Day.67 みんな違ってみんな良い。種族も趣味も性癖も
三十分程度の休憩を挟めば、創造神室にはぞろぞろと都市の代表者たちが席へ戻ってくる。
そして一番最後に着席した少年は、小さく咳払いをしてから口を開いた。
「急に話は変わるんだけど」
──いや、変わるんかい!
「今日の本題になっていた『ステーション』の設置企画に先駆けて、みんなには新しい住民を紹介しようと思う」
──いや、急だな!? 本当に急じゃないか。今のタイミングで合っていたのか、その話題転換は?
「そりゃあ急に決まったことだからな。まあサプライズってことで。おい創造神、新住民を紹介したいから今ここで召喚してくれ」
──いやいや、召喚から始めるのかよ!? 私完全に初耳なんだけど!? 大丈夫か少年。さてはブランク? ブランクなのか? あまりに
「
──休んだじゃん! 三ヶ月休んだじゃん!!
「意味わかんないこと言ってないで早く召喚してくれ創造神。ほら、ここに喚んで欲しい住民のリスト書いておいたから」
少年はそう言って私にメモ書きを手渡してくる。
私も他の住民たちもなんだか腑に落ちないままだったが、私はひとまず指示された通りに、メモで指定されていた種族の召喚陣を円卓の中心で組み立てていく。
そして、私は詠唱を歌った。
אתה לא תבגוד בי
(訳:お前は私を裏切らない)
אני לא אוהב אותך
(訳:私はお前を愛さない)
אתה עבדי הנצחי
(訳:お前は私の永遠の下僕だ)
חירה טובה, החיים שלך
(訳:選択するが良い、お前の人生を)
הדרך הנשגבת של "נשגב לה'"
(訳:「神への従属」という崇高なる道を)
*****
床の召喚陣から天井まで、円筒みたく光が突き上げる。光が収束すれば、私の召喚に応じた新たな従属たちの姿が見えてくる。
姿を現したのは二人、いや二羽だった。
「こけこっこ〜ぉ!」
「……こけこっこー」
異界からやってきたばかりというのに、先ほどまでの私たちの議論を聞いていたかのような、絶妙にタイムリーな挨拶をかます二羽が円卓の中心で佇んだ。
一羽は背丈が少年とほとんど変わらないくらいの低さで、ぼてっとした太い腹と、スーツの袖からのぞかせた茶色くてフサフサした体毛がよく目立つ。
もう一羽は少年よりは背高だったが私やエルフたちほどではなく、肉付きこそまるでなく痩せ細っている代わりに、全身が燃え盛っているような赤く立派な体毛が節々で目を引いた。
間違いなかったのは、二羽ともに
まあ、種族というか、誰がどう見ても「鳥」である。
「ご指名ありがとうございます〜ぅ。わたくしぃ、コハク族の陽気な
鼻につく喋り方と甲高い声で、シューは言葉を続ける。年頃は素で若いのか、あるいは若く作っているのか、私は判断がつけられない。
「わたくしたちコハク族は、各地の『ステーション』で看板娘として皆さまに奉公することを至上の生業としておりますぅ。今後はわたくしぃがトレーニングを担当した同業の者をこちらの町へ派遣いたしますので、ご用件ありましたら何なりとお申し付けくださいませ〜ぇ」
……ふうん。コハク族ねえ。
私はちらりと少年の反応を伺ってみたが、少年は平然とした様子で、
「うん、歓迎するよ。よろしく」
などと返しながらシューと握手を交わしている。
少年は次いで、隣に立っている赤い羽根の新入りにも視線を向けた。
「あんたは……ええっと、何族なんだっけ?」
「ホーオー族。ホーオー族の真っ赤なルビーとはあたしのことよ。
ザクと名乗った彼女のほうは、シューよりもずっと声が低くて太い感じで、余裕を持った気だるい調子で言葉を返した。
……いや、待てよ。身なりは確かに女性なんだが、声色と言い雰囲気といい、この感じはひょっとすれば……。
「前の都市ではスナック経営してたわ。こっちでも駅の近くで店を構えられたらと思ってるんだけど」
「飲食店か! それは俺としても都合がいいな。そろそろ学食と創造神チョイスのヘルシーメニューばかりじゃ飽きてきたところ……いや、ごほん。なんでもない」
アルファと私の痛い視線に気が付いたのか、少年は少し言い淀んでから、
「ザク。特にあんたには真っ先に相談したいことがあるんだけど」
そう切り返し、突然レオンを指さした。
「こいつがリザードマンでさ、エルフが自分たちの牧場を作りたいって話に反対してるんだよ」
「あら。イイ男ね。確かにとっても美味しそう」
──しょ、少年。おい少年。このザクとかいうホーオー族、あれだよな? たぶんあれのタイプだよな? メスだけどメスじゃないタイプの……──
「おい創造神。人を、ってか鳥を見た目で判断するな。それに大事なのは種族だ。ホーオー族は『不死鳥族』とも呼ばれることがあって、文字通り不死身な上に体の回復力も超高いって聞いたんだけど、本当なのか?」
少年はわずかに言葉を詰まらせつつ、気まずそうな表情でザクに問いかけた。
「ものすごく残酷な頼みだってのは承知してるんだが……ここはどうかひとつ……」
「わかってるわよ、坊や」
すると、ザクは一切動じることなく答えた。
「あたしたちがエルフちゃんたちに食べさせてあげる」
「うえぇっ!? まじで!?」
「多種族の町で価値観の違いを解消するために、あたしたちが一肌脱ぐのはいつものことよ。任せてちょうだい。腕の一本や二本、どうせすぐに生えてくるんだから……ふっふふ」
もともと赤い全身から、いっそう頬を紅潮させていくザク。
確かに私は聞いたことがある。エルフは肉食タイプであるがために、当然鳥も食すという話を。そして、その対象の中には瞬間再生力と不死力で有名なホーオー族も含まれているという話を。
「……これでどうだ? レオン。ヨルズ先生」
代表者たちをぐるりと見渡し、少年が投げかけた声に誰もが賛同の意思を返す。
かくして、つい三十分前まで困難を極めていたはずの代表者会議は、少年の提案と新たに加わった住民たちの尽力により、あまりにもあっさりと解決してしまったのであった。
そう……私が面食らうほどあっさりと、円滑に、である。
(Day.67___The Endless Game...)
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