Day.104 記念写真なんて黒歴史にしかならないけどな創造神
※小説投稿サイト「ノベルアッププラス」主催のイベント内で出題されたお題「記念写真」に基づき書き下ろしたため、本編とは時系列が異なります。
※【Day.46〜50】を読了後にお読みいただくと、より本エピソードをお楽しみいただけます。
時は『
妖精界最強の歌姫『
優勝こそ逃したものの、彼女の歌い踊り舞う姿が審査
「アルファちゃ〜ん♪ 特別審査
式が終わるなり妖精アルファのもとへ駆け込んできたのは女エルフ教師のスノトラだ。心底嬉しそうに声をはずませながら両手で抱えているそれに、なぜか顔をしかめたのは少年だった。
「げっ」
「こ〜んな大所帯でコンクールに出た妖精ちゃんはきっと先にも後にもアルファちゃんたちだけでしょうね〜♪ おかげでスーも、先生たちみ〜んな楽しい時間を過ごせました〜♪」
朗らかな笑みを浮かべたスノトラが持っている無機物に、
――それはいったいなんだ、スノトラ? 魔道具か?
「うふふ〜♪ 初見さんは人でも神でも種族問わずみぃんなして、これを魔道具と見間違うから面白いですよね〜♪」
「魔道具ねえ……スノトラ先生。なんなら俺は、魔道具という概念がこの異世界にあることを今の今まで知らなかったんですが?」
「あらあら市長くん♪ きみの学ランに備えている第二ボタンも、創造神様がご用意なさった立派な魔道具ですよ〜? わたしたち魔力を扱う種族が、それを操るための道具も取り扱っているように……」
言いながらスノトラはおもむろに魔道具――凹凸物が側面のあちこちに付いた小さな箱で、その真正面でひときわ出っ張った筒を私へ向けた。
「市長くんたち人間族も、このように高度な文明器を扱っているのでしょう?」
カシャン。
乾いた音がして、私の視界が一瞬だけ白くなる。
――なっ、なんだ!? 筒から閃光でも浴びせられたのか!? スノトラめ、私のしもべともあろう者がなんの躊躇いもなく攻撃など……。
「うふふ〜くすくすっ♪ そのリアクションも新鮮味がなさ過ぎて逆に新鮮です〜♪」
「神様って
「それを確かめたくて試したんですけど〜……あら?」
一応とか腐ってもとか、失礼な言い草が聞こえてきたが……まあ大目に見よう。
チカチカしていた視界が元に戻った頃、少年とスノトラはといえば、閃光を放つ謎の魔道具を二人で凝視していた。
「……何も映ってないな」
「ですねえ。やはり創造神様には効きませんか」
――ど、どういうことだ? 確かに私の身体に異常は起きていないけれども。
「この文明器では、レンズに映した者の姿を紙などの平面へ描くことができるのです〜♪ 人間族はその成果物のことを『写真』と呼んでおりまして〜♪ せっかくの市長くんや妖精ちゃんたちの晴れ舞台、ぜひとも写真を残して後世へ語り継ぎたかったのですが〜♪」
「難儀な体質持ってんなあ創造神……おかげでレンズに収められたのは、コンクールの話を聞きつけた野次馬どもが、誰に頼まれてもないのにアンコールと称して体育館で踊り歌っている惨劇だけだ」
振り返れば客席のほうでは野心馬、もといアルパカ連中が「パッカーパッカーアルパッカー♪」と、他の世界の住人たちへ自称崇高なアルパカ族の音楽を布教している。
「仕方ありません。どうせ撮るなら創造神様やあちらの目障り……いえ、賑やかなお客様もご一緒にと思っていましたが」
スノトラは残念そうに首を振った。
「この記念写真は、大きな本番をやりとげた出演者の皆さんで撮りましょうか」
「あー……じゃあ俺もいいや。妖精と先生たちだけで撮ってください。俺は市長として、あのはた迷惑なアルパカを追い出してくるんで」
「あらあら、それはいけません! 市長くんがいない記念写真なんて記念写真になりませんよ? あのカスハラ予備軍を片付ける仕事は先生に任せて〜♪」
すぐさま他の妖精たちへ呼びかけに行くスノトラ。私の背後では別のエルフが、おそらくアルパカたちを懲らしめているであろう音が騒々しく聞こえてくる。
……うん、あっちは気にしないでおこう。
妖精たちが続々と集まる中、少年は写真なるものにしかめ面を続けていた。
「うう……俺、記念写真なんつうもんにろくな思い出がないんだよ……」
「だったら今日は、市長くんが写真を好きになる記念日にもなっちゃいますね〜♪」
嫌がる少年を無理矢理にでも体育館ステージへ上がらせたスノトラが、集まってきた妖精たちを整列させていく。
結局はアルパカたちも写真撮影に混ざることにしたらしく、私がぼんやり眺めていると、少年が唇をへの字に曲げたまま。
「何やってんだ創造神? お前も来いよ」
うん? 私も?
私は良いよ。というか意味がないだろう? なんせ、写真とやらに全能たる私は映らないそうだから──
「映るか映らないかは関係ない。お前の世界、お前の
*****
ふうむそういうものですか、と写真撮影には私も混ざったとはいえ。
魔道具から捻出された薄っぺらな紙きれに私の姿が描かれるはずもなく、なぜか少年と並んで中央を陣取ったせいで、写真には不自然な隙間が空いていた。
少年と妖精たちはその写真で「うわキモッ! これもう
私自身も壁と同化したそれの存在を忘れつつあった頃、部屋を訪れた天使族の少女が「あ〜っ!」と写真を指差して──
「これですかあ、噂の『
四年に一度のなんとやらみたいなノリで騒いだことにより、私の脳内ではあの日の出来事や彼らの奏でた音色が鮮明に蘇ってくる。
ああ……そうか。この瞬間のための記念写真だったのだな。
この世界が続く限り、記憶は、思い出は、私が目にしたものすべて、あの紙きれ一枚で何度でも蘇るらしい。
(Day.104___The Endless Game...)
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