煌めいている。…今日は、昨日叶わなかった分まで。出来るだけ周りの悪意からこいつを守ってやりたい、衛兵の介入上等だ。

『…モウスグ着クナ。準備ハイイカ』

『ああ、万全だ』

 それはあらゆる覚悟も?そう聞きたかったが、その前に選手たちの控室に辿り着く。昨日も来たここ。そして…

「げぇーーーっ、小僧!今日も来たのか!来なくてよかったのに!!」

(ん?)

 どこかで聞いたことがあっただろうか。知らないおっさんの声が洞窟状の控室に響く。

 …いや。

「ああ、昨日の…バルバトスかムーンチャイルドのオーナーさん」

 サイモンとビッグケットが入った先、真正面に仁王立ちしていたのは、貴族然とした出で立ちの髭を蓄えたオッサンだった。昨日の試合終了後、真っ先にサイモンにケチをつけてきた男。今日も来たのか…ってそれはこっちの台詞だ。ビッグケットに負けるとわかってまた生贄を連れてきたのか。

「いやいや、また来たのかーって言いたいのはこっちですよ。趣味悪いですね〜、うちの猫に負けるとわかって連続出場なんて」

「はぁ?!今日は負けないね!バルバトスの仇、絶対討たせてもらう!!」

 鼻息も荒く、豊かな腹を揺らして貴族男がこちらを指さしてくる。なるほど、バルバトスのオーナーか。そりゃ本命の本命だ、悔しかったかもしれないが…

 そこまでやりとりすると、貴族男は突然ハッと何かに気づいたように周りを見回し、ごほんごほんと咳払いをした。…何かを誤魔化している?

「さっほら、出場者の皆さん?可愛い猫の獣人女が来てくれたぞ!みんな頑張ってこいつをメタメタにするんだ、期待してるからな!!」

 すすすと下がり、他の出場者にビッグケットが見えるよう移動する貴族男。そこでようやく今日の他の出場者と登録者たちが見えた。今日の面子も昨日とあまり変わらない。いや、正確には全員違う奴らなのだが…

「おっ、可愛い子じゃん。ドレス着てくるなんて、随分気合い入ってんな」

「脚丸見え!これで俺達に勝とうっての?随分ナメられたもんだなぁ」

 ひひひ、と笑う出場者たちの人種はおおよそ昨日と似たようなものだ。筋骨隆々、2メートル近くの体躯と力が自慢の人間ノーマン、荒事ならお任せあれなこれまたでかい蜥蜴男リザードマン、背は低いが腕力だけなら人間ノーマン以上かもしれないドワーフ、牙を剥き出しにした犬人コボルト。ボロボロで汚いちびのゴブリン。そして…

「ふふふ、今日は勝つぞ!少々シャクだが小僧のやり方を真似させてもらった。今日はお前もこいつに賭けてくれていいぞ!」

 貴族男がふんぞり返る隣にうずくまる、でかい影。これは昨日見た奴以上に獰猛な顔をしたトロルだ。

「は…?俺のやり方って何?」

 このトロルとビッグケットに何かの繋がりがある、だと?全然わからないんだけど。サイモンが眉をしかめると、貴族男はにやにやしながら小突いてくる。

「またまたぁ。とぼけるんじゃない。お前もやってきたんだろう?

(…魔術加護エンチャント)」

「何それ?」

「そうだよな、混血と言ってしまえば詳しい経歴は問われない、明らかに元の種族から逸脱した能力を持ってても反則扱いにならない。マジックアイテムもアクセサリーの加護もルール違反、ならば!強くするためにはこれしかないだろう!!」

「…いや、だから何それ?」

 自信たっぷりにぺらぺらまくし立てる貴族男を前に、サイモンが手を振ると。

「…ご存知ない!!!??いや、知らないフリか、そうかそうか。それが賢明だよな、バレたら即刻反則ギロチン処分だもんな!!ははは!!!」

「………」

 話が通じていない。…いや、正確にはなんとなくならわかる。アクセサリー類で強化出来ない代わりに、魔法で能力を底上げしてきたんだろうという話だ。しかしエンチャントとは?いわゆる“バフ”とは違うんだろうか?別物か?名前が違うのはどういうことだ?…うーん、魔法素人の俺にはわからない。黙り込んだサイモンと入れ違いに、

「新しい出場者が来たか。身体検査するぞ…って、ウワッッ」

 扉を開けて話しかけてきたのは、昨日も会ったごつい髭面の検査官だ。こちらの顔を見るなり、一気に顔を青くする。ははぁ、昨日のビッグケットの“活躍”をバッチリ見たんだな。ビビってやんの、ザマァ見ろ。

「アッ、昨日の…。どうもいらっしゃい、あの、検査しますのでこちらへどうぞ」

 昨日の横柄さはどこへやら、今日はさすがにへこへこと腰が低い。他の出場者たちが訝しげに検査官を見ている。

「おい、こんな細い女相手になんだその情けねー態度は」

「昨日の?昨日出た奴が今日も来てるって…女だぞ?まさかだろ」

 何も知らないらしい人間ノーマンの男とリザードマンがせせら笑っているが、検査官は唇を引き結んで無視している。下手なことを言って、これ以上ビッグケットからの反感を買いたくないようだ。正確にはビッグケットは共通語がわからない。何を言ってもダイレクトに届くことはないが…隣には通訳のサイモンがいる。虚勢だろうが、暴言吐いたら残さず全部伝えてやる。こちらの意地が悪い笑顔はあちらから見えているだろうか。

『…ビッグケット、検査ダッテ』

 周りが一瞬黙ったタイミングを見計らい、傍らの猫に検査官の言葉を告げる。するとビッグケットは、

『ああ、今日は私の言葉通訳してくれよな』

『オッケ〜、何デモ言ッテクレ』

 赤く彩った目を細く細く孤にして悪魔のような笑みを浮かべた。目は笑ってるのに瞳が笑っていない。冷たい表情だ。

「おいオッサン、今日はこいつが暴言吐くの全部聞いてくれって言ってるぞ」

 立ち上がり、二人で連れ立って検査室に向かう。すると検査官はあからさまに怯えた顔をした。

「いやぁ、勘弁して下さいよ旦那…。こちとら仕事なんでさ…すぐ終わらせますから許して下さいよ…」

 ぼそぼそゴニョゴニョと述べられる弁解の言葉。真っ青な顔をした検査官の額には、びっしりと脂汗が浮かんでいる。わぁー、めちゃくちゃビビってんな…。これ以上虐めても仕方ないか、さっさと終わらせよ。

『ビッグケット、コイツ超怖ガッテル。スグ終ワラセルッテ。許シテヤレヨ』 

 お人好しのサイモンはこういうのに弱い。ため息をつきつつ、隣のビッグケットに話しかける。すると、

『あ?あれだけのことされて、タダで帰すと思ってンのか?最低指一本くらいはもらわないとワリに合わないな』

 両目を大きく見開いたビッグケットが握った右拳を左手で掴み、バキバキ鳴らしていた。待て待て、それ悪役の顔と台詞。綺麗なドレス着た美人の女の子がやる仕草じゃないぞ。

『待テ、待テ、アレモコレモコノ人ノ仕事ダカラ。アル程度ハ仕方ナイダロ、我慢シテクレ』

『はぁ?私の●●●(さすがに伏せておく)に指突っ込むだけなら誰だって出来るだろ、こいつは殺す。殺すなって言われてないし』

『待ッテ!待ッテ!!ヤメテココデ暴レナイデ、殿堂入リ目指スナラ耐エテ!!』

『こいつ殺して帰れるならそれはそれであり!』

『ヤメテ!ダメーー!!!』

 今にも掴みかかり、検査官を殴り殺しかねないビッグケットを何とか捕まえる。彼女が本気なら細いサイモンなどあっという間に引き剥がせるので、多少は彼への気遣い(=検査官への優しさ)があるのかもしれないが…かと言って引き下がる殊勝さなどない。全力で抱きしめ後ろに押そうとするサイモンを押し返し、ずりずり前進する。隅っこでは検査官が腰を抜かしてへたりこんでいる。

「ちょっと、誰でもいいから誰か来てくれー!!!!」

 このままじゃ拉致があかない。この際誰でもいい、このあと死んでしまう奴らでもいいから助太刀してくれ!サイモンが慌てて共通語で叫ぶと、


 ギャオン!ギャン!ギャン!!ヴアアアアア!!!!!!


「!?」

 遠くから犬の悲鳴のようなけたたましい声が聞こえた。それは反響しつつ強く弱くうねり、こちらへ近づいてくる。

「なっ、なんだ…!?」

『新しい奴が来たのか?』

 咄嗟のことに双方動きを止める。そこで気づく。

((ってことは…!!))

 サイモンが両腕を離すのと、ビッグケットが駆け出すのはほぼ同時だった。慌てて検査室から控え室にあたる部分に戻る。するとほどなく、新しい出場者と登録者が姿を表した。

(……ッ、なんてこった!)

 新たに来たのはごつくガラの悪そうな人間ノーマンの男。そして、そして…

 裸のまま首輪と口輪をかけられた犬人コボルトの女性。

「ヴァアアアアア!!!!ギャオン!!ギャオン!!!!」

 その女性は首輪を外そうともがき、しかし獣毛に覆われているとはいえ素っ裸が衆目に晒されるのも耐えられず、両手をバタバタさせている。パッと見る限り、胴体が人間型、手足が獣型とでも言うべきか。豊かな乳房が揺れるのを他の出場者たちが面白そうに見つめている。ふざけんな!サイモンが眉を釣り上げた瞬間。隣のビッグケットはすぐさま飛び出した。

『あんた!これを使え!』

 今日も羽織っていた黒いストール。まさかこんなにドンピシャで役立つ事が起こるとは予想外だ。ふわりとかけられた布に、女性の動きが止まる。バッとこちらを見た顔はまさに犬だ。長い口、並んだ牙に涎が光っている。ここまで散々叫んできたんだろう。

「おいおい、なんだこりゃ。うち以外にも女が来てたんだな。こいつぁゴージャスだ。しかもこんなに着飾ってよぉ」

 そこで口を開いたのは、犬人コボルト女性の首輪から繋がる鎖を掴むゴロツキ男。何も知らないそいつが、ビッグケットの身体を上から下までじろじろ見ている。ビッグケットの怒りの矛先は一気にそいつに向いた。

『おいお前、その人を殺すつもりで連れてきたのか。丁度いい、今めちゃくちゃイライラしてるからお前から真っ二つにしてやるよ』

『待テ、ビッグケット』

 静かな声。鬼の形相のビッグケットとは対象的に、サイモンが真顔で相棒を止める。当然ビッグケットは納得しない。勢いよくゴロツキ男を指さした。

『あァ!?こんな外道いくら死んでも構わないだろう!!』

『イイカラ待テ』

『なんで!!』

『ココデオ前ガ出場停止ニナッタラ、コノ人ヲ助ケラレナクナルゾ』

『…!』

 そこで振り返る。渡されたストールを身体に纏い、震えながら必死に身体を縮こまらせるコボルト女性。彼女はもう門をくぐった。ここにいる時点でしっかり出場者扱いだ。仮に登録者が死んだとしても、無事開放!とはならないだろう。ここは人死にを楽しむための場所。恐らくなんらかの形でステージに引きずっていかれるはず。

『ビッグケット、コウナッタラ大人シク検査受ケテコノ人ヲ守レ。オ前ナラ出来ルダロ?』

『出来るけど…最後どうするんだ』

『アア、ソレハナ…』

 そこまで話したところで、ひょいと二人を覗き込む人間がいる。さっきの貴族男だ。

「おいお前ら、さっきから何をごちゃごちゃ話している。どうする?もう1人女が来たが、こいつも殺して勝ち抜けるのか?」

「まさか。」

 その答えはノーだ。サイモンが唇の端を上げる。あ、とゴロツキ男が声を上げるのもお構いなし。パチンと女性の口輪を外す。

{なぁ、アンタコボルトか?コボルトご つうじるか?}

 それまでとは言語を切り替えて話しかける。するとコボルト女性がバッと顔を上げた。

{コボルト語がわかるんですか!?あの、あの、ここは…ッ!}

{ここはノーマンが ころしあい をたのしむためのげひんな ごらくじょう だ。あんたはここにいるおとこたちに ころされるため つれてこられた}

{そんな!?}

 つらつらコボルト女性と話すサイモンを見て、その場の全員が目を丸くした。特に貴族男はうへぇ、と顔を歪ませる。

「えっ、何君、猫語も犬語も話せるの?何者???」

 するとサイモンが貴族男に振り返る。灰がかった緑の目は驚きも勝ち誇るような自信も映していない。

「俺はしがない国軍 ヒラ兵士の息子だよ。親父がどの戦場に出ても、味方が勝っても負けても帰ってくるんだ。特に負け戦の時は色んな所を転々としてから帰ってくるから、無駄に他所の言語覚えてきて。昔よくそれを面白がって俺に教えてきたんだ」

「え、それだけ?」

「それだけ。俺は何でも覚えるのが得意でね」

「えっ…それだけでそんなに話せるなら通訳の仕事でもやれば良かったのに。…いや、普段そういうのだった?」

「いや。ほぼプータローだったのがこいつと出会って昨日馬鹿勝ちして今に至る。終了」

「なにそれぇ…」

 その場のほとんどの人間が、「普通それだけでそんなに喋れなくね???」と思ったことだろうが。残念ながらサイモンは、物事を理解することも覚えることもべらぼうに上手かった。好奇心旺盛かつ、好きこそ物の上手なれ。それら2つが最強のタッグを組み、彼の脳内にはたくさんの知識と言語が詰まっている。…そのほとんどは一般人には必要ない知識だったが。

(って、そんなんどーでもいいんだよ)

 そこまで話して、改めてコボルト女性に向き直る。この場の誰も…いや、出場者の一人以外。とにかくこの人の登録者に今から話す内容がバレなきゃそれでいい。

{いいか、オレたちはアンタのみかただ。ここにいるビッグケットはだれよりつよい。ぜったいアンタをまもってみせる。だからしぬかどうかはしんぱいしないでくれ}

{…は、はい!}

 その言葉にコボルト男の耳がピクピク反応する。馬鹿にされたと思ったか?残念だが事実だ。アンタはこのあとあっさり死ぬ。最後はビッグケットとこの女性だけになる。そして…

{いいか、さいごはアンタとビッグケットだけになる。そしたらこいつに なぐりかかってくれ。なぐろうとしてくれたら、こいつがアンタのうでをつかむ。そうなったら、こうさけんでくれ}

「参りました。」

 その言葉を口にすると、さすがにゴロツキ男が反応した。弾かれたように立ち上がる。

「おいおい、おい!何仕込んでんだよ!!参りました!?この女に降参させる気か!こっちが犬語わかんねーのをいいことに、何してくれてんだよ!?」

「…」

 無視。サイモンは反応しない。

{れんしゅうしよう。いえるか?}「参りました」

「ァ…マッ…」

 震える口で共通語の音を発しようとするコボルト女性。再度同じ言葉を伝えるサイモン。

「参りました。」

「マィイ、マヒタ…」

{がんばれ}

「テメェ!!!」

 凄まれても全く恐れず降参の手順をレクチャーするサイモンに、ゴロツキがキレた。殴り飛ばしてやる!彼が勢いよく腕を振り上げると、

「ぅぐッ!?」

 背後から腕がねじ上げられた。おおよそ並の力ではない。運営側に止められたのか?イライラしつつゴロツキが振り返ると、そこに居たのは。

「はぁ!?」 

 当然と言うべきか、猫耳を立てたビッグケットだった。白く細い腕、細い指だったが、握力はどんな男より強い。背中側に捻られた筋肉と骨がミシミシ音を立てる。

「あ、あだだだだだ!!??なんだこの猫!?折れる!折れる!!」

『おいサイモン、こいつの腕捩じ切っていいか?腕一本くらいなら千切ってもいいだろ?』

『馬鹿、良クナイ。今スグ離セ』

『なんだよ、守ってやったのに』

『心カラ感謝サセテモライマス』

『よろしい』

 そこでポイ、と男の腕を離す。ゴロツキは泣きべそをかきつつ慌てて二人から離れた。

「なっ、なんだよこいつら!腕折れるかと思ったわ!!」

 それを可哀想な目で見つめるのは貴族男だ。昨日来ていた登録者連中は軒並み今日来ていない。この状況が真にわかるのはこいつだけだった。

「あーうん…だって…その子…昨日勝ち抜けたお嬢さんだからね…。あんま言いたくなかったけど…」

「は?!だから、え?!昨日!?どういうこと!!?」

 狼狽えるゴロツキ。その目を静かに見つめ、一言一言ゆっくり伝える貴族男。その内容は紛れもなく真実だ。

「昨日出場して、他の9人瞬殺して、無傷で勝ち上がったのそのお嬢さん。マジで強かったよ」

「「「はぁ!!!?????」」」

 一斉に上がる野太い声。その一方で。

「マイリマシタ!ま、マイリマシタ…!!」

{お、いえるようになったな}

 コボルト女性が降参のための鍵を言えるようになった。これだけ発音出来れば充分通じるだろう。あとは音量。

{じゃ、あとはこれをおおごえでいえるようにしといて}

{はい!}

 そして仲間への報連相。

『ビッグケット、今コノ人ニ死ナナイタメノ方法教エタ。コノ人守ッテ他ノ全員殺シタラ、コノ人ガ殴リカカッテクル。オ前ハソノ腕ヲ掴ンデクレ。ソシタラ「参りました」ッテコノ人ガ命乞イスル。オ前ハソレガ運営ニ認メラレルマデ待ッテテクレ』

『なるほど、わかった』

 くるくると器用に言語を切り替え、獣人二人と会話するサイモン。そして、女ながら昨日勝ち抜けたビッグケット。その場の一同は、化け物を見るような目で二人を見つめた。しかし。

「…ふん、他の奴がどう命乞いしようがどうでもいい。仕方ないな、そこの犬女は助けてやろう。だが猫女はうちのトロルが殺す。絶対だ」

 まだ明確に闘志を燃やしている男がいる。貴族男はなお不敵な笑みを崩さない。トロル程度でどれだけ自信があるのか。

「勝てるかね、うちの猫に」

 サイモンが呆れたようなため息をつくと、

「ふん、ツテを辿って優秀な人物に頼んだ。腕力防御力共に3倍、スピードに至っては5倍まで引き上げた!いかにあの猫が早くトロルが遅くとも、いい勝負になるだろう!」

(…3倍と5倍か…)

 威張り散らして笑う貴族男の言葉。具体的な数字を出されると、さすがのサイモンもちょっと心配になった。そこで。

「すいませーーん検査官さん、この人たち魔法のエンチャントでバフ盛りしてますよ〜」

 ソッコーチクッておいた。隅からこちらを窺っている検査官に向かって声をかける。すると貴族男が慌てて飛んできた。サイモンの口を塞ぐ。

「馬鹿、そこは素直に伝えるな!お前もチクるぞ!?」

「いや、うちは小細工なしだし…」

「何を言う!ここにいる脳筋共を見ろ、まともに魔法がかかってるかチェック出来る体勢など整っていない!つまりこのままだと疑わしきは罰せよ、私もお前も双方出場停止だ!!」

「ぐっ…」

 そうきたか。そもそも最初の要項に魔法の有り無しは書いていなかった。その時点でここに来る人間と魔法は疎遠だろうとタカをくくられているし、今までそんな奴らがいなかったから禁止事項にもなっていない。魔法とは基本貴族王族金持ちの物だ。強い=権力を握れるからな。で、闇闘技場も元は金持ちが始めた娯楽とはいえ、ここの根本は勝ち負けや強さを決めたい、勝負したいという物ではない。誰がどう強いかなんて関係ない、身分の低い汚い奴らが泥臭く殺し合ってくれというニュアンスなのだ。

 つまり、ここでこいつのやり口を告発しても無駄。こっちが巻き添え食って退場させられるだけだ。

「チッ…しゃーないな…」

「わかった?じゃあ大人しく検査してきて、ホラ。早く準備してくれたまえ」

「………ッ」

 自分の安全が確保され、ほっとした様子の貴族男。またしても横柄な態度に戻り、しっしっと手を振った。…フィジカル3倍、スピード5倍トロルか…。さすがに強敵かな…。

『ビッグケット、ソコノとろる。魔法ヲカケラレテ、元の3倍強イチカラト防御力ニナッテルッテ。シカモ速サ5倍。ソイツニハ気ヲツケロ』

『ふーん、そりゃ楽しみだな』

 ビッグケットにこの話を伝えると、相棒は余裕の表情だ。…トロル3倍でも怖くないもんかね?こいつの感覚はわからない。

『デ、改メテ検査。大人シク受ケテコイ』

『…仕方ないな…』

 そして、中断されていた検査を改めて慣行する。コボルト女性にも声をかけて…。

{なぁ、わるいんだけど。ふせいがないようしんたいけんさをするらしい。あの、こかんのあなもしらべられるんだ、ごめんな。がまんしてうけてくれ}

{…わかりました…}

 女性二人が連れ立ち、検査官の元へ向かう。先を行くビッグケットは、余計な事をしたらその場でコロス。と言いたげな鋭い目をしている。あれなら下手なことはされないだろう。

『一応オレモツイテイクナ』

『さんきゅ』

 ようやく奥の部屋で行われた身体検査。さすがに今日の検査官は何くれと丁寧に扱ってくれた。またしても指を突っ込まれた際はビッグケットが散々文句を言っていたが。検査官が青い顔でぺこぺこするもんだから、それなりに溜飲は下がったらしい。続いてコボルト女性も検査を行う。…正直こんなん要るとは思えないけど。一応、一応だから。と言われてなんとか終わらせた。

{おつかれさま、だいじょうぶ?}

{はい、なんとか…。お気遣いありがとうございます…}

 サイモンがコボルト女性に声をかけると、やはりショックだったんだろう。頑なに俯き、羽織ったストールの胸元をぎゅぅっと握りしめている。…早くこんな茶番終わらせなくては。さっさと始まってとっとと終われ。サイモンは苦い顔でコボルト女性の背中をさすった。すると。

「全員揃ったな。検査も全て終了した。そろそろ出番だ。登録者は登録料を出してくれ。あと賭ける奴は誰に何エルス賭けるか申告と払込みを」

 昨日も会った黒服の案内人だ。お、と目が合う。

「ああそうだ、オルコットさん。2回目以降の出場は登録料不要だ。掛け金だけ出してくれ」

 そう言って金を回収する板を差し出される。へぇ、そうだったのか。金貨5枚は最初だけなんだな。まぁ登録料だし確かに。しかしうーん、じゃああとは掛け金…。掛け金…………。

「じゃ、俺は金貨一枚。ビッグケットに賭けるよ」

 手近な袋から金貨を一枚出す。おお、とざわめくその場の一同。貴族男はむ。と髭を捻った。

「小癪な。まだその猫女が勝つと思ってるのか」

「だってまだまだ本気じゃなかったみたいだし。負けるってことはないんじゃない」

「こちとら3倍だぞ?」

『ビッグケット、3倍とろる勝テソウ?』

 そこで話をビッグケット本人に振る。すると、笑顔と余裕のピースサインが返ってきた。

『負けることはないな、トロルごとき』

「トロルなんか負けないって本人が言ってるぞ」

「ぐぬぬ…!!!!」

 冷淡な笑みを浮かべるサイモン、歯ぎしりする貴族男。弾ける熱い火花。今日の対決はここが見どころになりそうだ。

「よし、じゃあ他の登録者たちも。初参加なら登録料を。そして賭けに参加するなら全員賭ける対象、金額を教えてくれ」

 案内人が残りのメンツを見回す。興奮気味な様子の登録者たち。震えるコボルト女性、腕を組んで仁王立ちするビッグケット、我関せずで座り込むエンチャントトロル、不安とやる気の入り混じった他の参加者。


 さぁ、決戦の時。

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