Day.57 少年よ。人生も神生も、都市の在り方もイロイロなのさ

 少年おれをこの世界へ召喚した、神様を自称するは、明らかに日本人とは一線を画する顔立ちをしていた。どころか、人外かみを名乗るだけあって、どこの外国でも見かけなさそうな風貌をしていた。

 肩にかかるか否かのクリーム色をした髪は、角度を変えると透き通った青色にも見えた。まつ毛が長い瞳は一見すれば黒かったが、じいと見つめられれば瞳の奥は、紫だったり緑だったり、さまざまな色が混ざり合っているようだった。背丈は人間の大人くらいで、やや面長の顔で、鼻は少しばかり丸っこい。くるぶし辺りまで布が届く白いローブみたいな服を着ていて、ブーツなのかローファーなのか、金色の紐で結われた風変わりな靴を履いたそいつは、男なのか女なのかさえはっきりと区別付けることができない。


「ようこそアダム、私の下僕。今からお前には、この地に『最高の世界』を作ってもらおうじゃないか」


 突如異世界へ飛ばされた俺が、そいつの風貌と第一声で抱いた感想はこうだ。

 ──ああ、早く

 夢破れ誰にも期待されなくなり、とうに居場所を失った世界であろうとも、こんな訳わからん奴と一緒に暮らすよか遥かにマシだ、と。



*****



 ──教えてくれるか、創造神。お前のことを……あ〜、まあ、色々?


「もちろんだ、少年。最初の従僕にして市長たる少年に、今更隠し立てするようなことなど何も有りはしないさ」


 ──だからお前、そういう恥ずかしい台詞をすらすらと……人間だったときのお前を見てみたいぜまったく……。つーか、お前って? どの国の出身だ?


「なるほど、出身地か。記憶にもない話を私が掘り返したとてあまり意味を為さない気もするが……そういえば、私が日頃から魔法詠唱に用いている、あの言語。少年が知っている言語か、あれは?」


 ──いや俺が知るかよ! 少なくとも日本語じゃねえよ。お前も自分で分かってないまま使ってたのか!? ……ったく、しょうがねえな……あとで図書館で調べてみるか……。創造神の前世に繋がる、ヒントが出てくるかもしれないからな。


「うむ。よろしく頼んだ!」


 ──他力本願かよ、お前は。そういえば、お前ってよくよく考えたら名前も無いな? 一時期Aエイとは呼んでいたけど……。


「おお、そうだな。Aそれはいつのまにやら忘れ去られた設定だったな。私は神である、名前はまだない。はははは。ゆえに少年。少年に、全能なる私の命名権を授けよう!」


 ──だ〜から他力本願かよ、お前は! 名前が無いなら自分で付けろ! 神様の名付け親なんて、人間かつ子どもの俺には流石に荷が重すぎるって!


「だ〜から、命名それは神様が自分では付けられないんだって。そらの掟があると言ったろう? 名前も姿、神の存在を神が己で語ることは許されていないんだ」


 ──はあ、面倒くさいルールっていうかゲームシステムだなあ。都市開発ゲームよりややこしい。『無限むげんそら』だったか? そいつが設定している、世界ランキングとやらの基準もあいまいだしな。アルファのことがあったとはいえ、世界ランキング圏外を脱したなんて言われても実感が湧かないよ。


「そうだな。……しかし少年。実はさあ」


 ──ん?


「私はそもそも、己が創造した世界でランキング圏内に入ったのは今回が初めてだ」


 ──……んっ?


「これは快挙なんだよ少年。信仰力をもって神としての優劣を競う形式で、名前も持たない神がランキング圏内に入るケースは非常に珍しい。だから私は今の段階で十分に嬉しいし、少年にも他の従属たちにも感謝している。多く愛された結果だ」


 ──……い、いやいや待て待て。それってつまり……ええっ? お前が前に運営つくった世界では…………まさか、


「そういうことだ。まあ、最終的に破綻したような世界だからな。さもありなんと言ったところか。はははは」


 ──……な、なんでそんな事態ことになる? 今の世界まちだって、言うて大した開発ことはまだまだ全然進んでないのにさ。いったいどんな失策を犯せば……。


「う〜ん。策というか、世界まちの性質というか」


 ──どういうことだ?


「大地を創造したのは私だし、大地の創造主が、世界まちにまつわるすべての権利を有しているのは当然だ。しかし、今もこうして少年が市長を務めているように、権利を有しているからといって、施政に関して創造主が何でもかんでも口を出すわけじゃないんだ。そして、前の世界まちでは最終的に、私はあらゆる発言権および決定権をに委ね、


 ──……て……手放、した…………?


「私は別に構わなかったんだ。特に当時の私はね。今でこそ『最高の世界』を目指したいという志があるが、以前の私は大地の創造主でさえあれば……神様で在り続けられるのであれば、世界の在り方にはさほど関心がなかった。運営でも経営でも、やりたい奴がやれば良いと思っていた。権限を有してこそいれども頓着しなかったんだ。私としても、誰かに任せれば仕事が減って楽になると考えていたからな」


 ──…………。


「それに、だ。人間やあらゆる種族がコミュニティに属しているように、私たち神にも『白昼はくちゅうの夢』というコミュニティがある。人間関係ならぬ神様関係だよ。ほら、やっぱりさ。他の世界や神との不毛な争いや喧嘩は避けたいだろう? 苛烈な主義思想や主張する声の大きさは、時として火種となるからな。私、こう見えてけっこう平和主義なんだよ?」


 ──……そ、れは……なんだ? なにが言いたいんだ創造神? つ、つまり、おま、お前……お前が自分の意思で任せたんじゃなくて、誰かに頼まれたから権利を明け渡した、ってことか……!?


「う〜ん、まあ、そうなるな。私は構わなかったんだよ、別に。だが失敗だったな。大地を委ねたことじゃない。その重要な決定を私の権限で、私だけで行った──大地に住まう生命へなにも伝えないまま決定してしまった、私自身の判断が、だ」



*****



「私は知らなかったんだ。信仰を集めることを使命としておきながら、神が在るべき姿というものを理解していなかった。大地さえ創造すれば、そこに存在してさえいれば、従属にとって天上で舞っている神は誰でも良いものだとばかり思っていた。従属が幸福に満たされてさえいれば、それで良いのだと」


 ──…………。


「結果として私は、従属からの信仰をすべて失ってしまった。信頼と言い換えても良い。信仰を得られなかった神はそらに存在することができない。ゆえに神が創造した大地も、塵となって消えてしまったわけだ」


 ──……………………。


「笑ったか? 全能にして愚かな私を笑ったか少年? 結構結構。大いに馬鹿にしてくれたまえ。ははははははは! そういうわけだから少年は、安心して自信持って、私の従属として市長として今後も世界の発展に貢献し──」


 ──笑い事じゃねえだろ。


「うん?」


 笑い事じゃねえだろ!?

 初めは進んでいた似顔絵の筆も、いつのまにかすっかり止まっていた俺は叫んだ。

 創造神の証言からツッコミたいことは山ほどあったが、まず俺が、市長として、いや従属として、なによりも聞き出さなければいけなかったのは……──



 

 創造神おまえから世界を運営する権利を──信仰を神様って、いったい誰なんだ!?



(Day.57___The Endless Game...)

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