Bパート 住民たちの冬休み

Day.82 対少年・サンタクロース大作戦を決行する!

【まえがき】

 運動会の最中ですが……ハロウィンに引き続き、またしてもグローバルイベントに乗っからせてもらいます。今回もお楽しみください。

 そして、カクコン8が始まってから作品を読みに来てくださった、そこのアナタ!

 結構いらっしゃいますよね? いや〜お目が高い! この場をお借りし改めて感謝申し上げます。ご愛読ありがとうございます!

*****





 わたしはスノトラ。

 名無しの創造神と契約を交わす半神エルフ族にして、オーディン様をお慕いする『アース十六』が一柱にして、この学校に赴任して幾ばくかの音楽の先生です。


 今夜は確か、世間的に言うところのクリスマス・イヴ。

 夜の創造神室に呼び出されたわたしは、神妙な面持ちで上官座りをする神様から不思議な作戦を告げられました。


חנוכהハヌカー……ですか? 創造神様Cruthaitheoir


 ぐるりと部屋を見渡せば、すでに『ハヌカー作戦』とやらは遂行されているように見えました。

 神殿に八日間かけて一本ずつロウソクへ火を灯していくという、聖なる祭典。

 クリスマスに代替する、目前の神様なりの儀式をわたしも今さら手伝わされようとしている……ということなんでしょうか。


「賢明なるスノトラよ。私は『プリム』の時に学んだのだ」

「プリム? ……ああ、ハロウィンのお話ですか」

「私が持つ儀式の知識と、少年が持つそれとはいささか齟齬があるらしい。よって此度の『ハヌカ』は、あらかじめ少年の見解を取り入れた上で決行することにした」


 つまり、神様は市長くんも楽しめるような儀式を執り行おうとしているわけでしょう。とても素晴らしい心がけです。

 して、神様。わたしはどういった尽力を致せばよろしいので?


「少年に新しい贈物ぞうぶつを贈りたいのだ。よって、きみにはその品の選定と……」

贈物ぞうぶつ! そ〜れは素晴らしい!! でしたらさっそく手配を──」

「その贈物ぞうぶつをいかにして今晩のうちに、その極秘作戦に手を貸してもらいたい!」


 ……え? 市長くんに見つからないように?

 わたしは目をパチクリと。


「少年は手強いぞ〜スノトラ。なんせ日頃から夜更かしの多い子供だ。おまけに今晩は『クリスマス・イヴ』だからと寝室を夜通し見張っているつもりらしい」

「ちょ、ちょっと待ってください創造神様。贈物ぞうぶつくらい、普通に直接手渡せば良いではありませんか。なぜそんな回りくどい真似を……」 

「うん? だってそういう文化なのだろう?」


 神様は自信満々に。


「少年もいたく楽しそうに語っていたぞ。サンタクロースとかいう、子どもに人知れず贈り物をする幻想上の神様を現行犯で見つけ出す遊戯ゲームだと!」


 ——きょ、曲解している!

 市長くんてば、クリスマスというイベントのことをかなり曲解している!


 市長くんほどのお年頃になれば、サンタクロースなんてまやかしだと言いたくなる心境はわからなくもありません。

 が、まさか現行犯で捕まえるなんて殺生な!! しかも犯罪じゃないし!!

 自分の部屋に謎の大人が侵入してくる現場を取り押さえる年に一度の催しだと勝手に解釈しているわ、あの男の子!?


「そ、創造神様? クリスマスとは決してそのように身も蓋もない遊戯ゲームでは……」

「うん? そうなのか? 私はなかなかに愉快な儀式だと思っているが」


 ——や、やる気出してる!?

 サンタクロースを出し抜こうとしている市長くんを出し抜こうと大人気ない意欲を出しているわ、この駄目神だめがみ!?


「というわけで協力してもらおう、スノトラ。いかに少年に正体を隠し、いかに鮮やかな手練手管で贈物ぞうぶつを少年に渡せるか……いや〜、全能たる私におあつらえ向きな催しではないか!」


 子どもよりもうっきうきしている神様を、止める術などわたしにはありませんでした。



 とはいえ、市長くんに見つからないようプレゼントを置いてくるという任務に関しては、実はたいして難しくありません。

 わたしも神様も、わざと夜ふかしするであろう彼を強引に眠らせる手段はいくらでも有しているからです。


 問題は、それがわたしたちの仕業であると市長くんに勘付かせない方法。


「やはり贈物ぞうぶつに趣向を凝らすべきでしょうね」

「ふむ。その心は?」

「市長くんが喜ぶ内容を……という前提で、しかし貴方様やわたしがいかにも選びそうなブツを贈らないほうが良いというお話でございます」

「ぐぬぬ、難しい注文だな。一応、候補はいろいろ用意してきたんだが……」


 そう言って神様は、書斎机の死角から次々とおもちゃを取り出してきます。

 すごろく、ルーレット、きせかえ人形、プラモデル……。

 人間族が多く暮らす世界で特に馴染みの有りそうな道具ばかり出てきました。


「どうだスノトラ? ゲーム脳の少年にぴったりの品を揃えてみたが」

「……すぎる……」

「え? なんだスノトラ?」

「市長くんへの理解度が高すぎる! しかも俗っぽい! いかにも市長くんと付き合いの長い貴方様が選びそうな品ばっかり!!」


 本来はクリスマス文化がない神様とは思えないチョイスに苦言を呈すれば、神様は頭をかきながら。


「え〜〜〜? じゃあスノトラ、きみならどういった品を選ぶ?」

「ブレスレット、アンクレットが固いかと。あるいはイヤリングとか、なんて洒落の効いた贈り物も良いでしょう。あとは少々攻めますが、ガラス製の置き物などはいかがですか?」

「いや……ない。少年にそれはさすがにない! 絶対ありえない!! いかにもスノトラが恋人に押し付けそうな、押し付けがましいチョイスだな!?」

「なっななななんですって!?」


 とことん相容れないわたしと神様はしばらく机を挟んで睨み合っていましたが、そこへ乱入してきた者がいました。

 勢いよく扉を開け飛び出してきたのは、なんということでしょう、天使族のプリンです。



「こんばんは神様、スノトラさん! 市長さんから今夜はどうしても寝付けないと相談を受けましたのでボクの方からクリスマス・イヴの催しを提案したところオッケーが出ました!」


 ……は? 催し?

 きょとんとしている神様とわたしの、机に広げられたおもちゃを見るなりプリンはおぉっと嬉しそうに手を叩いて。


「これはこれは、ちょうどよいテーブルゲームが転がっているじゃ〜ありませんか! ちょっとイベント用にお借りしますね!」

「え……いや、あの、私達はこれからサンタクロースに変身しなければ……」

「じゃ〜さっさと変身しちゃってください! アルファさんとかとっくに下で着替えて、クッキー配り始めてますから!」


 窓から外を見下ろせば、さっきまで明かりも点いていなかった下の階の教室が、いつの間にか住民たちで賑わっています。

 もちろん、輪の中には市長くんの姿もいることでしょう。



「……あの、創造神様……」

「成長期が夜遊びとはけしからんと言いたいところだが……まあ良いか」


 神様は肩をすくめて。


「どこの神を称える儀式だか知らないが、どんな形であれ『クリスマス』で彼らが幸福になれるのであれば私としては本望だ」


 そうですね、とわたしは小さくうなずきました。

 彼は全能かどうかはともかくとして、少なくともわたしの知る限りでは、誰よりも寛大な御方でいらっしゃいます。ええ、本当に。



(Day.82___The Endless Game...)

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