第2話

 ――ガーレン国で"ミリヤさん"に出会えてよかった。

 

 いまから半年前ーー北区に来てすぐに家を見つけた、わたしは働く所を探していた。中央区の商店街で"北区に住んでいます"と言うだけで断られた。


『北区? そんなところに住んでいちゃ。獣人臭くて商売あがったりだよ』


『ごめんね、うちじゃ雇えないよ』


 世の中はこんなにも冷たい……疲れはてたわたしの前に『【賄い付き・アルバイト求む】』北区にあるミリア亭という定食屋の窓に貼られていた。わたしは賄い付きにひかれて準備中のミリア亭の扉を開いた。


 カランコロンと、使い古された真鍮製のドアベルが鳴る。


『すみません、表の紙をみました』


 ミリア亭の店内は魔石ランプがいくつも吊り下がり、店の中を照らしていた。店内はカウンター席とソファー席、二十人くらい入れば、満席になりそうなレトロな作りのミリア亭。


『すみません、誰かいませんか?』

 

 もう一度ことをかけると、奥から白いエプロンを付けた、茶色いショート髪と瞳の優しい印象の女性があらわれた。


『ごめんね、店はまだ開店準備中なの』


『ち、違うんです……わたし、店の前の張り紙を見てきました、ここで雇ってはいただけませんか?』


『表の張り紙? ああ、働きたいのね――やる気はあるなら雇ってもいいけど。今から働ける?』


 ――いまから?

 

『は、はい、大丈夫です』


『私は店の名前と同じミリア、あんたの名前は?』

 

『わたしの名前はリ、……リーヤと言います。ミリアさん、よろしくお願いします』


『リーヤか。もうすぐ店が開店するから、よろしくね』


 と、ミリア亭は十一時にオープンした。


 

 

 働き始めて気付く、ここは亜人区。

 店に来るお客の殆どは亜人だった。そして、ミリア亭のメニューは日替わり一品だけ。


 わたしの仕事はお冷と、手拭きタオルを運ぶ。

 ミリアさんが作った料理を運び、会計する。


 ――これなら、わたしにも出来るわ。


『ごちそうさま、ミリア』

『あいよ! またおいで』


『あ、ありがとうございました』

 

 お客はわたしを見て『新しい子?』と聞いてくる。

 わたしが『そうです』と答えると"頑張りな"と言ってくれた。わたしは嬉しくて『はい、ありがとうございます』と返事を返していた。


(北区の人が、優しい人ばかりでよかった)


 ミリアさんは厨房の流し台で洗い物をする、わたしに『あんたは珍しいね』と言った。


『珍しいですか?』


『綺麗な外見してるからさ。ここのお客を見て、逃げ出すかと思っていたよ』


 と、ミリアさんは笑った。


『初めは驚きましたけど……お客さんはみんな優しい方ばかりでした』


『そうだろ? 北区のみんなは優しいんだ。それなのに他の区の連中はあいつらは嫌がる。この王都を……北区の門を守るのに必死に戦っているのにな……昔と同じで、貴族達はまだ亜人達を下に見てるんだよ。私からしたら外見は違うけどみんな同じさぁ』


 そのミリアさんの言葉、わたしにもわかる。

 騎士学園の同級生に獣人の方が何人かいた。彼らは話してみると楽しく、みんな優しかった。――それに、彼らは周りの目を冷たい言葉を気にせず、学園卒業後は自分たちの国の、騎士に乗るために戻っていった。


 カランコロンと最後のお客も帰り、あとは店を閉めて終わりだと思っていた――だけど、ミリアは店の時計を見上げ。


『そろそろ、来る時間だな』


 それだけ言うと、店の食料保管庫に入っていった。

 

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