Day.84 年末年始はいそがしい。だって神様だもの

拝啓 お父さん、お母さん



 お元気ですか。僕は異世界で「市長」やってます。

 この世界の神様によれば、日本は今ごろ年越しだそうですね。

 雪こそ少しずつ積もるようになりましたが、日付の感覚なんてのはすぐに薄れていくもので、一年が終わるのは本当にあっという間だと気付かされます。

 今年は家にテレビがないので、音楽番組もバラエティもプロレスも観ることができません。残念。まあ……いつも年越しはだいたいゲームしているので、僕にはあまり関係ないんですが。


 異世界に飛ばされるまでは神様なんて存在を信じていなかったし、あまり真面目に意識したことがありませんでした。

 けれど今はこうして宛て先もない手紙を書いている間にも、目の前で神様が突っ立っているので、こいつの顔を見ない日はほとんどないくらいです。うっとうしい。


 ただ、そんな神様でも、僕の家へ遊びに来る暇もないくらいに忙しくなる日があるんだそうです。

 ──それが年始。要はこいつも初詣に駆り出されるんですね。

 いやお前、絶対日本由来の神様じゃないだろ! 神社で奉られているタイプの神様じゃないだろ! ってツッコみたくなる気持ちは僕にもよくわかります。

 ですが、特に日本人という連中はクリスマスも正月も関係なくお祝いする、教養レベルゼロどころかマイナスまで振り切っているヤベー奴らなので、どんなに縁がない神様だろうと関係なく祭事へ引っ張り出されるとのことで。


 初詣では誰しもが、自分の願い事を神様に念じるもの。

 だから僕も今年はあらかじめ、神様がこの世界からいなくなるよりも先に願い事を聞いてもらいました。


 ……え? どんな願い事かって?

 わざわざ人に教えるほどの内容じゃありませんよ。はははは。


 どうかお父さんもお母さんも、日本では何事もなくお過ごしください。

 僕もこの新しい世界で、ヘンテコな住民たちとの暮らしを楽しみながら毎日を生きていこうと思います。



敬具






*****



「……で?」

「で、これが生まれたってわけ」


 ドン!

 多忙につき創造神不在の世界まちで、少年おれは創造神に作ってもらったおもちゃ一式を住民たちにお披露目する。


 閃いたのはクリスマスパーティで、すごろく遊びに興じている最中だった。

 男たるもの、きっと誰もが一度は手に入れたいと妄想するであろうチートアイテムの数々が、今やすべて俺の手中に収まっている。

 世界の半分なんかより、ずっとずっと欲しかったものだ。


「ふーん。くじ引き?」


 市長の家のリビングで、妖精アルファが現物を手に取りしげしげと。


「初詣の定番『おみくじ』だな。これ、実は振ると必ず大吉か、大凶のどっちかしか出ない仕様になっているんだ」

「ふーん。じゃあ二択ってこと?」

「いや一択だ。オール大吉かオール大凶かの一択。設定上そうなるように創造神に頼んだんだよ」


 俺が箱についた隠しボタンをいじりながら自慢げに解説しているのを、アルファも他の住民たちも湿っぽい視線で見てくる。


「……それ、振る意味ぜんっぜんなくね? しょーもなくね?」

「意味あるさ! なあ、カチク・コーポレーション?」


 俺が同意を求めたのはアルパカ族のクロだ。

 クロは前脚をあごに乗せ、興味深そうに箱を眺めている。


「ははあ、確かに。例えば恋愛運や金運を占うおみくじとして、というフレーズでプロモーションをかければ、我が社の催しのひとつとしてはたいへん繁盛しそうであります」

「だろ? こういうのはさ、自分にとって都合の良い結果が出るに越したことはないんだよ。確率論とかスリルとか求めちゃいない。チートで上等なんだぜ、おみくじってのは」

「ふーん。じゃ、これは?」


 アルファが次に掲げたのは『サイコロ』だ。

 ころころと机の上で振ってみれば、あら不思議、何度でも同じ目で止まるようになっている。

 それを見て真っ先に声を上げたのは、案の定というか当然というか、ギャンブル好きで有名なヨルズ先生だ。


「うっっっわ、イカサマサイコロじゃん。いらねー……ていうことは、こっちにある『ルーレット』も……」

「はい。絶対に赤ゾーン、もしくは黒ゾーンに玉が転がるようになってます」

「つまんねー……じゃあそこの『トランプ』も……」

「はい。魔法の力でなんやかんやと、絶対自分が欲しいマークが一番上に来るようになってます」

「白けるわー。オールインする価値ないわー。まったく合理的じゃないわー。全額スられるかもしれない、あのスリルがカジノの醍醐味だろうが」


 意外にもヨルズ先生からは酷評されてしまった。俺はむしろ、先生が口酸っぱく主張する「合理的」という言葉の意味を改めて辞書で調べたくなるんだが。

 どうやらこのエルフは、稼ぎ云々よりもギャンブルという行為そのものを楽しんでいるらしい。


「市長くん、どうしてこの手のおもちゃが欲しかったの?」


 スノトラ先生も困り顔でたずねてくるので、俺は胸を張って答える。


「そりゃあもちろん、全能感が味わえるからですよ!」

「全能感……」

「創造神が魔法でぽんぽん新しいグッズ出してくるところとか見てると余計に、俺の厨二ごころが疼くんですよ。都市開発ゲームみたいに、ちまちま開発進めて街を成長させていくような過程を楽しむのも乙ですが、転生したら最初からレベルマックス、歩けば誰よりも最強の俺! ってのも案外悪くないもんですよ」


 むしろ、どうして俺はせっかく異世界に来たってのに、しかも召喚してきた創造神はちゃっかりチート魔法いろいろ揃えているのに、いわゆる「俺最強TUEEE」イベントだけはいつまでも用意されないんだろうか。

 都市開発ゲームで蓄えた「知識」チートだけで俺が満足しているとでも、創造神に思われているんじゃなかろうか?

 むしろ住民たちからは人間風情だとか魔力マナ無し種族だとか種族カースト最底辺だとか、日頃から散々な評価を得ているわけで。


「じゃ、始めるか! 魔法使用も上等、チートやイカサマも込み込みの年末ドッカンゲーム大会を!」

「結局はそれがやりたかったわけですねえ、市長さん……」


 天使プリンがコタツに両足を入れ、ぬくぬくしながら笑いかけてくる。


「でも大丈夫なんですか? 市長さんは魔法使えないのに、ゲームする前からそんなネタバラシしちゃって」

「知ってるかプリン。実はイカサマを見破るゲームよりも、イカサマがハナからあるってわかった上でプレイする、心理ゲームのほうがずっと面白いんだぜ?」

「へえぇ、なっるほどぉ! 市長さん、なかなか酔狂な趣味をお持ちですね〜!」


 そうして始まる年越しゲーム大会。


 拝啓お父さんお母さん。

 今年はゲームはゲームでも、ひとりではなくみんなで遊び倒しながら楽しい年末を過ごせそうです。



(Day.84___The Endless Game...)

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