第32話 幾つになっても
薄らと霧が漂う草原ー。
微かに撃ち合う音が霧の中に聞こえる。妙に静まり返っていてゆっくりと身を屈めながら進むー。仲間達の息を呑む音が聞こえてきそうなくらい静かである。
「接敵!!」
誰かが叫んで静寂はフルオートの戦場へと一変した。
俺とあかりちゃんは膝丈の草に寝転がって戦況を確認する。
「こっちからは全く解らん!」
「アタシもさっぱり!右のバリケード地帯から音がするのは解るんだけど敵も味方も解らないね!」
「緊張しすぎて汗だくだぁ!」
「ふふふ!」
「匍匐で前のタイヤの辺りに行くか、反対の山側へいくか!」
「でも、山側は手練れのスナイパーが居そうで怖いね!」
「だね!交戦距離まで押せれば良いんだけど…」
俺は中腰になってスコープで辺りを索敵するが霧で全く解らない。
「敵さんも見えないから距離を取ってるはずやで!」
モッサンも匍匐で合流してきた。
「一か八かで前進しますか!」
「そうしよや!」
「オッケー!アタシが前に出る!真ん中にモッサン!後はカゲトラで!」
「りょ!!」
あかりちゃんの指示で陣形を組んだ。お互いに見失わないように距離と合図を送りながらフィールドの真ん中辺りを進んだ。
カート用の道をヂグザクに進んだ。
あかりちゃんが何人か敵を倒してるのを確認してモッサンと俺はついて行っている。
真ん中の市街地エリアはある程度視界が開けていて俺とモッサンはあかりちゃんをカバーしながら進むー。
あかりちゃんとモッサンが索敵して少し後ろの俺が牽制で撃ち込む、その隙にあかりちゃんかモッサンが倒す。
なんとそうこうしながら進んでいると霧の中に敵フラッグに着いてしまった。
「あれ?これフラッグだよね!」
「そやな!」
「モッサンどうぞ!」
「ええの?」
「もちろん!」
モッサンは嬉しそうにフラッグゲットした!
霧の中からスタッフさんが寄ってきて写真を撮ってくれた。
「ごめんなさい!霧で気付かなくて!」
スタッフさんが気づかないくらいスムーズにフラッグを取れた。モッサンの初フラッグゲットであった。
三人でポーズを決めて写真を撮ってもらった。
セーフティエリアでモッサンがフラッグゲットした事を仲間達が声を上げて喜んでいた。
帰りはモッサンの経営する喫茶店へ仲間達と行った。
店内にはガンダム、戦車、軍艦、零戦、鉄道等の模型やモデルガンが所狭しと飾ってあった。
「プラモ屋ですやん!」
仲間の一人が言った。
「趣味の倉庫兼喫茶や!裏にはシューティングレンジもあるんよ」
「まじか!」
「人生最後の趣味がサバゲーや!」
「しかも!コーヒーカップが全部高級品じゃないですか!」
あかりちゃんが目を輝かした。二人のいつも使っているコーヒーカップはWedgwoodをお揃いで使っている。
「さすが!あかりちゃんや!あ!そやそや!」
モッサンはカウンターの中へ入って赤い箱をあかりちゃんへ渡してそのままステンレス製のケトルでお湯を沸かし始めた。
「それなぁへいちゃんとあかりちゃんにいつも世話になってるからプレゼントよ!」
「え!何にも世話してないですよ」
あかりちゃんはそう言いながらも箱を見てビックリしている。
「バカラ!?」
「え!」
「二人はウィスキーとか洋酒も好きなんて言ってたからこれくらい使わんと!」
「いやいや!こんな高級品!」
モッサンはニコニコしているだけであった。
それからこの玩具箱のような喫茶店で仲間達と苦みの薄いが深い味わいのコーヒーを飲みながらサバゲー談義と反省会をした。
モッサンはそれをカウンター越しに煙草を吸いながら見ていて微笑んでいた。
帰り際ー。
「へいちゃん!あかりちゃん!帰りは遠いから気を付けてな!眠くなったら無理しちゃあかんよ」
「大丈夫です!途中でどっかに泊まっちゃうので!」
「お!それが良い…二人とも本当にありがとう!こんな爺さんに会いに来てくれて一緒に遊んでくれて俺は俺の人生に悔いは無い!」
「大袈裟ですよ!」
「いや!ホンマにそう思ってるんやで」
「最期の別れみたいな事やめましょ!また来るし!」
「言えるときに言わんと!」
「確かに!俺も!モッサンこれからも一緒に遊んでくださいね!」
「アタシも!またすぐに!遊びましょ!」
「おう!待ってるで!今度は俺が行くわ!」
「待ってます!」
モッサンはずっと見送ってくれた。
6車線位の高速道路を走りながらモッサンの笑顔を想った。
楽しそうだったな……そしてプラモ半端なかったな。
続く
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