第136話 可能性に限界はない
(ゴミスキルがたくさん並ぶスキルボードの設定にしていたのは、一重にこの回への布石でした)
劣等人の魔剣使い 小説4巻
何卒、ご購入宜しくお願いいたします!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アミィの怒声を、透は真正面から受け止める。
普段、これほどの怒りをぶつけられれば、狼狽したに違いない。しかし今は戦闘中だし、目の前にいるのはアミィだ。
魔物を招き入れてフィンリスを落とそうとした。その際に、たくさんの人が命を落とした。その中には、お腹に命を宿した女性もいた……。
また、王都ユステルに操った魔人をけしかけた。たくさんの人が魔人に殺された。しかしその魔人も、アミィの犠牲者だった。
百年前に、レアティス山で殺された冒険者もそうだ。彼らはリリィにとって、大切な冒険者仲間だった。
そして現在、彼女は再びフィンリスを襲った。人々が一生懸命復興した街を、また破壊した。
皆を不幸に陥れた張本人の声に、動かされる心などない。
アミィの問いには答えず、透は再び攻撃を開始。
斬って、突いて、受け流されて、
接近、フェイント、斬り返し。
アミィを少しずつ【魔剣】で削っていく。
>>〈眼球ウェイトリフティング〉が封印されました
>>〈耕耘〉が封印されました
>>〈サクランボの種飛ばし〉が封印されました
攻撃する度に、透のスキルが封印されていく。しかし、封印されるのは戦闘に無関係のものばかり。
これらは透が戦闘を始める前に振ったスキルだ。アミィを攻撃すると、スキルが封印される。このまま戦えば、あっという間に戦闘スキルが封じられる。それが見えていたため、透は残ったポイントで囮(デコイ)を作った。
ポイントは一つのスキルに一つだけ。いずれも封印されても戦闘に問題ないものばかりだ。とはいえどのスキルが必要でどれが不要か、戦闘中のわずかな間に見極めるのは至難の業だ。
しかしスキルボードには、『格納システム』がある。透はこれまで絶対に使わないと思ったものは、すべて格納に登録してきた。それが今回、役に立った。
〈農作〉〈耕耘〉〈裁縫〉〈服飾細工〉〈宝飾細工〉〈錬金〉〈金魚掬い〉〈輪投げ〉〈型抜き〉〈サクランボ軸蝶々結び〉〈はったり〉〈うっちゃり〉〈かわいがり〉〈座布団投げ〉〈四股踏み〉〈土俵入り〉〈弓取り式〉〈鉋掛け〉〈のこぎり〉〈釘打ち〉〈ほぞ切り〉〈歌唱〉〈デスヴォイス〉〈化粧(メイク)〉〈早弾き〉〈ギター〉……。
すべての不要スキルがまとまった『格納』を開き、手早く一ポイントずつ振り分けた。
それらのスキルが良いデコイとなって、主要スキルの封印を妨げていた。
(――いける!)
【魔剣】では、肉体的なダメージは与えられない。そのため、延々と素振りをしている気分だったが、やっと手応えが現われた。
斬って、突いて、回避して、
フェイント、斬り上げ、斬り返し。
相手に攻撃を許さぬよう、攻める、攻める、攻める。
この攻撃ラッシュに対し、アミィは打開策を見いだせずにいた。
攻撃を行えばスキルが封印される。大抵の冒険者ならば、スキルの封印はなんとしてでも避けるものだ。しかし、トールはスキル封印を知ってなお、アミィに攻撃を行い続けている。
「――チィッ!」
戦闘力は、どう甘く見積もってもトールの方が上だ。アミィからは一切手を出せない。
主要スキルさえ封印されれば……。そう願いながら、トールに二の腕をあえて斬らせる。
今度こそ!
期待するも、トールの動きは変わらない。
また外れだ。
(どうして)
トールの攻撃をギリギリでさばきながら、アミィは叫んだ。
「どうしてスキルが無くならない!? 人間が習得出来る才能(スキル)の数などたかが知れてます。なのに、何故あなたはスキルを失わないんですか!?」
「さっきから、スキルが封印され続けてますよ」
「なら何故!」
「それ以上にスキルがあるからです」
「……はっ?」
トールの言葉を、アミィは瞬時に理解出来なかった。
人間が持てるスキルの数には限度がある。どんなに多くても十が限界だ。それ以上は、習得する時間が圧倒的に足りない。
――そのはずだった。
「馬鹿なッ。人間程度の才覚では、スキル取得に限界があるはずです!」
「人間の可能性(スキル)に限界はない。あなたが人間の限界を、勝手に決めるな!!」
ここまで追い詰められたのは、人間の才能を見積もったつもりになっていたからだ。そう、トールの目が告げていた。
悪魔の宝具でも、封印出来ないほど大量のスキルを持つ人間。
「ま……まだだッ!」
アミィは残った魂をすべてつぎ込み、〈時空法術〉を発動。
トールに向けて、《完全停止》を放つ。
さすがにこれは躱せまい。アミィがトールの停止を確信した。その時だった。
〈時空法術〉がトールの目前で、音もなくかき消えた。
「はっ?」
いま使用した法術は、魂を通じた神の力の一部である。人間ごときが解除出来るものではない。
「どうして……!?」
一体なにが法術を消し去ったのか。トールを注意深く観察したアミィは、それに気づいて膝から崩れ落ちた。
瞳の紫は運命神ネイシス。
【魔剣】の赤は戦神アグニ。
ローブの内側にある文様のうち、青は魔術神エルメティア、緑は自然神アマノメヒト。
ブーツの白は正義神フォルセルス。
腕輪の黄は技術神アルファス。
トールが身につける武具のすべてに、現神六柱の力が宿ってるではないか!
それら六つの力が、アミィの〈時空法術〉をかき消したのだ。
(まさかトールがネイシスだけでなく、現神六柱すべての加護を受けてるとは……)
神色が現れたアイテムは、神器として教会総本山に奉られるほど貴重なものだ。それを、何故ただの劣等人がいくつも手にしているのかがわからない。
それだけ神に好かれていたのか。あるいはアミィの企みに気づいた全神が、抑止力としてトールを利用していたのかもしれない。
確かなことは不明だが、これだけはわかる。
(わたしにははじめから、勝ち目など無かったのですね……)
自らの敗北を悟り、アミィは嗤った。
その瞬間、アミィの胸に【魔剣】が突きたてられたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます