第73話 食べ物はいつだって全力投球

○ステータス

トール・ミナスキ

レベル:31

種族:人 職業:剣士 副職:魔術師

位階:Ⅲ スキルポイント:516


 前回、フィンリスを救った前後で、レベルやスキルポイントが上昇。それに合せて位階も上昇した。


 位階が上昇したのは、レベル20から21に上がったときと合せ二回目である。


「なんとなく、位階の法則が見えてきたな」


 位階Ⅰはレベル1~20。

 位階Ⅱは21~30。

 位階Ⅲは31~。


「位階はレベルの上限に関係してるのかも?」


 透の場合は【限界突破】があるため、位階の上昇が起こった。

 しかし一般人には【限界突破】がない。


 これまで迷い人はレベルが上がらなかったという経緯がある。

 これと同じように、エアルガルド人もレベルの上限があり、また各個人の上限は位階によって違う可能性がある。


「成長限界値というか、位階はレベルの上限を示す項目なのかもなあ」


 いまある情報から、透はそう結論づけた。

 続いて透は各スキルをチェックする。



○基礎

【強化+8】

【身体強化+5】【魔力強化+5】

【自然回復+5】【抵抗力+5】【限界突破★】

【STA増加+5】【MAG増加+5】

【STR増加+5】【DEX増加+5】

【AGI増加+5】【INT増加+5】【LUC増加+5】


○技術

<剣術Lv5><魔術Lv5><弓術Lv5><合気Lv5>

<察知Lv5><威圧Lv5><思考Lv5>

<異空庫Lv4><無詠唱Lv4><言語Lv4>

<鍛冶Lv4><料理★><調教Lv1>NEW

<断罪Lv2><口笛Lv4><物真似Lv5>

【魔剣Lv2】


○称号【ネイシスのしもべ】



「おっ! 生えた!!」


 透がこれまで割り振ったことのないスキル<調教>が、アクティブになっていた。


「まさかこんなに早く、スキルが生えるとは……」


 エステルやリリィは、スキルが生えるまでにかなり時間を要すると言っていたので、透はあまり期待していなかった。


 しかし<調教>がアクティブ化した。


「才能があったってことかな?」


 才能があれば別だとも言っていたので、おそらく自分には調教の才能があったのだろうと、透は帰結する。


 思い起こせば、調教を試みたのはスライムに対して一度きりではなかった。


 フィンリスの森の中で、透はシルバーウルフを眼力だけで退けた。

 またランクアップクエストで赴いたダンジョンでは、シルバーウルフを<威圧>して透の指示に従わせた。


 透が日本で暮らしていた頃は、犬を飼っていた経験もある。

 これらの経験が、<調教>取得に作用したに違いない。


「他のスキルは……まあ、何も変わってないか」


 新しいスキルは<調教>のみ。

 それ意外になにか変化はないかと、透はスキルボードを入念にチェックする。


<はったり><うっちゃり><かわいがり>

<座布団投げ><四股踏み><土俵入り><弓取り式>……


「――っていうかなにこの相撲スキルシリーズ。これもネイシス様が入れたのかな? だとするなら、相撲に詳しすぎでしょあの人……。弓取り式まで入ってるし」


 このスキルをどう使えと言うのか。

 使いどころがちっとも浮かばない。


 その後、上から下までざっとスキルを確認したが、自然上昇しているスキルは見つからなかった。


 透は自分ではかなり訓練していると思っているが、スキルボードである程度成長させている。


 レベルは上がれば上がるほど、上がり難くなると相場が決まっている。

<剣術>や<魔術>はLv5と、(カンストがレベル10であるため)スキル全体の中間に位置している。


 エアルガルドがカンストスキル持ちばかりの世界でなければ、そう簡単にスキルレベルは上がらないものなのだ。


 剣道では初段から8段まで上げるためには、31年もの修業が必要だ。

 エステルが言っていたように、スキルを上げるためには、それくらいの訓練時間が必要なのだ。


 しかし透は、スキルを手軽に底上げ出来る。

 スキルボードがどれほど凄いアイテムか、透は改めて思い知るのだった。




 スキルの確認を終えた頃、太陽が西に傾き始めていた。

 それを見て、透は厨房に向かい、夕食の仕込みを始めた。


 昼食は手早く作れるステーキとスープのみだった。

 夕食はもう少し時間のかかる料理にチャレンジしたかった。


 カンストした<料理>スキルは、肉の焼き加減や塩加減が、神がかり的に向上した。


 とはいえ、スキルを上げれば自動的に知識が得られるわけではない。

 あくまでスキルで上げられるのは、技術力のみなのだ。


 透には、チャレンジしたい料理が山ほどある。

 しかし、そのためには調味料が圧倒的に足りなかった。


「調味料を一から作るなんて、やったことないからなあ」


 味噌、醤油、味醂、ソース、ケチャップ、マヨネーズ。

 日本で食べたことのある料理を再現するために、まずは調味料を作る必要があった。


「市場に売ってれば良かったんだけど、売ってなかったしなあ……」


 昼に市場を回った時に、透は調味料の確保も行った。

 だが市場には、目当ての調味料がほとんど置いていなかった。


 見付かったのは、塩と胡椒と酢、唐辛子など。

 他にもユニークな調味料も見付かったが、味噌や醤油は売っていなかった。


「醤油があれば、魚の煮付けが作れるのに!」


 透は、日本食に飢えていた。

 日本は恋しくないが、日本食が恋しくて仕方がない。


 しかし、残念ながらエアルガルドでは調味料の原料さえ揃わない。

 日本食に必須である味噌や醤油を作るための、麹がないのだ。


 いくら豆を煮潰して塩を入れても、豆の塩漬けにしかならない。


 なので、仕方がない。

 日本食はしばらくお預けにし、作れる調味料から作っていくことにした。


 まずは簡単にマヨネーズを作る。

 実際にマヨネーズを作ったことはないが、幸いにして原材料は知っている。

 油と卵と塩と酢だ。


 透は材料を<異空庫>から取り出し、あとはスキルまかせでマヨネーズを作る。


「おー!」


 さすがは<料理★>スキル。

 三十分も経たぬうちに、ボウルいっぱいのマヨネーズが完成した。


「……ちょっと、作りすぎたかな?」


 エアルガルドには冷蔵庫がないし、生マヨネーズは足が早い。

 常温で放置すれば、明日の朝には腐敗しているかもしれない。


「次に作る時は、もうちょっと抑えよう……」


 マヨネーズが完成したので、続いて透はタルタルソース作りに取りかかる。

 マヨネーズさえあれば、タルタルソースは簡単だ。


 卵を茹でて、玉葱、酢、塩を加える。

 本来なら砂糖も欲しかったが、とてつもなく高かったため諦めた。


「くっくっく……」


 タルタルソースを作る傍ら、今晩のメインディッシュと突き合わせも作っていく。

 自分が食べたい料理を作る透は、戦闘中もかくやという程、極限まで集中していた。


「ふははっ!!」


 日が傾き始めた厨房には食材を油で揚げるころころという音と共に、透がはしゃぐ声が響き渡っていた。

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