Day.81 さあはじめよう、世界史上(底辺)の戦いを…!
はい、そこの
スタミナ駄目、パワー駄目、スピード駄目の三拍子揃った運動音痴……すなわち、
もちろん、
──……ん? いーすぽーつ? なんだそれは?
そういう少年みたいな大喜利は求めてないぞ! 私は大真面目に話しているのだ。
私はそもそも個人種目なんぞには出たくなかったんだが、ど〜してもヨルズの奴が「チーム代表がソロの競技にひとつも出ないなんて蛮行許される訳ねーだろダボが」などと暴言吐いてくるものだから、まあ仕方なくだな。
というかヨルズこらぁ! 先生が、そして従属が神に暴言吐くんじゃない!!
……というわけで、そろそろ午前の部、最後の種目に行ってみよう。
実況席のプリンさ〜ん! アナウンスをよろしく頼むよ!
「さあさあみなさん午前の部、最後の種目『障害物競走』がやってまいりました! 各チームから代表選手が四名ずつ、合わせて八名の勇者がご入場で〜す! そして今回の種目……なななな、なんとぉっ!! 紅組代表・市長さんと白組代表・創造神様もご出場です〜〜〜!!」
*****
──……いや、少年も出るんか〜〜〜〜〜いっ!!
ずっと応援席で座り込んでいて、なんだ自分は全然出ないじゃんとか思ってたら、少年も『障害物競走』か〜〜〜いっ!!
「ちっ、やっぱりお前もかよ創造神。まったく運動スペック最底辺は、考えることが同じで嫌になるな」
少年は赤いハチマキを頭に巻きながら舌打ちする。
互いに思いがけない形でチーム代表の直接対決が実現し、応援席は今まで以上に盛り上がって……はいないようだが。
「頑張ってね市長く〜ん♪ 名無しの神様に負けたらスーがおしおきです〜♪」
「いくら人間風情だろうと、あんなへなちょこ神様に負けたらボコすよ?」
「ファイトっすよ神様まじで! 良い歳した大人が人間の子どもにサシで負けるとか超ださいっすからね、まじで」
「私のデータによれば市長くんと創造神の実力差は五分五分ってところ。あとは運とコンディションとメンタル次第。気張りなさいよ創造神、負けたら移住する」
他にも六名、出場選手がいるはずなのに私と少年にだけ双方チームメイトからの圧がものすごい。……というか、負けたら移住ってなんだよヨルズ!?
しっかしなんで『障害物競走』なんだよ少年もさぁ。
リレーとか借り物競走とか二人三脚とか、ついさっきはパン食い競走もあったではないか! 他にも少年が出場できそうな種目はあったはずなのに。
「リレーなんてバトンミスひとつで炎上する危険種目は触りたくない。借り物? 二人三脚? はっ、あんなのは友達いっぱい彼氏彼女持ち、コミュ力お化けな陽キャにしか参加が許されない種目だっつの」
──さ、さいですか。じゃあパン食いは?
「少食の俺が出来るかってんだ! だいたい、パンと電池が一緒にぶら下がっているパン食い競争ってどんなカオスだ!? ヒモに電流流れてるし! ビリビリするし!」
──確かにあの種目は異様な雰囲気だったなあ……。
「っつーわけで勝負だ創造神。前半はそっちの優秀な参謀のおかげで少し出遅れてしまったが、運動会も一種の点取りゲームだとわかった以上、生粋のゲーマーである俺にも勝負へのプライドってもんがあるんだ……!」
珍しく気合が入った少年の口上を聞いて、私もつい引っ張られて闘志を燃やす。
ああ、その通りだ少年。正々堂々戦おうじゃないか。
今までさんざん全能の神を謳っておきながら、人間の少年にも敵わないなんて恥ずかしい真似を他の連中に見せられないからな!
「今更すぎるだろ創造神? お前は決して全能なんかじゃないってところを、俺がこの場で証明してやるよ……!」
私も少年も、スタートラインでなぜかクラウチングの態勢に移る。
審判によるピストルの合図が、今、グラウンドで鳴り響いた!
*****
「…………お、おお、おおおおおっっっっっそ!?」
実況席から叫ばれた第一声。
プリンが立ち上がり、おそらく目をらんらんと輝かせ、生き生きとした調子でレース展開を見守っている。
「第一関門は麻袋に両足を突っ込んでのコーナー曲がりですが……そこへ走り抜くまでの直線が体感周回遅れレベルでおっっっっっそ! ああもう急いでください市長さん、神様! あなたがたが袋の前に到達するまでに他の選手たち、第一コーナー、曲がっちゃってますから! なんで障害物競走ごときでクラウチングスタートなんかおっ始めちゃったんですか素人ども!?」
「あ・は・はは・ははっはは・ははははははははははははっ!!」
隣りの席で見物するフレイヤも、解説そっちのけで手を叩いて爆笑している。
笑うなフレイヤ、こっちは真剣だ!
「ああもう神様、よそ見してる場合じゃないっ! ……さて第二関門は一輪車での直線ですが、ここで市長さんに事件ですっ! このお方、ななななんとぉ、一輪車に乗れなあい! 数センチずつ進んではすっ転んでいるぅ! 全生徒にノー騎乗スキルっぷりをお披露目しているぅ! なんで乗れないのに出場しちゃったんだこの人!!」
「悪かったな乗れなくてぇ! 一輪車があるならあるって最初に言っとけよ! ちくしょう、俺、一輪車どころかいまだに自転車も補助輪なしには乗れないのに……」
「おおっとここで衝撃の新事実ぅ! 少年市長、中学生のご身分でいまだ自転車に乗れないことが判明ぃ! だせ〜〜〜〜〜えっ!!」
「だだだだから、乗れないんじゃなくて補助輪が必要って……」
「それは乗れないも同義なんです市長さんっ! 自転車に補助輪つけちゃったら三輪車どころか四輪車ですから! もはや自動車ですから! ……さてさて、第三関門はこれまた障害物の定番、網抜けですねぇ。おおっと、ロボットたちが苦戦している! 単純思考のポンコツ種族が複雑な網構造に対応できていませんっ! こ〜れは神様大チャンスぅ!!」
ここぞとばかりに失言を繰り返すプリンを尻目に、私は一番乗りで網の中へ飛び込んだ。するすると行ける、行けてしまう! 高身長だから引っかかりやすいんじゃないかと心配したが、案外大丈夫だ!
すると、少年も私の後を追うように網の中へ突入してきた。
カオスだ! 網の中がウゴウゴしていてめっちゃカオスだ! あんまり激しく動くな少年、抜け出しにくい! まるで私たちが大漁の魚群の一匹みたいじゃないか!
「変な例えをするな創造神! 先に入ったんだからはよ出ろ! なんか網が小さすぎて後ろも詰まってきちゃったじゃねえか」
そんなこんなでようやく第三関門を突破した私たち。すでにぜぇぜぇだが、確か次の関門がラストだったはずだ。
さあかかってこい、私が最初にゴールテープを切ってやる──
「最終関門は、なななななぁんと今回だけの特別仕様! フレイヤ様が直々に、選手たちの道を阻むべくビーチボール・スマッシュを炸裂させまぁす!!」
──瞬間。
無数に分裂する大きなボールが、私の眼前に飛び込んでくる。
「うぎゃわわわわわわわわわあ〜〜〜〜〜なんっだこれえええええええっ!?」
「う・ふふ・ふふふふふぅ!! いっぱいあ・そ・ぼ〜〜〜〜〜!!」
いつのまにか実況席を離れていたフレイヤが分裂させたボール……いや、おそらく魔法陣から無制限に出現させているボールを両手に高笑いを浮かべる。
ストップストップ、フレイヤ! なんだその威力!? ビーチボールに可能な挙動をしていないぞ!?
さては、きみこそ
「わ・た・しは別に選手じゃないから〜? ズルじゃないわ〜!」
狂い咲くフレイヤのスマッシュに阿鼻叫喚がこだまするグラウンド。
死線をくぐり抜け、混沌の渦をようやく脱し、とうとう私と少年の一騎打ちとあいなった。
ふらふらした足取りで、最後の直線を(本人たちにとっては)全力疾走する。
「ラスト五十メートルを切りました!! 三十……二十……十……!」
晴天の下でゴールテープが切られる。
最後に勝利の女神が微笑んだのは、果たして……!?
(Day.81___The Endless Game...)
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