ifストーリー こんな優しい聖母様(ママン)が創造神のはずがない!

【まえがき】

 こちら、自主企画「第二回アキノテンノウショウ(偽)」に出品させていただいた、本編とは一切関係ないifストーリーの再掲となっております。

https://kakuyomu.jp/user_events/16817330662342815790


「もしも少年を召喚したのが『神様』ではなく『お母さん』だったら……?」

を描いてみました。(まるで意味がわからんぞ?????)

お楽しみください!

*****






「……うねん? 少年!」


 まどろみの隙間、あたたかな声が降ってくる。


「ん〜、ううん……」

「起きろ少年!」


 布団を引き剥がされたかと思いきや、寝ていたベッドごと宙へ浮かび、ひっくり返される。

 ごろごろと冷たい床へ転がされたことで、俺は覚醒させられざるを得なくなった。


「ぐげえっ!!」

「まったく、いつになったら自分から起きて来るようになるのだ? そんな調子では一人前の市長とは名乗れないぞ!」


 見上げると両手を腰に当て、はるか高みから見下ろしている──『創造神ママン』。

 やれやれ。朝から説教モードだ。



 このどこにでもいるありふれたママンみたいなやつが、俺をこの異世界に召喚した神様だ。

 こいつが天地だけ作って、まだなにもなかった世界を「最高の都市せかい」に育て上げるべく、その市長として俺を呼び出したというわけだ。

 以来、創造神は最初に建設(創造魔法でぽんと何もない土地に発生させたともいう)した通称「市長の家」で、俺と一緒に暮らしている。……厳密には、創造神には創造神で用意された別の家があったはずなんだが……こうして俺の面倒を見ているうちに、ほとんど居着いてしまっていた。 



「ご、ごめん……おはようございます……」

「おはよう少年。さ、着替えていつものラジオ体操とランニングに行こう」


 うながされるままに軽装へ着替え、創造神と一緒に庭へ出てラジオ体操に興じる。

 このラジオは最近、近隣都市と繋がった魔法陣を管理している『ステーション』が流してくれるようになった。

 ちなみに、この町に発電所はない。

 町で必要としているありとあらゆる電力は、創造神が自身の魔力から置き換えることで、いわゆる「自神発電」してくれているからだ。


 ラジオ体操の後は家の近所をランニング。

 なぜかこっちには創造神は付き合ってくれない。いわく「朝ご飯の用意をするから」らしいが……たぶん、急に走るとバタム! と倒れてしまう体質なんだと思う。

 ああわかるよママン。運動不足なやつってだいたい皆、走る前に同じことを主張するんだよな。


 帰ってきてシャワーを浴び、俺はいつもの学ランに着替えた。こっちの世界にくる前に通っていた、学校の制服だ。

 朝ご飯のピザトーストを食べながら、


「少年。今日も夕飯は家で食べるだろう?」


 創造神がリクエストを聞いてくるのもいつも通りだ。


「なにか食べたいものはあるか?」

「ん〜……じゃあ、ハンバーグ」


 答えると創造神はメモ用紙とペンを取り、


「なら、メインは豆腐ベースのハンバーグ。おかずに庭で栽培した野菜を使ったサラダと召喚本カタログで取り寄せたナメコの味噌汁、いつもの雑穀米にデザートはごまプリンだな!」

「最後のプリンはママンが食べたかっただけだろ?」


 そう提案されたので俺は苦笑いを返す。

 ……本当は、大豆じゃなくお肉をベースにしたハンバーグが食べたいんだけど。

 まあ仕方ない。目を瞑ろう。創造神は俺の健康を思って、毎朝毎晩のように献立を考えてくれているんだ。



*****



 朝の支度が終われば、俺たちはようやく市長としての仕事に取り掛かる。

 今日は午前の予定は二件──

 が経営している『カチク・コーポレーション』の視察と、近隣都市との政治的橋渡しを担っている『大使館』にて、使の観光大使・プリンとの面会だ。


「お待ちしておりました、市長どの、創造神どの」


 視察に訪れると『カチク・コーポレーション』の代表取締役クロが、


「早速ですが、このたび弊社では新しい商品の開発に着手し始めました。こちらを販売すれば売り上げは数倍……いえ数十倍に跳ね上がると我々では見込んでおります」


 などと言いながら工場まで案内してくれる。

 工場ではの社員たちが電池の製造にあたっていた。


「どんな商品なんだ、クロ?」

「一言で言えば『充電式燃料電池エ○ループ』にございます! 魔力を燃料とした、使い捨てではなく半永久的に使える電池です。こちらの製造にあたりまして、特に創造神どのには、ただいま使用している工場からさらに数レーンを増設していただきたいと思いまして……」


 ……うーん。

 やけに聞き馴染みのある商品名だった点だけが引っかかるけれど、確かに充電式電池は便利だしなあ。

 俺が危うくゴーサイン出しかけたところで、創造神が背後から口を挟む。


「クロ社長。収益にこだわるのも大事だが、費用対効果をちゃんと考えるのだぞ」


 腕を組み、


「レーンを増やすということは、それだけ土地も取るし、なにより人員も増やさなければいけなくなるだろう? くれぐれも社員たちの分業を心がけ、サービス残業が発生することがないように頼むぞ」

「はっ、はは〜あっ!」


 釘を刺してきた創造神にぎくりと肩を震わせ、深々とこうべを垂れる。

 ……さっすがホワイト経営志向のママン。よく気付いたなあ。

 開発も経営も、何事も焦らずのんびりって大事だよな。



 視察が終われば、次は観光大使との面会だ。

 観光大使を務めている天使族・プリンは、俺と同じような年頃をした少女みたいな容貌をしていて、住民の中でもとりわけ話しやすく接しやすい感じのやつだ。

 大使館で出迎えられ、しばらくは他愛もない話を楽しんでいたが、


「ねえ市長さん! 近いうちに都合の付くお時間はありませんか?」


 プリンは満面の笑顔でそう切り出した。


「今度、近隣の都市まちへ出張した際に、こっちの都市まちでは採取できない珍味を調達してこようと思いまして。どうです、市長さんもお付き合いいただけません? 一狩り行こうぜ!」

「へー」俺は何気なく頷く。「珍味ってどんな?」

「もっちろん! こうが──」


 創造神が割り込んだのも早かった。


「あーあーあー! リアル・モンスター・ハント……いやデビル・ハントは少年にはまだちょおっと刺激が強いんじゃないかなあ? 年齢対象外かなあ? 今回のところはご遠慮させてもらおうかあ!」


 ひええ……さすが残虐非道系少女プリン。

 絵に描いた天真爛漫な笑顔ですげーこえーこと言うなあ……ママン・ストップがかかって安心した。

 この都市でもよその都市でも、いろんな神様が運営していて、いろんな種族が暮らしている以上、俺も人間族の市長として、住民との付き合いかたにはもっと気を配らないといけないよな。


 まったく……ママンはつくづく頼りになるやつだよ。



*****



 昼は俺も通っている『創造神専門学校(仮)』へと向かい、食堂でランチを摂りつつ、の学生たちとちょっとした会議があった。

 彼らは遊びや楽しいことが大好きで、俺へは公園で新しい遊具をこしらえて欲しいというリクエストをしてきた。


 うーん、妖精が楽しめる遊具かあ……。

 ブランコも滑り台もジャングルジムも、自力で空を飛べるこいつらには物足りないだろうなあ。

 俺が悩んでいると、


「では羽根で飛ぶよりもうんと速い、ロープウェイなんかはどうだ?」


 そう言い出した創造神が、おもむろにグラウンドまで飛んでいく。

 詠唱を始めた。


 אתה נבחר על ידי

(訳:お前は私に選ばれた)

 קבלו את ברכות הארץ

(訳:大地の恵みを受け取りなさい)

 תשפוך עליי אהבה

(訳:私に愛を注ぐのだ)

 בהצלחה לבסיס ההיסטוריה

(訳:歴史の礎に幸あらんことを)


 グラウンドに現れたロープウェイ試作品に、妖精たちがわっと盛り上がる。

 俺も妖精たちと一緒に試運転だ。


「ひゃっほーい!」


 こ〜れは楽しい! 妖精だけじゃない、人間の俺でもじゅうぶん楽しめるじゃないか! 俺……今、風の子になってる!

 さっすがママン! 大人の配慮と子どもの遊び心を兼ね備えた神様だ!



 午後はそのまま学校で・スノトラ先生の個人レッスンを受ける。

 いくつか授業に出席したあと、俺は職員会議に呼び出された。もちろん生徒としてお叱りを受けたわけではない。市長として、新しい学校行事を決める会議に招かれたわけだ。


「ただの運動会や文化祭じゃなく、いろんな種族が楽しめるアイディアを探し求めて三千里……なにか良い案はありませんか、市長くん?」


 スノトラ先生に困り顔でたずねられ、俺もしばらく唸っていた。

 創造神は今度は背後に立ったまま黙っている。なにも思い浮かばないんだろうか。


 ……いや。待てよ。

 なにをママン頼みで行こうとしてるんだ、俺。

 そうだよな。俺だって創造神や住民たちに頼りきりじゃない、市長として積極的に意見を出していかないと!


 そうして俺は苦しみながらも「空飛ぶカーレース」と「スターキャッチ☆プリ○ュア」を考案。

 特に「スターキャッチ☆プリ○ュア」は、空から降って来る流れ星を選手たちが拾うという、異世界ならではな夢と希望とロマンにあふれたアイディアだ!


「なるほど〜グッドアイディアじゃないか、少年!」

「ええ♪ さすがは学校でも成績一番な市長くんですね〜♪」


 めっちゃ褒めてくれる創造神とスノトラ先生。

 のちに俺のアイディアは、魔力を持たない俺でも勝機があって、体の小さい大きいにこだわらず誰でも危険なく遊べるよう、先生たちの間で具体的なルール(主に魔力強者連中への縛りプレイ)を考えてくれるらしい。


 ……へへっ。

 なんやかんや、ママンに上手いこと転がされちゃったな、今日も。



*****



 忙しい市長の一日もこれでおしまい。

 夕飯のおかずとして、・ザクが切り盛りするスナック店で手羽先を買って帰宅した。家ではすぐに創造神がハンバーグを用意してくれる。


「今日も頑張ったな、少年」

「どうだろうな。俺はほとんど遊んでただけなような……」


 遠慮がちに言ってみると、創造神はチッチッと人差し指を振って、


「馬鹿者。あっちこっちを見て回って、まだ少年が知らない世界を少しずつでも知っていくのも、市長としての大事な仕事で、お勉強なんだぞ。だからな、少年はものすごーく頑張ったのだ!」


 やっぱり褒め上手だ。ママンの器用さと懐の深さには恐れ入るよ。

 俺も将来、大人になったらこういうパパンになれるのかな。



 明日はステーションで「一日駅長」をやる予定だ。

 かなり大勢の前に立つことになるだろう。髪も伸びてきたし、朝イチで美容院にでも行こうかな。


「さ、お風呂に入ってさっさと寝るぞ少年。早寝早起きは優れた市長の鉄則!」


 その通りだよ、ママン!

 本当は俺、ちょっぴり、いや、かなり朝が苦手なんだけど……。




「……なあ、ママン」


 布団に入り、眠りにつくまで近くで待っていてくれようとしている創造神へ。


「いつもありがとう。俺、ママンとなら最高の都市まち……いや、最高の世界を目指せるような気がするよ!」


 希望に満ちたキランキランした目と、まぶしい笑顔で告げてみると、


「……そうだな、少年」


 創造神はなぜか、ちょっとだけ優しさの中に切なさを帯びたような微笑みを返す。


「だが、それは私のおかげではないよ。少年が毎日頑張ってくれているから、私も皆も幸せでいられて。……だから、ああ。たまには少年にも良い夢を……」

「え?」

「……いや、なんでもない。おやすみ少年。また明日ね」


 次第に意識が遠のき、心地よい眠りに誘われる。

 創造神の子守唄を聴きながら、明日もその先も待っている異世界ライフ、都市開発の日々に思いを馳せた。











 ──ああ、また明日。

 我が愛するしもべたちに、素敵な異世界ライフが待っていますように。

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