第133話 スキルボードに仕込んだ狙い

劣等人の魔剣使い 小説4巻

早いところでは既に出回っているかもしれません。

何卒、ご購入宜しくお願いいたします!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 それをギリギリで回避。

 すぐさま細剣を立てて切り返しに備えた。


 ――ガギィッ!!


 激しい金属音。

 それは宝具の破損を覚悟する程の音だった。

 アミィはわずかに体を浮かせ衝撃を緩和。

 空中でバランスを取りながら着地。


 トールが追撃。

 即座に反応。

 防御、回避、バックステップ。


「い……一体いつまで人間の体の中にいるつもりですか!?」


 たまらず、アミィは叫んだ。

 もう一分以上が経過している。人間の肉体に降臨出来る限界は一分だ。肉体の強度によって多少のブレはあるが、長くてもせいぜい二分に満たない。


 アミィがトールと戦い初めてから、すでに一分を超過している。これ以上神が降臨を続ければ、トールの魂は確実に消滅する。

 トールの魂など知ったことではないが、これ以上降臨が続けば、アミィは確実に敗北する。


(そんなこと、あってはならない……。わたしは必ず、神の王を復活させるんです!)


 奥歯を食いしばりながら、アミィは宝具に力を込めた。


「いつまでって、アンタを消すまでよ」


 瞳からあふれる光が、かすかに揺らめいた。


 先ほどからこちらに語りかけてきているのは、トールではなく降臨した神だ。神――おそらくは運命神ネイシス。紫色の瞳がネイシスのシンボルカラーだ。また、こちらの計画を破綻させた手口から、アミィはそう判断した。


「自らの理想のために、しもべの魂を滅ぼすとはー。さすが神の王を裏切った神だけはありますねー」

「勘違いしてるから、特別に訂正してあげる。この子の魂は滅ぼさないわよ。せっかくのしもべなんですもん」

「だったらー、そろそろ天上に引き返した方がいいんじゃないですかー? 神気に耐えられず、魂が消えますよー?」

「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ。この子はちゃんと、アタシを受け入れる力を手に入れたわ。何時間でも、何日でも、アタシはこの子に降臨し続けられる」

「……は?」


 ネイシスの言葉で、アミィは頭が真っ白になった。

 神が降臨し続けられるなど、あってはならないことだ。


「まさか、世界の法則を破壊するつもりですか!?」

「いいえ、これが世界の法則(ルール)よ」

「馬鹿なッ! 新たに法則を生み出したとでも言うんですかッ!?」

「アンタは知らないんだろうけど、この法則は元から存在していたのよ」

「あ、あり得ない……」


「知らないからって、ないわけじゃない。見えなくても、あるものはある。アンタがどれだけ否定しても、事実は不変よ」

「くっ……」


 このままでは、計画が破綻する。なんとか打開策を見つけようとするも、神が相手ではどうにもならない。

 アミィは神の権能から生まれた分霊だ。土台から優劣が生じているため、どうあがいても逆転出来るものではない。


(終わった……)


 アミィが諦めかけた、その時だった。


「神様。あとは僕に任せてください」


 神から肉体を取り戻したトールが、そう呟いたのだった。



          ○



 透がエアルガルドにやってくる遥か昔から、ネイシスはそれをスキルボードに仕込んでいた。


 もし神の王――悪神エルレリオの封印を破ろうとする者が現れたときに、それが食い止める力になる。そしてもし人間の力が及ばない状況になった場合、自らが直接食い止められるようにもなる。


 それは、人間のリミットを解除し、可能性を無限大に広げるスキル。

 そして、神が降臨できる限界を突破させるスキルだ。


【限界突破】


 ネイシスは転生者に、必ずこのスキルを与えた。


 殆どの者はこのスキルを取得しなかった。皆、限界を感じたときにこのスキルを取れば良いと考えたのだ。結果、限界は早々に訪れ、皆なにも成せず、何者にもなれぬまま散っていった。


 だが、【限界突破】スキルを取得した者がようやっと現れた。

 それが、透だ。


 透はまず先に、このスキルを取得した。おかげで今、危機的状況においてネイシスはこうして降臨し続けられている。


(エルレリオが復活すれば、面倒なことになるのよねぇ)


 下手をすれば、第二の神代戦争が起こる。また、エアルガルドに住まう人々が大幅に減少してしまう。国が荒れ、これまで培った技術や文化も失われてしまう。少しずつ積み重ねてきた人類の英知が、消えてしまう。

 人類の幸せを願うネイシスにとって、それは看過出来ない最悪の未来だ。だからこそ、こうして直接、悪神の復活を止めに来た。


 なのに――、


「神様。あとは僕に任せてください」

「(――はあっ!?)」


 トールが、自らの意思を表した。


 ネイシスが降臨している間、強すぎる神の影響を受けぬよう、トールの魂は隔離されている。意識はうっすらあるが、肉体には干渉出来ないはずだった。


 ギルド職員のフィリップを刺した時も、ルカに矢を放った時も、コントロールは常にネイシスが握っていた。トールは一切干渉出来なかった。


(まさか、これも【限界突破】のせいかしら?)


 わずかな間隙のうちに、ネイシスは気持ちを切り替える。

 トールがやりたいというのなら、その運命の行く末を見守るのが運命神の役割だ。


「(……いいわ、任せてあげる)」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る