Day.93 美味いもんばっか食べてたらアレするに決まってる
「太った」
学食に『月見バーガー』が実装されてから、いくばく。
いつもの学ランがぴちっぴちのぱつんぱつんになった少年が、むすっとした顔で私のもとへやってきた。
「太った」
──……う、うん。見ればわかるよ少年! 一目瞭然だ!
「俺としたことが迂闊だったな……たった一週間やそこら気ぃ抜いただけでこのザマとは……」
──ああまったく。
全能なる
それほどまでに毎朝毎晩『月見バーガー』を食していたのか?
「いやいや、さすがにそんな頻度じゃ……カレーもオムライスも、毎日食ったら飽きて嫌になるだろ?」
──まあ確かに。なら、いったいぜんたいどうして……。
「なんせ食欲の秋だからな。アルファとかスノトラ先生とかザクとかプリンとか、あっちこっち出向くたびに住民連中が差し入れをくれるんで、つい調子乗って全部平らげてたんがまずかったのかも」
──な、なるほど……。
合点がいったよ。そういう事情でもなければ、
*****
「まったくだ。俺、こんな体型になったの生まれて初めてだよ」
少年は上着をぺらとめくり、指でむにゅりと膨らんだ腹をつまむ。
「今まではいくら食べたって全然ヘーキだったのにな」
いくら食べても、か……。
そもそも少年が暴飲暴食をはたらく姿は、少なくとも私はあんまり見たことがなかったけどなあ。不健康な食事をとっている姿なら何度だってあったが。
運動不足かと聞かれれば、意外にも少年は朝のランニングやらラジオ体操やら、最近ではひと通りこなせるようになってきたしなあ。
「そうだな。まあ、俺ってもともと一日一食でも、なんだったら三日一食でもへっちゃらだったしな」
──馬鹿者! 一日三食みたいなノリで言うんじゃないよ。
そう言っているそばで少年は、どこに隠し持っていたのか、食器棚のほうからスナック菓子を取り出してくる。
ばりばり、ぼりぼり。
──おい少年。
なに当たり前みたいにポテチに手を出している?
「は? おやつくらい、いつだって食べてるだろ?」
少年は炭酸ジュースを冷蔵庫から出してくる。
ぷしゅう、ごくごく。
──おい少年。
なに当たり前みたいにコーラを飲んでいる?
前はお茶とか、水とか、牛にゅ……は嫌いだったな少年は。とにかく、ジュースなんてこの
さては……少年。
私があげた
「こそこそってなんだよ? 前から食べてたって」
堂々たるたたずまいをした少年が、
「良いだろちょっとくらい? 長いこと異世界にいれば、俺だって故郷の味が恋しくなるもんさ」
などと供述しているので私はひょいと、魔法の力でポテチやコーラを宙へ投げた。
「おい、なにをする創造神!」
──ボッシュートだ! 決まっているだろう。少年はしばらく、間食禁止!
今日よりしばらくは、全能たる私の管理のもと『ダイエット食』生活を敢行する!
「はあぁあああああっ!? いやだよ創造神の『ダイエット食』なんて!」
少年は喚いた。
「お前のストイック級ヘルシー食こそ飽き飽きなんだよお! やだーやだーやだやだやだやだ! エルフの先生たちみたいに毎日カツ丼すき焼きハンバーグ生活がしたあーい!」
──駄々っ子か!? 何歳なんだ少年は?
いつまでもそんな、ぽっちゃり体型のままでは少年だって嫌だろう?
かくして私は、少年のダイエット計画に乗り出す。
運動は今まで通りやるとして、成長期の少年に対していきなり断食とか、食事制限なんて愚策は決して案じたりしない。
あくまでも変えるのは食事の量より質。パンより米、もっと言えば雑穀米! 野菜とお豆多め! 肉よりも魚!
もちろん間食はなしだ。コーラも元の体型に戻るまでは没収!
加えて、私はありとあらゆる神から聞き込んだ結果、究極の『ダイエット魔法』を入手する。
太りにくい体質を作るべく、ベッドへ無理矢理寝かしつけた少年へ、私は謎の光を浴びせ続けた。
「な、なんだその謎の光は!? めっちゃ怖いんですけど!?」
──なんでも、この光を浴びると種族問わず、体内の無駄な魔力や、魔力を溜め込むのに不必要なエネルギーを消費し、取り除いてくれるらしいぞ。
「なにその神様流エステサロン!? 急に異世界らしさ出してこないで!?」
──私に不可能はない!
任せろ少年。少年がこの私の従僕である限り、私は必ずや少年を元通りに、いや、もっと健康的な身体に仕立ててやるからな……!
「うわ、ちょ、なんだその謎の魔法陣!? え、魔法? 機械? それ本当に人間族が食らっても安全安心なやつですか……ちょ、創造神やめ……うわあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
*****
「────と、いうわけだ」
後日。
すっかり元通りになった少年が、ばりぼりとスナック菓子を貪り、炭酸ジュースをがぶ飲みしていたのは大使館だった。
この部屋には創造神の姿はない。
ダイエット生活の話を一通り聞かされた天使族・プリンは真剣な眼差しで、
「なるほど〜……フレイヤ様直伝の『改造魔法』! 人間族にもちゃあんと効果あったんですねえ!」
と前置いてから。
「まあ間食がよろしくないという神様のご判断は正しいかと思いますが……もうひとつだけ伺っても良いですかっ? いえ、ちょおっと今のお話で気になった点がありましたので……」
「ん? なんだ?」
「三日一食うんぬんのお話ですよ」
膝を擦り合わせ、姿勢良くソファへ腰掛けたプリンがたずねた。
「市長さんって昔は、そんなにも一日あたりの食事量が少なかったのですか?」
「ま、まあ……ほら俺ってもともと引きこもりで、今みたいにあっちこっち出かけなかったし」
「ボクはふと思ったんですが。つまり、神様にこの
「え。……あっ」
「一日三食きっちり食べてるから、胃袋も大きくなって太りやすい体質に変わったんじゃないですか? それか、もともとそういう体質だったのが、食べてなかったおかげで太らなかっただけのお話で。ほら、特に最近は『食欲の秋』とかなんとかおっしゃって、量も、いつもより無意識に多めに食べてるんじゃありません?」
そういえば。
先週も住民たちの差し入れに加えて、創造神が「食え食え」って決まった時間にお出ししてくる晩ご飯もきっちりこなしていたような。
「どうするんです、これから? また一日一食、せめて二食の生活に戻します? 人間族って、世論としては二食でも問題ナッシングって風潮ありますもんね! それか、神様からの差し入れのほうをお断りするとか?」
「あー……」
少年は難しそうに頭をかく。
(まあ……創造神のメシも、なんだかんだ美味いからなあ……)
(Day.93___The Endless Game...)
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