第137話 傀儡化
劣等人の魔剣使い 小説4巻
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アミィの胸に【魔剣】を突き立てた瞬間、透は大量のスキルポイントを獲得した。
「これで、決着がついた……かな?」
呼吸を整えながら、透は【魔剣】を消し去った。
かくんとアミィの体が崩れ落ちる。それを透は慌てて受け止める。
「……ルカさんって、意識を取り戻せるのかな?」
『たぶん大丈夫よ』
「うおっ!?」
突如脳内にネイシスの声が響き、透は酷く驚いた。戦闘直後で油断していたこともあり、危うひっくり返りそうになってしまった。
「まだいたんですね」
『なによ、いたら悪いの?』
「い、いえ」
『まったくもう! スキルをたくさん振ってダミーにしようなんて、よく考えたわね』
ネイシスが、透のスキル全振り作戦を褒めてくれた。
透が一番封印されたくないスキルは〈身体強化〉と〈剣術〉、それに【魔剣】だ。それさえ守り切れば、透はアミィに勝てると踏んでいた。
母数を増やせば増やすほど、必須スキルが封印される確率が下がる。とはいえ、決してゼロにはならない。運が悪ければ、一撃で封印される可能性もある。
しかしこちらには、運命の神の加護がある。賭けに打って出るのに、これ以上の安心材料はない。
「トールくん、ありがとうございました」
「トール。ずいぶん立派に育ったじゃねぇか」
アロンとグラーフが透に近づいてきた。二人の足取りはふらふらだ。
宝具の持ち主がいなくなったので、スキルの封印は解けた。それでも足取りがおぼつかないのは、全力を越えて戦ったからだ。
「トールくんのおかげで、無事アミィを葬ることが出来ました」
「いえ……」
透は首を振り、あたりを見回した。
勝利したところで、すべてが元通りになるわけではない。建物は崩れ、けが人もかなり出ている。おまけに悪魔の出現地となった透たちの家は完全に崩壊している。
(また、いちからやり直しか……)
透は肩を落とす。
先月、アミィにフィンリスを襲撃されてから、ようやっと街が復興したばかりだった。
「せっかくみんなで力を合わせて、元通りになりかけてたところだったのに……」
「気にすんな、トール。壊れたって、また元通りにすんのが俺たちだ」
グラーフが遠くに視線を向けた。そこには、すでに多くの人が集まっていた。前回の復興時に知り合った者たちと目が合うと、満面の笑みを浮かべて拳を振り上げた。
『また、守ってくれてありがとよ!』
そんな声が聞こえてくるような表情を見て、透の体から力が抜けた。
「そういば、トールくんはランクアップクエストの途中でしたよね」
「え、ええ」
「それは、申し訳ないことをしました。ランクアップクエストはとても重要案件です。これでもし、クエストを失敗するようなことがあれば、どうお詫びして良いか……」
「あっ、いえ、クエストの対象アイテムは確保しましたよ」
「……へっ?」
アロンの目が点になった。
何か妙なことを言っただろうか?
透が首をかしげた時だった。建物の影からエステルが姿を表した。
「あっ、エステル。住民の避難を任せちゃってごめんね」
「…………」
「ん、どうしたの?」
「…………」
エステルからの反応がない。
いつもならば、真っ先に透に駆け寄り、ポニーテールをブンブン振り回す。そんな彼女が口を閉ざし続けているなど、少々不自然だ。
(知らない間にまた怒らせちゃったかな?)
まったく心当たりがない。しかし、うっかり地雷を踏んだ可能性もある。腕を組んで唸りながら考えていると、不意にエステルが腕を振った。
「えす……てる……?」
その手には、いつの間にかナイフが握られていた。
――アミィが使用していたナイフだ。
透の頬から、ツツーッと血が滴り落ちる。
「エステル……ごめんね、まさかそんなに怒ってるとは思ってなくて――!」
「なわけねぇだろ!!」
「トールくん、下がって!!」
アロンに抱えられ、透は勢いよく後退。
その眼前を、ナイフが通り抜けた。
もしアロンが抱えてくれていなければ、今頃透のこめかみにナイフが突き立てられていたに違いない。
「えすてる……? どうしたの、ナイフなんて使って」
「トール。エステルの奴、なんか様子がおかしいぜ?」
グラーフに言われて、初めて気がついた。エステルの雰囲気がまるっきり違っている。
いままでは、凛々しい中にも優しさや朗らかさを感じた。とても優しい雰囲気を持つ女性だった。
だが現在は、毒々しいオーラを身にまとっている。殺意が溢れすぎている。
(――まさかっ)
嫌な予感が脳裏をかすめた。
それを知ってか知らずか、これまで沈黙を続けていたリリィが、
「きっと、エステルの体をアミィが乗っ取った」
これまで眠たげな目をしていた彼女からは考えられないほど、今は鋭い目つきをしている。
そのリリィが、血を吐くように呟いた。
「わたしの仲間も、そうやって殺された」
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