Day.55 他人の顔は描くのも描かれるのも恥ずかしいんだ創造神
現に世界ランキング上位の
「そ、そうかなるほど……さすが神、自己顕示欲が高いなお前ら……俺なら自分の顔が描いてあるお金なんか、こっ
私の要望を聞いた少年が、
「じゃあアレだな。お金そのものじゃなくて、お金を入れる箱の表面に載せれば文句ないだろう?」
そう提案してきたから私は笑顔で頷いた。
ペンケースくらいの箱で持ち歩く、細い棒状の金棒がこれから私たちの
あとは、ダース箱に私の顔を描いてもらえれば良いわけだが……。
私は学食に集まる少年や住民たちに問いかける。──誰が描いてくれるんですか?
*****
……おや、いったいどうしたことだろう。
私の顔を描くとなった途端、さっきまで騒いでいた住民たちが一斉に静まり返ったのだ。諸々の教養が高いスノトラや、何でもかんでも快諾してくれるアルファですら名乗り出てこない。
お、おいおい。なんで黙っちゃうの諸君? 描いてよ〜〜〜ぉっ!?
「申し訳ありません、
「あたしもパスで。超下手っぴだから。
口元を押さえて申し訳なさそうに眉を下げるスノトラと、口を尖らせながら断るアルファ。おいアルファ、歌は下手な自覚がないのに絵のほうは不得手な自覚があるのか? しかも「画伯」ってそれ、妖精たちの間では蔑称なのか?
「ていうか、ぶっちゃけビビるわ。住民もよその連中も使うようなお金に、自分の絵が載るとか……しかも神の似顔絵が載るとか、超ビビるわ」
これは後ほど知ったことだが、教室の廊下など、自分の絵が飾られて大衆の目に触れるのを好むのはどうやら子どもだけらしい。ある程度の年頃を迎えると、職業クリエイターでない限りは自分の創作物を人目に晒されたくないタイプの者のほうが多いとのことで。
「なあ創造神。ちなみに、写真じゃ駄目なのか?」
少年にたずねられた私は首を横へ振る。
実は……私たち神様は、自分で己の姿を描いたり画面上に映す行為を固く禁じられているんだよ。
「そんなルールがあったのか……あれか? 偶像崇拝というやつか? 知らんけど」
「じゃあ、あいつらは? カチクのアルパカ。ロボットはどうせ下手だから頼む意味ないとして、あいつらなら引き受けそ──」
「駄目ですヨルズ先生!」
ヨルズが提案しかけたのを、少年が即座に却下した。
「は? なんで?」
「先生、カチク・コーポレーションの正門の看板見たことないんですか?」
代表取締役・クロがこだわりにこだわったデザインと豪語する看板。私も当然見たことがある。
アルパカの全身を看板の形に見立ててあり、前足後ろ足を地面に突き刺し、胴体ではなく長い首のあたりに『KACHIKU』と毛筆で書き殴られ、歯茎を大きく見せつけキラリーンと白い歯並びが光ったウザ……自身満々なアルパカの表情を、正門で拝むことができる。
「……良いじゃん別に、描いてもらえば?」
「いやです。絶対いやです。あいつらに任せたら、間違いなく創造神もあんな風にウザい顔で描きますよ? 俺たちはこれから毎日、あのウザい顔を視界に入れながら生活しなきゃいけないんですか?」
毅然とした態度を取る少年、その発言に私はちょっぴり傷付いた。ウザがられているのはアルパカの絵画センスであるはずなのに、なぜか私自身の顔にいちゃもん付けられている気分だ。
「はあ……埒が明かないわね。もうオーディションか、創造神が指名すれば?」
肩をすくめたヨルズに私は間髪入れず答えた。
オーディションするまでもない。
この全能なる私が指名して良いのであれば、それはもう初めから──少年が描くに決まっているぞ?
*****
「……はあっ!?」
「だったら最初にそう言いなよ。話し合うだけ時間の無駄じゃん」
仰天し白目を剥いた少年を、私は不思議に思って見返した。
なにをそんなに驚いているんだ? 希望者がいるのであれば無論その者に任せるが、そうで無いのであれば少年が指名されて当然だよなあ?
「いやなんでだ!? 創造神、俺の絵を見たことあるのか!?」
──う〜ん、別に無いけど神の勘がそこそこ描けそうだと囁いているよ?
「どんな勘!? 女の勘より適当な第六感で判断するの止めろ! いやだよ、自分の絵がお金になるなんていやだよ! 創造神の肖像画なんてもう止めよう?」
──やややや止めるな!? まるまる一話かけて議論した話を振り出しに戻すんじゃないよ少年!
子どもであるにも関わらず、神の肖像画という大役を激しく拒む少年に私は言って聞かせる。
まあ待て少年、冷静になってくれ。別に良いんだよ上手でなくっとも。私はただ、従属の信仰心と愛情こもった肖像画をこの目に焼き付けたいだけであってだな。
「信仰心? 愛情?? 俺が!?」
──そうだよ少年。
なにせ少年は私がこの大地に喚んだ初めての生命、従属にしてこの
少年はしばらく形容しがたい変な顔を続けていたが、周囲の妖精やエルフたちにもおだてられた結果しぶしぶ了承してくれた。
チャイムの音が鳴り響き、それぞれが自分の用事を思い出したかのように、妖精もエルフも一斉に学食から立ち退いていく。
「え〜……じゃあ…………ここじゃ広すぎるし…………創造神室にでも行くか?」
珍しく私に主張を押し切られた少年の表情はぶっきらぼうで、初めてこの大地へ召喚したときに浮かべていた、理由もなく不機嫌そうにした、まさにそれである。
仏頂面に懐かしさをも覚えつつ、私は少年と高さが合わない肩を並べながら、学食を出た廊下を二人で進んでいくのだった。
(Day.55___The Endless Game...)
【作者より】
先日、本作が9,000PVを突破しました。いつもご愛読ありがとうございます!
カクヨムではなかなか難しいと思われる10,000PV到達まであと少しですね。気が早いながらも今からソワソワしてます。へへっ。更新頻度が上げられない点だけが申し訳ないんですが、本作はまだまだ続いていく予定ですので、これからも末長くお付き合いください。
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