Day.71 新事業はプレオープンの手応えが肝心なんだよ創造神

 某日。

 校門のすぐそばに設置されたエレベーターで空へ空へと昇っていく。

 エレベーターを降りれば、学校の敷地全体を見渡せるほどの高架橋を渡った先に綺麗な建物がそびえ立つ。


「おお……!」


 建設したてのステーションを至近距離で見上げた少年はらんらんと目を輝かせた。


「超かっけえ! お台場みたいだ!!」


 橋の途中ではすでに何店舗かが営業準備を始めていて、おそらくどこよりも新事業に精を出していたであろうカチク・コーポレーションの広告旗がずらりと横へ広がっている。

 ステーション本館の脇では、少年がリクエストした観覧車も動いている。


「ご来場ありがとうございます〜ぅ、市長様ぁ、創造神様ぁ」


 本館の自動ドアを抜けるなり創造神わたしと少年を迎え出たのはシューだった。シューが呼び寄せた他の受付嬢たちも、担当の配置場所で口々に「いらっしゃいませ〜ぇ」とさえずっている。


「内装もかなり良い感じだな。電車の駅というよりは空港のロビーみたいだ! で、肝心の改札……っていうか、召喚陣は?」

「は〜い、わたくしがご案内いたします〜ぅ」


 鼻詰まりみたいな甲高い声とともに、シューは私たちを召喚陣まで連れていく。

 少年が言うところの「改札」では私の許可なく世界間の移動ができないよう、エルフたちが生成してくれた魔力マナを感知する結界が貼られている。

 そして、世界と世界をつなぐ召喚陣は、もちろん私自身がこさえたものだ。


「うわ〜……うわ〜〜〜!」


 感極まったように少年が、


「ファンタジー成分が強いからかな。なんか学校作った時より感動してる……」

「あとはお二人の承諾と『ステーション』の稼働さえ行われれば、わたくしたちはいつでもお客様をお出迎えできるよう、万全の態勢を整えております〜ぅ」

「まじかあ。よその住民を呼べるのかあ。うわ〜……どうしよっかな……」


 シューの頼もしい言葉に対して、少年は珍しく落ち着かない様子だ。



 ──実際、ここからどうするつもりだ少年?

 いきなり少年の言う「オープンド・サークル」な商業都市として、私やエルフたちが世界各地に触れ回る感じで良いのかな?


「いや、まだだ。完全オープンはまだ早い」


 胸の高ぶりを抑えきれないまま、しかし少年は首を横へ振る。


「どんなお店でも完全に開く前に『プレオープン』と称して、知り合いや家族を客として招待することがある。特に今回はめちゃめちゃ規模が大きいプロジェクトだからな、焦って失敗するわけにはいかないだろ?」

 ──ふむ……知り合いねえ。ならば私のツテで誰か誘ってみようか? 例えばほら、ロボットたちを借りてる創造神निर्माता भगवानビイとかどうだ?

「確かにビイは良いチョイスだな創造神。ぜひ次の機会に連れてこよう」

 ──え? 次? 今からでは駄目なのか?


 私が不思議がると、少年の顔から急に笑顔が消えた。真剣な面持ちで腕を組み、考え込むような素振りを見せる。

 なにかを考えていると言うよりは、すでに考えついている案を私に言うべきかどうか悩んでいるようだった。


 どうした少年? もったいぶってないで、遠慮なく私に言ってみたまえ。

 自慢じゃないが、全能にして寛大なるこの私。人脈ならぬ「神脈じんみゃく」には結構自信あるんだよ?


「実は……今回のプロジェクトで、ひとつ新しく組み込みたい計画プランがあってさ」


 ようやく口を開いた少年が、


「でも、それを実現できるかどうかがわからないんだ。正直今までのどの施策よりも難しいと思う。なんせ、俺やお前の力でどうこうできる問題じゃないからな」


 そう打ち明けてきたことに私はとても驚いた。

 この世界まちが抱えたあらゆる問題を解決まで導いてきた少年をもってしても難題とは……いったい、何をしようって言うんだ!?


「それは……ええと……ごめん言えない。なんつーか、うまく説明できないんだよ。とにかく俺が頑張るしかないっていうか……」

 ──な、なんだそりゃ? 歯切れ悪いなあ。

「つーかまずは、んだよな。創造神に頼めばイケるのか? いやでもな……待てよ、そういえばあいつ確か……」


 ごにょごにょと独り言をつぶやいたのちに、思い切った顔で少年が告げた。


「創造神。今だけで良い、召喚陣を開放することってできるか?」

 ──うん? どういうこと? 無差別で呼び込みをかけるということか?

「いいや、こちらからは呼び込まない。陣を開放して、自分から寄ってきた奴を入れるだけだ。……俺の見立てではたぶん、この都市せかいにやってくるだろうから」


 私はいまひとつ少年の考えを読みきれないでいたが、まだ閉じていた召喚陣を詠唱によって初めて開放する。

 緑の単色だった召喚陣が詠唱によって虹色に輝き始めれば、様子を私たちの背後から見ていたシューも「コココ……!」とくちばしを震わせた。


 すると、召喚陣は少しの間沈黙したのちに点滅を繰り返し始めた。



「ココッ! 素晴らし〜ぃ! 記念すべきステーション最初のお客様です〜ぅ!!」


 シューが歓声を上げる中、召喚陣から天井を突き抜けるように強い光が溢れ出す。

 光が収束していき、私たちが目を凝らしてみれば……──



*****



「おーはよー、ございまーっす!」


 召喚陣から姿を現したのは。


「突撃! 隣の市長さん・パートツー!! 『ステーション』の開設おめでとうございます!」


 喉に拡声器を入れたような大音量。茶髪で後頭部にお団子を作り、お団子には白いシュシュを巻いた少女は、ついぞ最近に見知った顔である。


「さっそく中を見学させてください! ありがとうございます! ほほう、結界は『気配感知サーチ』と『魔力測定メジャー』の合わせときましたか。さすがエルフ! 『アース十六』が統率していると、魔法のひとつとっても質が全然違いますね〜」

「……はは。やっぱ性懲りもなく接触してきやがった」


 相変わらずのマシンガントークをかますプリンに、しかし少年は平然としている。

 ──まさか、少年。

 彼女がやってきたのは狙い通りだとでもいうつもりか? プリンこそが少年の言っていた、計画プランとやらに関係しているというのか!?


「ようこそプリン。そんなに慌てなくても、見学くらいさせてやる」


 私の質問に答えないまま、少年は笑顔でプリンと対峙した。

 余裕ぶった表情を浮かべる裏で、その拳には不安混じりの汗をにじませながら。


「俺が手ずから案内してやるから、これから始まる事業の所感のひとつやふたつ聞かせろよ。……お前、俺の『専属秘書』志望なんだろ?」



(Day.71___The Endless Game...)

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