Simulation05: 日常(しあわせ)

Aパート 住民たちの運動会・前編

Day.78 運動会なんて俺は(私は)絶対やらないからな!?

 おっはようございまーすっ!!


 ボクは『権天使プリンシバリティ』! 気軽にプリンと呼んでくださいね。

 この度、神様と市長さんのお取り計らいで、ふたつの都市せかいを結ぶ『大使館』の管理運営、そして名誉ある『観光大使』に任命されました!

 改めまして、プリンをご指名ありがとうございます!


 そして今日は朝から、創造神専門学校(仮)のグラウンド、朝礼台まで呼び出されたわけですが〜……これはこれは壮観ですねえ。

 神様と市長さんだけじゃありません。

 妖精たちにエルフたち、ロボットたちという住民のほとんどが、グラウンドに整列して揃い踏みときました!


 何も説明を受けてないのでボクにはさっぱりですが……ねえ神様。ねえ市長さん。

 今日はいったい、ここでどんな催しを?



「催し? 無いぞそんなものは。今しがた神様権限で中止を言い渡したからな」

「イベント? ねえよそんなものは。たった今市長権限で中止を宣言したからな」


 ──……う、うっっっっっそだあぁああっ!?



*****



「見たらわかるでしょ? 運動会に決まってるだろうが」


 はい。ボクにまともな返事をしてくれたのはヨルズさんだけでした。

 なっるほどぉ〜、運動会! 学校行事としてこの上なくしっくりくる響き!

 確かによくよく見れば、生徒たちも先生方もみんなして動きやすい格好をしていますねえ。


「あんた、スノトラに呼ばれてきたんでしょ? 今日の司会と実況はあんただから」


 ヨルズさんがそうおっしゃっるので、ボクはたいへん驚きました。

 なんでボクなんですかね? 生徒の市長さんはともかく、校長ポジションの神様がやれば良いじゃないですか〜!


「今回はね〜♪ 創造神様チームと市長くんチーム、白組とあか組のチーム対抗戦になったんです〜♪」


 今度はスノトラさんが答えてくれました。

 なるほどなるほど、神様も今回は参加側なんですね!

 楽しそうじゃないですか!! ……でも、あれ?


「神様も市長さんも、なんでそんな嫌そ〜な顔してるんですか?」

「「嫌だからだよ!」」


 ──返答、はっっっっっや!

 早い上におふたりのシンクロ率、た〜か〜す〜ぎ!


「良いじゃないですか〜運動会! ボクも司会などと言わず、選手として参加したいくらいですよ〜……例えば市長さんと『二人三脚』とか?」

「じゃあ俺が代わってやるよ。選手交代。俺が司会やるわ」


 ──……ええと、そういう意味じゃ無いんだけどなあ。

 この市長さん、人間の子ども(しかも日本国出身)なのに「運動会といえば男女ペアで『二人三脚』だよね〜はあと❤︎」的な、ラブでコメディなネタが全然通じないじゃないですかー。やだー!


「市長さん、もしかして運動会嫌いですか? ていうか、運動が嫌いなんですか?」

「もしかしなくても嫌いだよ。見ればわかるだろ?」


 真っ白なTシャツで胸を張る少年市長。


「俺は体育タイクが大嫌いだ。この世界から滅んでしまえば良いと思ってる!」

「いや極端!? 滅びないですよ、体育スポーツ芸術アートだけは!! なんでですか〜、市長さん毎朝エルフたちとグラウンド走ってるじゃないですか〜!」

「いつもドベだろうが! 俺と創造神だけ周回遅れだろうが! ……ていうか、お前なんでそんなこと知ってるんだ?」


 ──あ、やっべ。

 ボクが毎日、市長さんのモーニングルーティンを観察してることがバレてしまう。


「自由参加にするべきだと思うんだよな〜、こういうイベントは! 運動できるやつは自分の見せ場ができて幸せかもしれないけどさ〜、俺みたいな運動音痴にとってはむしろ見せ物にされて周りから笑われるだけの、幸福度を下げるだけのイベントなんだよな〜!」

「そ、そうだったんですね……ボク、市長さんの運動能力レベルを見て、てっきりあのくらいが人間族の平均値なのだとばかり……」

「俺は文化祭で頑張るからさ〜、今回のイベントは見逃してもらえないかな〜!?」


 グラウンドから全力疾走で逃げ出す市長さん。

 そうは問屋が下ろさねえ、とエルフの先生たちがすかさず市長さんを捕まえました。市長さんってば運動苦手なのに、こと、エルフ族からの逃走を目論むなんて大した胆力ですねえ……。



 同時に、ボクは思い出してしまいます。

 確かに市長さんだけじゃない……あのモーニングルーティン、神様もめっちゃ周回遅れしてた気がする!


「神様……さてはあなたもですか……」

「断固として抗議する。住民幸福度低下企画イベントの強行を、私は全能なる神として反対する!!」


 ──運動音痴な時点で全能性皆無ですけど。

 あと、住民の幸福度はイベントを強引に取り上げた方が下がりそうですけど。この神様、頭だいじょぶそ??


「ていうか、あなたは魔法使えば良いじゃないですか。『浮遊フリー』とか魔法陣あたりをちょちょいと使えば、スタート切ってからゴールラインまですぐですよ!」

「は〜い、ここでスーから大事な大事なルール説明〜♪」


 スノトラさんが言いました。


「全種目、全出場選手において使とします〜♪ 天使のプリンちゃ〜ん、厳正で公平な審判もお願いしますね〜♪」

「異議ありぃ!! ルール変更を審判に大至急要請するぅ!!」

「意義は認められませ〜ん♪ 魔法チート競技スポーツ勝利ヴィクトリーだなんて心底つまらない物語ゲームを絶対許しませ〜ん♪」

「今更すぎる!! 魔法チートでなにが悪い!! 瞬間移動したり都合よく召喚したり家も学校も会社もぽんと創造つくれちゃう全能でなにが悪い!!」

「そーだそーだ! 都市開発ゲームだって、なんやかんや建設は地面からニョキニョキ生えてくるのが常識スタンダードなんだぞ!?」


 神様と市長さんがここまで意気投合している現場を、ボクは初めて目撃しました。

 そんなに運動苦手の運動嫌いだったのか、この二人!


「うーん、でも、同じ種目を魔法なしなんて公平なようで公平じゃないんじゃないですか? たとえばロボットと妖精じゃあ、性能スペック以前に体格サイズが違うじゃないですか」

「そこはちゃんと教師陣で調整してあるから。チーム分けでも各種目の出場選手でも、ちゃんと両チームの性能スペックが半々になるよう設定してるから」

「なるほど〜!」


 ヨルズさんの説明にボクは納得しました。

 それなら大丈夫だ! ルール変更は審判権限で認めませ〜ん!



*****



 と、いうわけで!

 さっそく第一回創造神専門学校(仮)紅白対抗運動会が始まりました。


 開会式では白組代表・神様と紅組代表・市長さんが並んで朝礼台の前に立ちます。

 全生徒に見守られながら、代表者の二人は片腕を上げ、仲良く選手宣誓の言葉を青空へ轟かせるのです。


 ……おそらく運動会史上、もっともフェアプレー精神やスポーツマンシップを感じさせない誓いの言葉を。



「「宣誓。──こんなクソ儀式イベント、さっさと終わらせよう!!」」






(Day.78___The Endless Game...)

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