Day.74 なあ天使。ビジネスはWin-Winであればこそ正義だと思わないか?
市長の家で空飛ぶ車を拾ってくれば、そこからの
学校まで案内すると、グラウンドではヨルズ先生が企画したロボット大会の練習が行われていた。
もうすぐ運動会も開かれるということで、単純なレースだけでなく障害物競争や玉入れ、組体操といったバリエーション豊富な競技にいそしむ機械仕掛けの生徒たちの姿がある。
「
プリンの提案を俺は却下した。ある程度加減できそうなロボットだから俺は許可したんだ。エルフの高性能かつ高威力な魔法なんか学校中でぶっ放されたら、ある日の学食戦争どころの騒ぎじゃなくなる。今度こそ学校崩壊するぞ。
*****
車でカチク・コーポレーションに移動すれば、社員であるロボットたちがほとんど学校へ捌けていた代わりに、アルパカの三頭衆が俺たちを出迎えた。
「『
前足同士をすりすりさせながら媚びた笑顔を浮かべるクロ。……おい今、なにパークって言ったんだお前? 市長の俺が初耳の施設名聞こえたんだけど?
「さっそくですがお近づきの印として、こちらいかがでしょう? オープンに先駆けた特別価格でございます」
続けてシロとベージュが見せてきたのは会社で新しく作ったのだろう商品だ。
もこもこふわふわのセーターやニット帽、肩掛けポーチなど、天使へ売りつけるにはぴったりの製品がこれでもかと出てくる。
「とうとうアパレルに手を出したか、カチク・コーポレーション……」
「ええ。今日という日のため、わたくしたちが骨身を削って仕上げた一級品ですよ、文字通り!」
クロの言葉もあながち嘘ではないだろう。もっとも、削ったのは骨ではなく自分たちの毛だったようだが。
*****
妖精たちが暮らす大木アパートでも、服や小物を手作りした住民たちによるフリーマーケットが青空の下で開かれていた。
「わ〜、かわいい!」
青筆一本で購入した白カーディガンを羽織ったまま、プリンが虹色のワンピースを両手で掲げる。ラメが織り込んであるのか、太陽に照らせばきらきらと輝いてすごく綺麗だ。
「なかなかイケるっしょ? 自分、アルファのステージ衣装とかもどんどん作らなきゃなんで、まじ。一般ウケする服もいろいろ考えてみたっすよ」
「そうなんですか? 庶民が着るにはいささか色使いが派手すぎる気がしますけど。ボクはこーいうジャンキーなのも好きですよ!」
鼻に指当てて得意げなベータのセンスにプリンはそう批評した。ジャンキーというか、俺から見れば妖精たちが売る服はどれも原宿系だ。
「でも全部サイズちっちゃいな……完全に妖精用じゃん。俺らぐらいのやつが着れる商品は作らないのか?」
「売れ行きが良さげだったら作るっすけど、まあぶっちゃけコスパがね? 実は妖精ブランドって、他の種族からはフィギュアの着せ替え用としての需要のほうが大きいんすよ、まじで」
実用ではなく娯楽用。着せ替えグッズかよ。どうりで派手でも許されるわけだ!
プリンがうんうんと頷いている隣りで、またもや初耳の情報を聞かされた人間市長こと俺であった。
*****
あらかた巡回を終えたあたりで、俺とプリンはステーションへと帰ってくる。まだここがさほど大きな都市ではないにしても、施設や事業の説明をしながら一周すれば時刻はなんやかんやと昼を過ぎていた。
「市長さん、ボクあれ乗りたいです!」
アルファお手製の穀物クッキー片手に、プリンが助手席から指差したのは観覧車だ。俺はゆっくりと車を支柱のそばに停める。
……我ながらずいぶんと運転の腕を上げたなと誇らしく思う。これなら万が一、いや億が一にも人間の女の子とドライブデートするチャンスが突然巡ってきても大丈夫だろう。ハンドル握りながらミラー越しにドヤ顔できるぞ、俺。
え? 今まさに天使の女の子とデートの最中じゃないかって?
いいや。残念ながら違うな。
これはそんな甘ったるい、リア充イベントなんかじゃないんだよ。
「実は初めてなんですよね〜観覧車! 車とかもそうなんですけど、こういう複雑な構造した乗り物って、飛行できて当然のボクらにはまったく需要がないんですよ」
「……」
ゴンドラに乗り込みながら、しれっとプリンにドライブデートの醍醐味を完全否定された。車の運転だけでドヤ顔できるのは、人間を相手にしたときだけらしい。
創造神の
「……それで? 市長さん」
二人きりの狭い密室。
クッキーを美味しそうに頬張るプリンが、なんの含みもない笑顔のまま。
「本日はボクにどういったご用件ですか?」
「……用件もなにも、都市を見学したがっていたのはお前のほうだろ?」
「うっそだあ!」
一度はとぼけた俺にすかさずプリンが言葉を返す。
「神様も『アース十六』もわざわざこの場から締め出しておいて、それはさすがにありえないでしょ〜! そもそもボクは彼らにとっては前科持ちなのに」
「なんだ。さすが天使とかいう上位種族は察しが良いな」
「天使は天使でも仕事がデキる天使ですよ、ボクは。でも本当に大丈夫なんですか? ほらボクって一応他の
「……仕事がデキる天使、ねえ?」
少しだけわざとらしかったかもしれない。
俺は大袈裟に鼻を鳴らしてプリンの発言に探りを入れてみた。
「お前の自己評価はともかく、周りからはあんまりデキる天使だとは思われてないみたいだけど?」
「……」
「人間風情のちっぽけな人生とはいえ、こと人間観察と自己保身には欠かさなかった俺に言わせるとさ。誰にでも嫌われるってのは、実は誰にでも好かれるよりも難しいことなんじゃないかって思うわけだ」
笑顔を貼り付けたまま返事しなかったプリンにたたみかける。
「俺の秘書になりたいって本当に言ってるんなら、まずは今住んでる町の神様やエルフの先生に気に入られる努力をしたほうが良いんじゃないか? どんなにお前が実力者だとしても、スノトラ先生の知り合いからも評判悪いような天使じゃあなあ」
「ボクがなにをしたって言うんですか?」
すると、プリンは途端に表情を変えた。
挑発しすぎて怒り出したのかと一瞬身構えたけれど、その顔はさっきまでのおどけた様子とは打って変わって真剣だ。
「商売敵ならともかく、仲間に嫌われるようなことをした覚えはありませんよ。ボクはいつだって、担当してきた世界の発展を願って行動しているんです!」
「へえ?」
「確かに手段はいささか乱暴かもしれません。でもちょっとくらい強引に行かないと、新しいことも画期的なビジネスも、大きな成功はノーリスクじゃ実現できないとボクは考えています。たとえ危ない橋だったとしても、それが世界ランキングの上昇につながるのであればボクは躊躇しませんよ。……あなたなら、ボクの言ってることが理解できるんじゃないですか?」
真面目な表情で見つめられて少しだけ怯む。アルパカ連中なら喜んで飛びつきそうな思想だとも一瞬は愚考したが、俺はプリンの今のセリフで、ひとつ大きな確信を得ていた。
「そのやり方で、お前が得することってあるの? 百歩譲って神様やその
「ボク自身のメリットですか? もちろんです!」
プリンはきっぱりと言い切った。
「誰だって自分の損得なしには動きませんよ。これは全部、最終的にはボクが悲願を果たすためにやってることなんです」
「悲願? 夢があるのか?」
俺が驚いたように声を裏返すと、プリンは頬を軽くふくらませた。不機嫌になったというよりは、俺にどこまで話すべきかを思案しているような仕草だった。
ゴンドラ内で数秒ほど沈黙が続いたが、案外すぐに決心がついたようでプリンは頬をぷぅと引っ込める。次にプリンから発されたのは、人間の子ども風情には到底想像もできないような、あまりに大きすぎる展望だった。
「市長さん。ここだけの話──ボクは『
(Day.74___The Endless Game...)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます