特別SS ただアレを忘れただけなのに/アレより大事なものなど無い!
どのくらい困っているかって、日頃の都市開発に支障が出る程度には困っている。
というのも最近、創造神の機嫌がやたらと悪い。俺が声をかけてもそっけないし、なんなら聞こえなかったふりをしてスタスタ通り過ぎていってしまう。
「えっ!? あの自称全能で寛大な神様に機嫌の良し悪しとかあったの!?」と思ったそこのお前!
ここだけの話……かなりある。いやめっちゃある。
前に夜更かしして地図書いてたら、魔法陣使って市長の部屋まで凄い剣幕で殴り込んできたし。
前にあいつの昼の弁当箱からおかずを(具体的には豆腐ハンバーグを)拝借した時は、その日の夜まで一切口をきいてもらえなかったし。
前に創造神室で作っていたジグソーパズルをうっかり壊してしまった時は、赤ん坊みたいに泣きじゃくられた挙句、なぜかスノトラ先生にチクられたし。
俺、何かやっちゃいました?
あいつもそんな餓鬼みたいにヘソ曲げてないで、何に怒っているのかちゃんと教えてくれれば良いのにさ。
*****
神様の機嫌とは打って変わって、今日は朝からとても穏やかな晴天日和だ。
外へ出ると大木アパートでは妖精たちが、忙しそうに辺りをパタパタと飛び回っている。
「いつにも増して早起きだな? お前ら」
「そりゃま〜今日はね〜」
アルファは庭でたっぷりの野菜を厚底の鍋で炒めていた。妖精用ではなく学食でも使っているような、全身の何十倍もあるであろう人間やエルフ用の調理器具だ。
ちょうど自分が火属性の魔法持ちだから、焚き木に火を付け、彼氏のベータが風魔法でアルファの火力を高めている。
「夜までにたんまり作り置かないとさ。チビのうちらが作った飯じゃあ、いくら用意しても足りないくらいっしょ?」
「……はあ」
俺はから返事をしてしまった。
お前らはそもそも体が小さいんだから、別にそんな大量に作る意味はないんじゃないか、とかこの段階で聞き返せばよかったものを。
今や朝の日課となっている、グラウンドでのランニング。
俺よりも早く到着していたエルフの先生たちが、同じく半強制的に日課としてスケジューリングされている創造神と一緒に走っていた。
「か、勘弁してくれえヨルズ!」
走りながら泣きべそかいた創造神が、
「今日という特別な日くらいは走る量を減らしてくれてもバチが当たらないと思うんだけどな〜、神だけに!」
「阿呆か。トレーニングってのは少しでも量を減らせばすぐ体が鈍るんだよ。ほら、黙って腕振る足動かす呼吸を一定にする! いっち、にー、さん、しっ」
並走するヨルズに弱音を吐いているのを、俺は準備運動しながら流し見ていた。
──特別な日?
今日、何か学校でいつもと違う用事とか行事とかあったっけ? アルファのライブとか?
ステーションを巡回すれば、今日は住民たちがいつになく忙しそうに働いている。
受付嬢・シューのところへ駆け込んできた美容師のレオンが、自慢のリーゼントをクシですきつつ、
「こちらのポスターを一週間ほど掲示していただけますか? 特別メニューに加え、創造神様の信者限定で割引キャンペーンを実施するのです」
「ここっ! 結構お安くなるんですか〜ぁ、それぇ!? わたくしぃ、ちょうどトサカをレオン様に整えていただきたく〜ぅ」
「もちろんです、お客様! ぜひ当店にて新しい自分を見つけてみませんか?」
なんて会話を繰り広げていたり。
レオンと入れ違うように飲食屋のザクがやってきて、長いクチバシをこつこつ鳴らしつつ、
「夜にステーションの入り口で出張屋台開きたいんだけど」
「ここっ、構いませんよ〜ぉ! ちなみにどういった商品を用意なさっておられるのですか〜ぁ!?」
「シューちゃん『アメリカンドッグ』って知ってる? ひき肉に小麦粉で衣をまぶして油で揚げる、市長くんのいた世界で人気があった食べ物らしいわ。あたしもこの機会にちょっと試したくて……ねえ、市長くん?」
俺にウィンクを投げてきたり。俺は誰に対しても、腑に落ちない表情で相槌を打つくらいしかできない。
アメリカンドッグは確かに大好物だけど……な、なんだ揃いも揃って? キャンペーンとか新商品とか、今日はアルパカ並に商魂たくましいじゃないか、みんな?
普段はもう少しのんびり過ごしている彼女たちが慌ただしくやっていて、いつでも慌ただしいアルパカたちが暇しているなんて偶然はあるはずもなく、
「市長様、夜のご予定に空きはまだございますか? ございますよね!? 弊社が今夜開催する特別イベント『カチク・プロジェクション・マッピング』を是非ともご観覧いただきたく!」
とか、会社を見に行けば真っ先に営業部長のシロからしつこく口説かれるわけで。
ロボット社員たちも頭に妙なデザインの帽子をお揃いでかぶっている。もしかしてクロが描いた創造神のイラストか、それ?
(変なの……いつもはそんなもん付けてないのに……)
いよいよ住民たちの異変を不気味に思った俺が、次に足を運んだのは大使館。
プリンもやたら多忙を極めていて、館内に入るなりあっちこっちで電話が鳴り響いては受話器越しに
「うわ〜〜〜忙しい忙しい忙しい! 祝電は当日じゃなくてもうちょっと早めに提出していただきたいんですけどね〜〜〜天使ならぬ大使としては!」
「……祝電?」
「受付時間ギリギリに電話してくるクライアントや、閉店間際に入店してくるお客様ってどう思います、市長さん?」
なぜかプリンも、アルパカたちにもらったのかロボットと同じ帽子を被っていて。
「ボク的にも神様の生誕祭くらい、もうちょっと時間と心にゆとりを持って臨みたいものですねっ! 何たって年に一度の催しですからっ!」
「────何っ!?」
何気なく飛び出した爆弾発言に、俺は思わず身を乗り出しプリンに詰め寄ってしまった。急に迫られて驚いたのか、プリンがはわわわと受話器片手に唇を震わせる。
「生誕祭!? 何だそりゃ!?」
「何だそりゃって……ええっ!? もちろんご存知ですよね市長さん……? ていうか市長さんが神様の初めての従属なんですから、この
俺は己の無知さに震撼した。
そうか! 今日はこの
他の住民はこんなにも懸命に神の誕生を祝おうと準備を進めている中、俺だけが平常運転で、一向にめでたい雰囲気を醸し出さないから、それで創造神がヘソを曲げている……!?
*****
「いや言えよ!? 言えば良いじゃん! 『実は今日、私誕生日なんだよね〜はっはっは』くらいのノリで言えば済むものを!?」
「言えませんよ〜市長さん!? 相手は神様ですよ?」
頭を抱える俺にプリンが眉を下げ説教を垂れる。
見た目は俺と大差なくとも、久しぶりに神の使いらしさを醸し出した大人びた口調で指をぴんと立てる。
「神の生誕を祝うのはボクたち従属にとっては義務なんです。欠かせない仕事なんです。ましてや神が自ら誕生日のアナウンスとかできないんですよ〜……人間や他の種族とは根本的に、誕生日の重要性が違うんです!」
こんなにも創造神の魔法チートを羨んだ日はないだろう。
俺は即座に神殿への供物もとい、あいつの誕生日プレゼントを考案しなければならなくなった。本人みたいにぽんと創造魔法で作ったり、召喚魔法で呼び出せれば簡単なのだけれど。
タイムリミットは残り半日。
みんな頼む!
俺に創造神の機嫌を直す『
(Special Side Story___The Endless Game...)
【作者より】
この異世界は時系列とか時間経過はどうなってるんやと思った、そこのお前!
『サ○エさんシステム』って知ってるか!?
というわけで連載1周年でした。創造神、お誕生日おめでとう!!(大遅刻)
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