第126話 助力……?
本日より、4章終了まで毎日投稿します!
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黒いローブを身に纏った金髪の女性が、突如姿を表した。いつの間に登ったのか、女性は悪魔の頭の上に立っていた。その女性の姿に、見覚えがある。
「あなたは……」
「C級冒険者ルカッ!」
リリィが答えるより早く、アロンが血を吐くような声で叫んだ。
彼がそのような声を出すのも無理はない。フィンリスが半壊したのも、冒険者ギルドが現在フィンリス市民からの信頼を失っているのも、すべて彼女のせいだからだ。
「今この状況で現れるとは、随分空気が読めないんですね」
「いえいえー。空気を読んだからー、今まで姿を表さずに待っていたんですよー?」
悪魔は未だに健在だ。いつ攻撃を仕掛けてきてもおかしくはない。
だが、まず攻撃されるのはルカだろう。そう思っているからこそ、戦闘中だというのにアロンはルカに語りかけているのだ。
悪魔との再戦に向けて、呼吸を整えるアロンと同様に、リリィも意識的に呼吸を繰り返す。ルカが無駄口を叩いてくれている間に、大気に交じるマナを少しでも多く体に取り込む。
その時、リリィは僅かな異変に気がついた。
(……おかしい。彼女の周りに、精霊がいない?)
精霊は、自然界のどこにでも存在する、神の使いだ。
それは世界中の魔力を循環させる存在だ。また、花に種を宿し、種を遠くに運ぶ者とも言われている。そんな精霊を視る力が、エルフのリリィには備わっている。
アロンにもエルフの血が流れているが、彼はハーフエルフだ。【精霊視】の力は受け継がれていないようだ。違和感に気づいた様子はない。
(前に、魔術書を買いに来たときは、光の精霊をたくさん連れてたのに……)
人として、あまりに不自然だ。しかし、何故そうなっているのかがわからない。
困惑するリリィをよそに、事態は思わぬ方向に転がった。
「いやー、みなさんずいぶんと、全力で戦われてましたねー。体力も魔力も、そろそろ限界なのではないですかー?」
「……あなたと無駄口を叩くつもりはありません。さっさと縄についてください」
「あははー。その前に、やりたいことをやることにしますー」
ルカがニマッと笑った次の瞬間、彼女の手に短剣が現れた。
体を回転させ、腕をしならせる。
こちらに短剣が飛んでくるか?
身構えたリリィだったが、その予想は大きくハズレた。
「「「「えっ……」」」
リリィもアロンもグラーフも、その光景に呆然とした。
ルカは、手にしたナイフを、なんと足下の悪魔へと深々と突き刺したのだ。
「一体、何を……してんだ?」
「まさか、助力のつもりですか?」
彼女はフィンリスに対して破壊工作を行った。その罪滅ぼしか?
様々な思考が一気に押し寄せる。皆が動きを忘れる中、短剣を突き立てられた悪魔がゆっくりと前のめりに倒れていく。
――ずぅぅん!!
二十メートルを超える巨体が、フィンリスの石畳に沈んだ。
「あれだけの魔術をぶつけても、平然としていた悪魔が……」
「……な、なんと呆気ない」
アロンとグラーフが戸惑っている。この状況を、どう判断すれば良いのかわからないのだ。
悪魔が簡単に倒されたのは、決してルカの能力が優れていたからではない。事前にリリィが撃滅魔術で、悪魔の結界を破壊していたおかげだ。
殻(結界)はとても硬いがその反面、中身(本体)はとても柔らかい。この悪魔は、まるで卵のような存在だったのだ。
もしルカが攻撃しなければ、リリィかアロンかグラーフの攻撃で、あっさり悪魔を倒せていただろう。《バインド》を使っただけでも、縛り殺せていた可能性すらある。
つまり、結界を破った時点で実質リリィたちの勝利は確定していたのだ。
「いやー、信じて待った甲斐がありましたー。途中、駄目なんじゃないかとヒヤヒヤしましたよー。でも、無事リリィさんが魔術で結界を破ってくれて、ほっとしてますー」
悪魔の頚椎から短剣を抜き、ルカが笑った。それは、ぞっとするほどの笑みだった。
「わたしのためにー、結界を破ってくれてありがとうございますー」
「……」
リリィはルカのこの笑みを、見たことがある。
この話し方を、知っている。
以前の彼女は、このように邪悪な笑みは浮かべなかった。
間延びした話し方もしなかった。
では一体どこで見知ったのか?
(どこで会った?)
……思い出せない。
些末な疑問に感じられるが、今すぐ思い出さなければならないと直感が訴える。
リリィが記憶を掘り起こしていた、その時だった。悪魔の死体が、サラサラと崩れていく。崩れた粒が空中に広がり、ルカの前に集まっていく。
その粒一つ一つに、尋常ならざるマナを感じる。
次は一体なにが起こるのか?
身構えたリリィはふと、悪魔の逸話を思い出した。
「まずい……アロン、すぐにルカを捕まえて!」
「ん、あ、ああ、了解」
リリィの切迫した声に、アロンが動き出す。
しかし時すでに遅し。ルカの眼前に、一本の細剣が出現した。
「……宝具」
悪魔はその身に、尋常ならざる力を宿している。人間ではまともに太刀打ち出来ない程の厄災だ。しかし悪魔を打倒した人間には、褒美が与えられる。
――悪魔の力だ。
「しっ――!!」
ルカが柄に手をかけると同時に、アロンが剣を振り下ろした。
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