Day.89 性能厨とビジュアル厨の争いほど醜いものはない

 こちら、実況席のプリンでーすっ!

 さあ続いての種目は……運動会と言ったらまーこれでしょう!


 ロボット族のみが出場できる『騎馬戦』でーすっ!


 今回の運動会では出場者の魔法使用は禁止となっていましたが、参加する種族が絞られましたので、なんとこの『騎馬戦』でのみ魔法が解禁となります!

 どうぞ傀儡の矜持にかけて、心技体ならぬ性能の限りを尽くし、正々堂々と戦場を駆け抜けちゃってください!



*****



「……なぁんてアナウンスが聞こえてきたけどさ」


 少年市長率いる紅組の応援席にて。


「『騎馬戦』とかいう運動会のメインイベントみたいな種目に限って参加できる種族が絞られた理由……分かりますか、スノトラ先生?」

「もっちろん♪」


 少年おれが腕を組み神妙な顔つきをしていても、スノトラ先生のにこやかな笑顔が崩れることはない。


傀儡ロボット族は個体によって所有している魔法の種類も属性も千差万別〜♪ ですがひとつだけ、彼らには共通して備わっている機能があります〜♪」


 パチン、とスノトラが指を鳴らせば何体かのロボットが少年の前に並ぶ。

 今さら説明するまでもなく、騎馬戦とは三人──三体でひとつの馬を作りつつ、その馬に乗った騎手同士でハチマキなり帽子なりを奪い合う、言わば四体で一チームのゲームだ。

 騎手が落馬してしまったら即リタイア。極めて有名かつ単純明快なルールだ。


 だが、このゲームをロボットが興じるということは。

 わっくわくしながら俺が見守る中、手足をウィインと伸ばし、機種も含めて四体のロボットが腕を取り合い、各々で体のパーツを分解させては組み直していく。


「うお……うおおおお……!」


 お分かりいただけただろうか?

 四体のロボットは合体し、一体の巨大ロボットとして変貌を遂げる。個体によって赤とか黄色とか違う色合いをしていたので、手足が不自然にカラフルだが、試作段階の今はまだ気にしなくて良いだろう。


「すっっっっっげ〜〜〜〜〜え!! かっっっっっけ〜〜〜〜〜え!!」


 俺の両眼はキランキラン。

 これがときめかずに居られるか? 我、ロボットアニメひしめく日本男児ぞ!?


「ということで、市長く〜ん? 種目規定に基づき、こういった機体をあと七体用意しましょう♪」

「八対八の、紅白合わせて十六もこんなかっけーのがグラウンドで走るんですね!!」

「浮かれている時間はないですよ〜? 作戦会議をする時間はそんなに与えられていませんからね〜♪」


 スノトラ先生は出場者のリストを眺めつつ、


「スーがおすすめしたい組み合わせとしては〜、一体あたりの方が良いですね。多少は陣形を組むとは言っても、競技が始まればすぐにバラバラ、結局は一対一の取っ組み合いかビーム合戦です」

「ビーム合戦!? 響きがすでにかっけー!! まじのロボット大戦だ!!」

「であれば重要なのは、個体ごとの対応力。どんな相手にぶち当たろうとも、属性で不利にならないようバランスを調整していきましょ〜う♪」


 そう提案してきたが、次第に頭が冷えてきた俺は首を大きく左右へ振った。

 不思議そうに見てくるスノトラ先生へ、俺はきっぱりと。


「い〜え、先生。個体ごとの!」

「……はい?」

「戦隊モノだって、レッドとかイエローとか、ちゃんと戦士によってイメージカラーがあるんですよ! だからロボットも色は揃えなきゃ〜駄目です。合体することで色を変えられるんならまだ問題ありませんが……どうせこいつらもそこまで器用じゃないでしょう?」


 満面の笑顔で言い切られると、スノトラ先生も少したじろいでしまうようだ。


「……ええと、市長くん?」

「でなきゃ八体とも謎にカラフルで、コンセプトが行方不明なよく分からんデザインに出来あがっちゃいますよ。個性が見えてこないロボットに需要なんか無いんですよ!」

「大事なのは見た目じゃなくてスペックよ?」


 機能性かデザイン性か。

 まるで文房具やアクセサリーみたいな議論が応援席で繰り広げられていく。


「水属性のヴィランと当たったら、炎オンリーの個体じゃあ満足に戦えないじゃない」

「そういうピンチには味方のロボットが駆けつければ良いんですよ! これヒーローモノのお約束」

「市長くんにしては考え方が合理的じゃ無いわねえ」


 合理的、なんて普段ならヨルズ先生が口にするような単語を出しつつ、


「個体のスペックは極力高い水準で、均一に揃えて然るべきでしょう? 足を引っ張っている個体の支援に誰かが回っている間にも、他の個体が挟み撃ちされて倒されてしまうのよ」

「そうならないよう陣形を考えるのは指揮官たる俺の役目です!」


 俺がだんだんとムキになっていくので、スノトラ先生の声も次第に上擦っていく。

 こちら、まだ応援席。

 試合が始まってもいないうちから内輪のいさかいだ。



*****



 ──実は、同じような内輪揉めは創造神代表・白組の応援席でも起きていた。


「いやんだあヨルズぅ! そんな適当にロボットたちを組み立てないでくれぇ!!」


 創造神がヨルズに泣きつきながら、


「せっかく八体と枠が決まっているのだぞ!? マトリョーシカみたいにサイズをちょっとずつ小さくしたい、色も揃えたいぃ! お前だって競馬じゃあ、勝ち馬は帽子の色で決めるって言っていたじゃないかぁ!」

「それは記念レースの時だけ。個体ごとの身長体重とか、過去のレース結果を加味した上で勝てる馬の潜在スペックを見極めるんだよ!」


 足へ頬擦りしているのを蹴飛ばされそうになっている。

 もはや種目どころではない。勝負は始まる前から始まっていたのだ。

 プリンが両組の仲裁に入り、出場選手と馬の組み合わせをくじ引きで決めるといった具合にルール変更がなされるまでは、この不毛すぎる争いは終わりを迎えることがなかったという。



(Day.89___The Endless Game...)

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