第3話
時刻は午後二時ちょい前。再び、カランコロンとドアベルが鳴り店の扉が開いた。閉店した店にお客が来たと、わたしは手を拭いて厨房から迎えに出た。
(……え、)
店にゾロゾロ入ってきたのは黒いロープ姿の長身の男性、草色のシャツとズボンの上にゴツい胸当てと膝当てを着けた耳と尻尾の二メートル身長がくらいある大男二人と、可愛い子供が二人。
その人達は迎えに出たわたしには気が付かず、前を通り過ぎると。ポフ、ポフ、と半獣の姿からからトラとライオンの獣人、リザードマン、竜人の姿に戻っていった。
(ええ、)
彼らは、斧、大きな盾、杖を持っているけど騎士団にしては身なりが少し違う感じがした。もしかしてこの国の雇われ傭兵。その中、大男二人が厨房に向けて声を上げると、他の人も声を上げた。
『ミリア飯!』
『ミリア、腹減った!』
『腹ぺこです』
『ミリア、ご飯!』
『ミリア、僕にもご飯!』
ミリアにご飯を催促して武器を入り口に置き、各々好きなテーブルに座った。学園に来ていた獣人達とは違っていた。獣人の二人はなんて大きな体、凄い盛り上がった筋肉、リザードマンは長身で鱗状の長い尻尾。竜人の二人は頭に黒いツノと小さな鱗状の尻尾。
(この人達は誰?)
驚きと、興奮、彼らに見入っていた。
『リーヤ、そんな所でボーッとしないで、出来上がった料理を運んで!』
『は、はい!』
ミリアに呼ばれて料理を取りに慌てて厨房に入った、その姿にようやくわたしの存在に気付いた彼らは、
「「はぁ、リーヤって誰だ?」」
と声を上げた。
みんなは厨房に入ったわたしを追っかけて、カウンターに集まりジロジロと見てくる。
『また懲りずに人間を雇ったのか?』
と、眉をひそめた。たてがみが綺麗なライオンの獣人。
『シッ、シッシ、今度はいつまで続くやら』
と笑う。これまた大きいトラの獣人。
『とても綺麗な方ですね、私としては長く続くといい』
と、言う。きりりとした瞳のリザードマン。
『可愛い、おねーちゃん!』
『綺麗な、おねーちゃん!』
と、可愛い竜人。
『あ、あの今日から? ……今日だけ? 働かせていただいています、リーヤです』
みんなに頭を下げた途端にカウンターから質問攻めを受ける。"歳は?""どこ出身?""どこに住んでいるの"まで聞いていた。トラはわたしの見た目からか……お前の外見と姿が育ちが良さそうだな、家出か? と聞かれて違うと反論した。
『いいや、お前はどう見ても家出だろ?』
『わたし、家出なんてしてません!』
『十五歳くらいだろ』
『二十歳で、成人しております!』
と反論した。そのあとも厨房からカウンター越しに、トラと言い合いをしていた……周りは呆れた顔と笑い顔。
『信じてください、わたくしほんとうに二十歳ですわ!』
『ハハハッ、採用だ! リーヤはコイツらまで怖がらないなんてな、明日から働きに来てくれ』
『いいんですか? 嬉しい、よろしくお願いします』
ようやく仕事が決まった嬉しさのあまり『これで家の雨漏りが直せるわ』と、余計な言葉が口からポロッと漏れた。
それにみんなは反応する。
『あぁ? 雨漏りだって?』
『シッシシ、お前んち、雨漏りするのか』
『それはいけませんね。狭いですが私の部屋に来ますか?』
『おい、ロカ。俺達の宿舎にこの子を呼ぶきか?』
『シッ、シッシ、それはやめとけ。人間の騎士団員に見つかると、この前みたいに始末書とこっ酷く怒られるぞ』
『アレは私の妹でした。あちらが勝手に勘違いをして声を上げただけで、私は悪いことなどしておりません!』
『そうだったな』
『ねぇ、ねぇ、リーヤの家は雨漏りするの?』
『雨漏りするの?』
カウンターからピコンと可愛い男の子が覗いた。
『そうなの……家を買ったのはよかったのだけど、寝室がね雨漏りしてしまうの』
見た目はボロいけどタイル張りのキッチン、お風呂とトイレ付き。リビングダイニング、そして寝室にする予定の部屋がこの前の雨で雨漏りすることが分かり、いまはリビングに布団をひいて寝ている。
『おーそれはいけませんね。私のベッドで今日から一緒に寝ましょう』
……え、男性の方と同じベッドで、
『む、無理です……わ、わたく……わたし、男の方とベッドで寝るなんてできません』
半年前までは結婚していたけど男性と一緒に寝るとか、その他のことはしたことがなくて焦って頬が熱い。
『照れた姿も可愛い』
『……うっ』
『はいはい、ロカはリーヤが可愛いからってナンパしないの。みんなもお喋りはそこまでにして折角の肉が冷めちまうよ! リーヤはみんなに肉を運んで』
『はい!』
厨房に入ると焼きたての分厚いステーキが並んでいた。ミリアにこれがアサト用、ナサ用、ロカ用、リヤとカヤ用だと言われたのだけど、みんなの名前はまだわからない。
『これがアサトさん? ロカさん?』
お皿を持って困るわたしを見かねた、トラの彼が指をさして教えてくれた。
『リーヤ、オレがナサで。あっちにいるのがアサトとロカ、チビがリヤとカヤだ』
『ありがとう、ナサさん』
カウンター席はナサ、向かい合わせのテーブルはアサトとロカ。奥の六人掛けのテーブルにはカヤとリヤ、みんなに分厚いステーキを運んだ。
『リーヤも好きな場所で食べな』
『いいんですか? ありがとうございます』
わたしまでお肉をもらって、カウンター席にいるナサの隣に座った。
『いただきます……モグ、んんっ、柔らかいわ』
こんなに美味しいお肉は久しぶり、うきうき食事を始めると彼はカウンターに肘を付き、じっとわたしの食べ方を見てくる。
そんなに見られると困る。
『あの、ナサさん、なんでしょうか?』
『いや、リーヤは食べ方が綺麗だなって思ってな、こうか? それともこう?』
ナサはさっきまでフォーク一本で豪快に食べていたのに、わたしの食べ方に興味にあるのか見様見真似を始めた。それもわたしよりも綺麗な食べ方で、
『ナサさんのフォークとナイフの使い方が、わたしよりも上手いわ』
言い方が変だったのか、ナサが噴き出す。
『ブッ! オレを"さん"付けなんて呼ぶな、照れ臭いし、むず痒い、ナサだ、ナサって呼んでくれ』
男性の方を呼び捨てで呼ぶのも初めて。
一呼吸置いて彼の名前を呼んだ。
『……ナ、サ、ナサ』
『なんだ? リーヤ』
『あ、うんん、呼んでみただけ』
『シッシシ、そうかよ』
笑ったナサの笑顔が素敵で、名前を呼び捨てにするのは初めてのことで、照れ臭くて“えへへっ"と照れ笑いした。
その様子に後ろのソファー席から、
『あー! ナサ、ぼ、僕を置いてリーヤをナンパですか? ずるいです』
『アホかロカ、お前じゃあるまいし……オレはナンパなんてしてねぇよな』
ナサがわたしに意見を求めてくる、それに笑って答える。
『さぁ、どうですかね?』
彼の琥珀色の瞳が開かれて、おもしろそうに笑い。
『シッ、シッシ、リーヤも言うね』
『フフ、言うでしょう』
久しぶりの楽しい食事と、お腹の底から笑えた。
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