第52話 初めは誰でもそうなのさ
初めてしばらくすると装備も整ってきて強くなった気になる時期は誰にでもあるー。
熟れた感じの若い男の子がやたらと騒いでいる。フィールドでもセーフティでも周囲を気にせずにエアガン談義とちゃらけている。俺とあかりちゃんは喫煙所でタバコを吸いながらその空回りの光景を見ている。ミリタリーオタクと言うよりはサバゲーの流行りに乗ってきた感じである。以前、彼はあかりちゃんに“ヘルメットが重い件”で冷たく足らわてからあかりちゃんに近付かなくなっている。
サバゲーでも、サバゲーじゃなくても若いうちははっちゃけたくなる時期が誰にでもあり彼は今がその時なのだと思った。
……が。
彼がタバコも吸わないのに喫煙所に近付いてきた。
「カゲトラさん!ガスブロ借りても良いですか?」
「ん?」
「友達がガスブロ撃ちたいって言っていて!」
「ん?ん?」
「……」
あかりちゃんが無言で冷ややかに見ている。
「いつも優しくしてあげてるけどさぁ常識や節度は知らなきゃダメだよぉ」
「え?ダメって事ですか?」
「クソガキよ!聞いてるか?」
「え?」
「親しくも無い奴になぜ貸さなきゃいけないんだよ?」
「あ、いや、ガスブロ使ってるから貸してもらおうかと……」
「その発想がバグってるぞ?丁度良いから伝えておくけどな、俺とあかりちゃんに話し掛けないでくれるか?見ていて見苦しくて気持ち悪いよ君は」
「酷くないっすか?」
「酷いよ君のサバゲースタイルがね!これ以上会話を続けると怒っちゃうから友達の所へ戻りな~」
「解りました!もう話し掛けないので俺にも話しかけないで下さい!」
彼はふて腐れて自分の席へと戻っていった。
「平蔵さん怖いな!」
滝川さんがガラムを吹かしながら言った。
「絶対にアタシより平蔵は沸点低いよ!」
あかりちゃんは平蔵を指差しながら言った。
「いやいや!キモい奴に割く俺のサバゲータイムは無いんだよぉ!それぞれスタイルがあるからさぁその辺の空気は読んで話しかけなきゃだよ」
「確かにそっすよね!話を合わせるのも気を使うのもウザいわ!俺もこれからマネしよ!」
滝川さんは平蔵達よりもこのフィールドの常連である。ここで知り合って意気投合したのであるー。
自分の拘りがあってそれを通している所が平蔵達と気が合うのであるー。
拘りや意思が強い人間が平蔵は好きなのである。
ー10年前ー
平蔵は上野公園の野口英世像の足元でキャラメルコーンをばら撒いてハトが寄ってくるのを見ている。
「オメェ、ハトにエサやるなよ!怒られるぞ!!」
斉藤がトイレから走ってきた。
今日は斉藤の付き合いでサバゲーショップ巡りをするらしい。ガキの頃にエアガンで撃ち合った事はあるが大人になってBB弾を見に行くとは…と思いながらアメ横を歩いた。人混みの中から中田商店が見えた。
「お!?懐かしい中田商店!後で寄って良いか?」
「だめ!アキバに行くから今度一人で行けよ!」
「ケチだな!」
「ちげぇよ!望ちゃんから頼まれてるんだからよぉ」
「望が何か頼んだの?」
「平蔵がヤバいからサバゲーでもやらして欲しいって!」
「何それ?」
「お前よぉ酒と女遊びとか酷いんだろ?」
「毎日飲み歩いてるけど…女は女から寄ってくるんだから仕方ないじゃん」
「お前なぁ!ブスな俺にそれを言うな!」
「ブサイクは関係ないだろ!笑えるけどな」
そんな会話をしながらサバゲーショップに着いた。
店内には銃が所狭しと並んでいて装備品等も充実したお店である。
「好きなの撃たせてもらってみろよ」
「撃てるの?」
「だいたい試射させてもらえるよ」
「なるほど!じゃあやっぱりM14だな!あるかな?」
「そんな銃知ってるの?」
「当たり前だ!シャーリーンを知らないのか?フルメタルジャケットだぞ!」
「なんだ!話が早いぞ!撃たせてもらおう!」
「撃ちたいわ!」
斉藤は店員を呼びに行った。
平蔵は店内を見ていてこんな趣味の人達が居るのかぁと思った。
シューティンググラスをかけてやたらと長いM14にマガジンを挿して10m位の電光的を狙った。微かなモーター音、赤くなる的、発射と共に来る快感ー。
「面白い!」
「だろ?」
ドヤ顔の斉藤ー。
二件目ー。
カスタムパーツと装備品を扱うお店であった。
「俺はちとここで買いたいモノあるからお前は装備品をみておけよ」
「オッケー!」
斉藤はよく解らない細かいパーツコーナーへ行った。
平蔵はグラスや光学機器、戦闘服や靴、プレートキャリアなどのコーナーをフラフラした。
そしてふと疑問に思ったー。
鉄砲買ったり装備品買ったりしても…何して遊ぶんだよ。河川敷や山はどこかに許可もらってやるのかな?道路使用許可じゃないよな~
「平蔵!なんか気になるのあったか?」
「おう、鉄砲や装備品整えてどこで遊ぶんだよ?」
「え?」
「ん?」
「フィールドだよ」
「そのフィールドはどうやって借りるの?」
「借りる?」
「河川敷や公園や山でやるんだろ?」
「お前は何年前の話してんだよ!うけるわ!」
ブスな斉藤が笑っているから肩にパンチした。
「痛ぇ!!」
「なんかムカついた!」
「飯行こうぜ!」
「あそこのハンバーグ行こう!」
「良いね!」
秋葉原には洋食屋が幾つかあって斉藤と平蔵はまんだらけ近くの洋食屋がお気に入りであった。
デカいハンバーグを頬張りながら斉藤が携帯電話で動画を観せてくれた。
動画は海外のサバゲー動画で完全武装した人達が激しく撃ち合っているものであった。スコープの映像や突撃の場面、アサルトライフルからハンドガンへの移行のシーンー。
「すげぇこれがサバゲー?」
「こんなに激しくないけどめっちゃ楽しい野蛮な遊びだよ!」
「これ撃たれたらどうなんの?」
「自己申告で“ヒット!”って言ってフィールドアウトする」
「なるほどな!」
「あ!因みに明日お前の分も予約してあるからな!」
「は?サバゲー?」
「うん!千葉ね!」
「は?マジかよ!銃買わなくちゃじゃん!」
「そうだよ!買えよ!」
「後でさっきのM14買うわ!」
平蔵は残りのハンバーグを口いっぱいに押し込んだ。
つづく
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