Day.95 初回は外、リピートは内。これぞ本気デートの黄金式…?
なぜかという絶妙な言い回しになったのも、そもそも私はこの学校の校長先生的ポジションにあって、生徒みたく教師に呼び出されるような立場ではなかった点と、こうして呼び出された理由もとんと見当が付かないという点が重なったわけで。
職員室のソファで向かい合うは、二人の女エルフ教師。
ひとりはスノトラ。
我が校で音楽教師としてエース級の働きを見せてくれている、『アース十六』が一柱、賢明なるスノトラで名が通った文句の付けどころがない才媛だ。
ひとりはロヴン。
同じく『アース十六』が一柱、穏やかなるロヴン。
最近、姉妹都市を提携した『
えー……それで?
この席には、私と同じソファに座した『
なにをするんだ、今から?
「う・ふ・ふ」
いわく審査員──否、審査
「勝負のテーマは『焼き芋』! 私たち三人の審判を、合コンに現れた男ドワーフ族だと思って、頑張って口説き落として、お持ち帰り目指しちゃってね〜❤︎」
──……は?
え? ちょ、え? ここ、学校だよな?
「もちろん、勝ったほうのご褒美はわ・た・し❤︎」
──いや要らんがな!
未成年お断り爆乳女神を持ち帰ったって、なにをどう扱ってもコンプラ違反で学校もカ○ヨムも追い出されてまうがな!
*****
「……えー、というわけで」
私も知らない場で、合コン(仮定)の幹事役はヨルズと決まっていたのだろう。
持ち込んでいた冷水入りのビールジョッキを配り終えると、どこぞのホストみたく足を組み、格好つけて前髪を軽くすきつつ、
「本日はお集まりいただきどうもありがとうございます。では──乾杯!」
「かんぱ〜い!」
ヨルズの号令で、スノトラとロヴンは高々とビールジョッキを掲げた。
私も雰囲気に呑まれてしまい、渋々ジョッキを周りの者へキンと擦り合わせる。
ううむ……すでに言いたいことは山積みだが……。
ひとまず、合コン界隈で男女問わず「とりあえず生ビール」は一般的なのかが私はたいへん気になっている。女性はレモンサワー、カシスオレンジあたりが無難じゃないのか?
「ドワーフ族には酒・タバコ・ギャンブルに寛容なエルフ族のほうがウケ良いから」
──そ、そうなんですかヨルズ先生?
ていうか、やめろやめろ! そんなヒモ男まっしぐらな自堕落ニート種族!
エルフ族のなんとも理解し難い奇特なところは、ドワーフ族みたいな低身長低IQ低収入をご贔屓にする……いわば「ダメ男に引っかかるキャリアウーマン」みたいな女エルフがやたら多いのである。
「じゃ、自己紹介をお願いします」
「どもども〜☆」
口火を切ったのはロヴンだ。内巻きのパーマを指先でくるくるといじり、甘たるく甲高い声色で、
「わたしぃ、お昼は学校のせんせーやってまぁす、ロヴンでーす☆」
いかにもあざとい女を演じている。
良いのか、そのキャラ付け? それも男ドワーフの髭面にウケる戦略か?
「趣味はショッピングと音楽鑑賞でーす☆ あとぶっちゃけぇ、髪の手入れには結構気ぃ使っててー……夜はカラオケバーで友達としょっちゅう歌いに行ってまーす!」
──お、おいおい。そりゃドワーフにモテるわけだよロヴン!
きみアレだろ? アレなんだろ?
彼氏にしてはいけない男ランキング・ベストスリー『美容師・バーテンダー・バンドマン』をコンプリートしていこうという算段なんだろ!?
いやはや策士だなあ。とかくレッテル貼られがちな通称『3B』をあえてピンポイントで狙っていくとは……。
「え〜こんばんは〜♪ スノトラと申します〜♪」
対するスノトラは両手をすり合わせ頬へ手の甲を寄せ、
「わたしも学校の先生してます〜♪ ピアノが得意で、趣味はランニングとクラシック音楽鑑賞です〜♪」
すらりと長く伸びた白髪を傾け、いかにも清楚系を気取った落ち着きある声色を錬成していた。
しかし、こちらは随分とロヴンに相反する戦略ではないか?
ランニングというチョイスは悪くない。健康志向な男を釣るにはもってこいだ。
だが音楽に関して『クラシック』と限定したのはいかがなものか? これぞ好き嫌いが割れそうなチョイスだが……。
「スノトラ、さんは〜」
すかさずフレイヤが質問を投げかけた。
「クラシック音楽がお好きということだけど〜、わりとコンサートへも足を運ぶヒト?」
「ええっ!」
スノトラはお行儀良く、しかし言葉尻も強く。
「近隣の
赤い瞳をきらりと。
「この時期になると、とっても美味しくて風情ある『焼き芋』の屋台が開いているんです〜♪」
──これが狙いか!
さすがの私も、スノトラの次の台詞には察しが付く。
「フレイヤ様はお芋、お好きですか?」
「食べ物のお芋なら好・き・よ。芋女芋男はいまいちだけど」
「でしたら今度、コンサートついでにスーとご一緒しませんか? 心地よいオーケストラの音を聞いた後の、ほっかほかの焼き芋は格別──」
「わたしぃ〜……」
すると、ロヴンが急に声を大きく張って。
「最近、家でさつまいもの創作料理にチャレンジしてるんですよ〜☆」
──おおっとお!?
あっちは堂々かつ、一聴すれば健全たるデートのお誘い!
こっちはなんと、あざとくもあざとい『お家デート』と開幕しゃれこもうってか!?
「へえ? 料理するんですね」
反応したのはヨルズだ。
「私、料理得意なエルフさん、超リスペクトしてるんすよ」
「大っっっ好きですよ料理! 初めはスイートポテトやグラタンといった王道を試してたんですけどぉ、最近は配信者の動画とか参考にしながら、レストランでもなかなか出してなさげなレシピを自分でも考えてるんです〜☆」
──すばらしい。ロヴンが狙いとしている本命はこれか!
雰囲気はいかにも男慣れしてそうなアバズレだが、よくよく交流を深めてみれば家庭的な側面もあるという、典型的なギャップ萌え!
「ヨルズ先輩……あとフレイヤ様に、そっちの名無し様も! 来週の休日空いてたりしません? ちょうど新作レシピの感想聞かせてくれる、レビュアーを探してたとこなんですよ〜☆」
──しかも、きっちり場にいる全員を誘っていくぅ!
いち早く特定の男と交際関係に持ち込みたいスノトラと、さほど恋愛に急いでいないロヴンの差がここで明確に出ていくぅ!
数打ちゃ当たる……じゃないが。
出会いや交流の場を、合コン一回でいかに増やしていけるか。チャンスをいかに広げていけるか──そして最終的には、いかにレベルが高くてウマも合う男を運命の糸まで手繰り寄せられるか。
これも、女性陣の腕の見せどころかもしれない。
*****
勝負は決した。
審査員の三名全員が、『お持ち帰りしたい女エルフ』旗をロヴンへ挙げる。
「お〜っほっほっほ!」
「ぐ……!」
「わたしにかかればこんなモンですよ〜☆ スノトラ先輩は、初対面の男にいちいちがっつき過ぎ! だから元カレに重いって言われちゃうんですってば〜☆」
「お黙りなさいアバズレ! 初手で家へ連れ込もうなんて、あなたのほうがわたしよりもうんとはしたないはずなのに……!」
「そういう目当てのデートじゃないんで。てか、将来的にそういう関係になるかもしんない女の部屋は、いっぺんリサーチ掛けときたいのが男のサガでしょ〜☆」
「んぐぐ……確かに……っ!」
完全敗北を喫したスノトラが歯軋りする。
「と・い・う・わけでえ〜……」
フレイヤがウィンクした。
「後輩エルフにもしてやられてしまったスノトラちゃ〜ん? 今週末の合コン、頑張ってね〜!」
──な、なるほど。
この急な催しはスノトラのための予行練習だったのか。
とかく男性運、恋愛運に難があることで有名なスノトラ。
次なる勝負の場では、ぜひとも『賢明なるスノトラ』の通り名に恥じない結果を出してもらいたいところだ。
(Day.95___The Endless Game...)
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