Cパート 天使と市長、商談中

Day.69 Trick or Treat!! 〜妖精たちの仮装舞踏会

【まえがき】

 たまにはグローバルイベントに乗っかってもバチ当たらんやろ!

 というわけで、ハッピーハロウィンを記念したエピソードを急遽書き下ろさせていただきました。31日ギリギリだけどね! ……どうぞお納めください。

*****






 ぶん、ちゃっちゃ。

 ぶん、ちゃっちゃ。


 大木の下、晴天の原っぱ。

 均一のテンポと軽快なリズムでオルガンを奏でているのは少年だ。

 ──うん、さっすが少年! いつだかにかましてくれたアルファの伴奏とは比べ物にならないほど安定しているな。


 で、そのアルファはどこに? そういえば、大木アパートの目の前だというのに、妖精たちの姿が一向に見当たらないな。


 すると、


「『お菓子を"Trickくれなきゃor悪戯しちゃうぞTreat"』!!」


 Dマイナーの三拍子に合わせて、いや、あまり合っていない歩調でアパートの一室から妖精の一人が飛び出してきた。頭にまるまるとパンプキンヘッドを被り、奇怪な色合いをしたワンピース姿。パンプキンは所々が顔の形にくり抜かれている。

 顔こそまったく見えないが、掛け声だけでパンプキンヘッドの主がアルファであることは創造神わたしにもすぐにわかった。アルファの合図で他の部屋からもゾロゾロと、派手な格好で着飾った妖精たちが飛び交っては原っぱを色とりどりに染め上げていく。


 妖精たちが奇怪なファッションをしているのはいつものことだが、いつもに増して活気盛んな、仮装パレードみたいな雰囲気は……もしや……もしや!



「そう! 『ハロウィーンHELLOWEEN』だ!!」

 ──そう! 『プーリームPURIM』だな!!



*****



 少年と私の声がシンクロし……いや、バラバラになって空でぶつかった。

 待て待て少年。今、なんて?


「だから、『ハロウィン』だってば。見ればわかるだろ?」

 ──ああわかるとも。『プリム』だろう?

「え、は? プリム? なにそれ……?」

 ──え、知らないのか? 一年に一度のめでたい祭事じゃないか。そうか〜、もうそんな時期だったか〜。

「…………」


 仮装している側であるはずの少年が目を白黒させている。そういえば今日の少年も、いつもの黒服がくらんではない。白のシャツを血で落書きしたような、普段の陰気くさい少年なら絶対にチョイスしないファッションだ。


「だっ、誰が陰気くさいだ! 間違ってないけど! ……し、仕方ないだろ、元不登校引きこもりゲーム廃人なんだから!」


 演奏を止めて口どもった少年が、人差し指同士をくっつけたり離したりしながら小声で言い訳がましいことを喋り始める。


「実はちょっとだけ楽しみにしてたんだよ、ハロウィン。こんなもん、都会のスクランブル交差点で陽キャたちが馬鹿騒ぎするだけのくっだらないイベントだって、今までは敬遠してたんだけどさ……」

 ──く、くだらなくなんかないよ少年! 神様的には結構大事なイベントだよ? そう、クリスマスと大差ない程度には!

「けどこの世界まちだったら、そもそも毎日がハロウィンみたいな連中ばっかりだし、住民とも随分仲良くなれてきた頃だし、初めての仮装とか……俺みたいなやつでもそこそこ楽しめるんじゃないかって思って……」


 そう言って少年は、じろりと私の顔色を伺った。


「……創造神。ハロウィン本当に知らない? つーか、プリムって何?」


 私は慌てて説明した。

 プリムとは少年が想像しているような、仮装したりパーティしたりお菓子を配り歩いたり、まさしくハロウィンなるものに近しい祭事であると。

 おそらくは私が前世から引き継いだ、文化の記録のひとつだと思うのだけれど。


「あ、なるほど……文化圏の違いか! おいおい創造神、今のはお前の前世に関わるかなり貴重な情報だったんじゃないか?」


 ぽんと手を叩いて少年がメモを取り始めた。その間にも妖精たちの騒ぎを聞きつけて、他の住民たちもがやがやと集まってくる。


「ややっ! もしかして今、はろうぃぃ〜んしてます? わたくしたちカチクも混ぜてくださいませ! 少々お待ちを、仮装してきますので……」

「てめーらアルパカは年中仮装きぐるみしてるだろ?」

「パッカー!? あああアルファ殿、これは着ぐるみじゃありませんから! 地毛ですから!!」

「スーも市長くんに呼ばれて仮装してきました〜♪ ところで、今晩はもちろんパーティあるわよね? よその都市まちからも呼び込みかけましょう?」

「げえっ、やめろやめろ! どうせドワーフっしょ? あんな髭が鬱陶しいむさい連中連れてくるんじゃねーよ年増先生」

「……なんですってアルファちゃん?」

「あーもう喧嘩すんなって。それより酒だ酒、祭りと言ったら『酒が飲める飲めるぞ〜♪』でしょうが。早く持ってこいよロボットども」

「ワカリマシタ〜ヨルズセンセイ」

「お酒って……まだお昼なんすけど?」


 原っぱに集まって歓談する住民たちを眺めていれば、私にもふつふつと感慨深いものが込み上げてくる。

 無の空間に天と大地を創り、少年を喚んでから幾星霜。


 ──賑やかになったなあ。

 やっと私が目指す「最高の世界」に近づいてきたじゃないか。



*****



「……で? 創造神。例のブツは?」


 少年とアルファが肩を並べたかと思えば、私に両手を差し出してくる。


「プリムとやらにも当然あるだろ? お菓子配り」

「そーそー。はよせい。『お菓子を"Trickくれなきゃor悪戯しちゃうぞTreat"』!」


 子どもらしい悪戯な笑顔を浮かべた従属どもに、私も思わずつられて笑う。

 よし! お菓子配りが慣習なのかどうかは知らないが、良いだろう、私も今日はひと肌脱いでやろうじゃないか。ちょっとここに臨時キッチンを創造つくるが、クッキーが焼き上がるまで待てるかな諸君?


「いえーい! 都市開発最高!」


 少年がオルガンを奏で、妖精たちが踊り出し、アルパカやロボットたちが行進し、エルフたちが卓を囲んで盃を交わす。

 今日も私が創りし世界は、色とりどりな生命で溢れている。



(Day.69___The Endless Game...)

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