第132話 神聖降臨
ネイシス(早く帰ってポテチ食べたい)
劣等人の魔剣使い 小説4巻
12月上旬発売予定
何卒、宜しくお願いいたします!
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ゾクゾクっと、アミィの背筋が震えた。
(これはこれは……またずいぶんと強くなりましたねぇ)
どのような仕掛けか、先ほど対峙した時よりも威圧感が増している。おそらくまともに戦えば、瞬く間に消滅させられるに違いない。それだけの力量差を、アミィは瞬時に感じ取った。
「これはどういうことなんですか?」
トールは地面に倒れ込んだアロンとグラーフを一瞥した。
その瞳が、徐々に紫色に変色していく。
(――しまった、神の降臨かッ!)
アミィはぐっと宝具に力を込める。
トールの瞳の変色は、神が降臨した証だ。いくら神の王の分霊といえども、神の気配を直接当てられては一撃で消滅してしまう。
絶体絶命の状況だが、アミィは愉快に口を曲げる。
(早くもチャンス到来ですねー)
神の降臨は、人間の体に直接神の魂が乗り移る。人間の身にあって、神の力を用いることが可能だ。しかし神の力が強すぎるため、降臨時間に限界がある。
――一分だ。
たった一分、凌ぎきれば、トールはしばらく神の力が使えない。
(一撃で消滅しなければ、こちらのものです)
無論、アミィは丸裸で戦うわけではない。魂の器に用いたものとは別に、数百の魂を体内にストックしている。それを身代わりにすれば、一撃の絶命は回避出来る。
さらにこちらは一撃でも受ければ、宝具の能力でトールのスキルを封印出来る。
――戦えば戦うほど、トールは弱体化する。
神のしもべさえ退けられれば、もはやアミィの敵はいない。そうすれば、いよいよ神の王の復活だ。
「やる気満々ですねー、こわいこわいー」
「……一応聞いておきます。降伏する気はありますか?」
「あるわけないじゃないですかー、やーだー」
「……」
アミィが軽口を叩いた、次の瞬間だった。
突如、巨大な気配がトールの背後に出現した。
「なら、死になさい」
「――ッ!」
目にも留まらぬ速さでトールが接近。
頭上から【魔剣】が振り下ろされた。
回避は間に合わない。
アミィは宝具を横にして、剣戟を受け流す。
「――ぐっ!」
重い。
まるで岩石が衝突したかのようだ。
攻撃のあまりの重さに、アミィの膝ががくっと折れた。宝具の凌ぎがガリガリと音を立てて削られていく。
宝具はこの世に存在する武具の頂点だ。オリハルコンよりも強靱で、剛性も柔性も優れている。神以外に破壊は出来ないと言う者もいるほどだ。
それが、目の前で削れている。
(なんて破壊力ですかっ!)
内心毒づきながら力を抜く。宝具を傾け、【魔剣】を滑らせた。
一撃を耐え抜いた。ほっと胸をなで下ろした、その時だった。
【魔剣】の軌道が空中で変化。直角に曲がり、アミィの二の腕を切り裂いた。
「――ぐっ!」
慌ててアミィはバックステップ。
二の腕を触り、状態を確かめる。
(傷は、ついてないですねー)
以前胸に刺さった黒い矢と同じで、あの剣では一切体に傷が付かないようだ。
しかし、威力はとてつもない。アミィの身代わり用の魂が、十も|昇華し(きえ)てしまった。切っ先がかすっただけで、これだ。もし直撃したら、百以上は昇華するだろう。
念の為、アミィは魂を千以上集めているが、気を抜けば一瞬でアミィ本体が浄化されかねない。
(余裕を見てると滅ぼされちゃいますねー)
アミィは強化系魔術(バフ)を重ねがけする。さらに、構えを完全防御のスタンスに変更。神の降臨限界時間である一分を凌ぎきるために、全力を尽くす。
トールの攻撃をギリギリ受け流す。続く切り返しも、寸前のところで回避した。
トールの【魔剣】は、目に止まらない。躱せているのは、ほとんど勘だけだ。
アミィが生まれてから数百年間。魂が重ねた戦闘経験から生じる直感に、アミィは自らの命運を委ねる。
上段攻撃をやり過ごし、水平斬りを宝具でいなす。
バックステップ、回避、パリィ。
致命的な攻撃を間合いだけで封じていく。
背中に冷たい汗が流れ落ちる。
緊張で口の中が、からからだ。
息が、上がる。
一呼吸置きたい。
だが相手はそれを許さない。
(……まだ、ですかね)
受けると骨が軋むトールの攻撃を、もう何度も受け流してきた。
(まだ、一分経たないんですか?)
剣戟の数は、すでに百を超えている。
時々アミィは自らに、回復法術をかける。
そうしなければ、骨か関節が折れて防御が間に合わなくなる。
「アンタ、そろそろ堕ちなさいよ」
「この狂神がっ!」
スタミナと蓄積ダメージを回復するため、アミィはがむしゃらに距離を取る。
(そろそろ一分経ったはず……)
戦闘中の時間の流れは、通常時よりもかなり遅い。しかし、だとしてももうすぐ神が降臨してから一分が経過する。
トールの体から神が消えれば――神気が消える。神気が無くなれば、一撃で消滅させられることがなくなる。
これまでは完全防御してきたが、わざとダメージを受けてスキルの封印が狙えるようになる。
息を整えたアミィが細剣を構えると、トールが僅かに腰を落とした。
(来るッ!)
アミィが身構えた次の瞬間、【魔剣】が振るわれた。
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