Day.53 オープンド・サークルな都市を目指すぞ創造神

 明くる日のお昼時。

 学食でランチを摂りながら、少年と妖精たち、そしてエルフたちが机を囲み井戸端会議していた。

 会議のテーマはもちろん──


「妖精アルファをにした、商業都市を作ってみたいんだ」


 少年が本題に切り出せば、名指しされたアルファが頭のリボンをこてんと傾げる。


「こーこく? なんすかそれ?」

「レオンから『妖精女王ティターニアコンクール』の評判は聞いていないのか? アルファのパフォーマンスが、参加者内外の妖精たちの間でかなり話題になっているらしいぜ」


 妖精女王ティターニアの座こそ勝ち得ることはできなかったが、世間から注目を集めている今だからこそ、アルファにはもっと音楽家ミュージシャンとして芸術家アーティストとして、この都市せかいの住民代表としてさらなる飛躍を願うとのことで。


「そこで商業だ。より多くの住民をこの都市せかいに呼び込むため、あるいは創造神の信仰力とやらをもっと多く集めるために……アルファ、お前の力を貸して欲しいんだ」


 少年は両手を合わせ、自分の顔前に突き出してアルファに頼み込む姿勢。

 おっと? 珍しい。不遜で愛想皆無な無遠慮の極みこと、少年市長にしては住民たち相手にずいぶん腰が低いんじゃないか?


「この計画プランはなによりもお前の同意が前提条件だ。突然で悪いんだが、ここはどうかひとつ──」

「ひと肌脱げってことだなっ!」


 どんっ!

 少年がすべての台詞を言い終わらないうちに。


「ひと肌っていうか、コンクールで一皮剥けた最強にプリティでイケてるあたしの歌を宇宙スケールでお見舞いすれば良いんだなっ! うっし、やってやろうじゃねーの! 脱皮した蝶のようにうつくし〜く舞ってあげるっ!」


 やる。むしろやらせろ。絶っっっ対あたしにやらせろ。

 そんな強い意気込みが羽根の鱗と一緒に舞い上がっている、アルファの返事は当然オッケーだ。快諾だ。頼み込むまでもないじゃないか!

 勝手に盛り上がるアルファと周囲の観客オーディエンスに対して、小さく水を差してきたのはスノトラだ。


「市長くん、アイディアはとても素敵だと思うけど〜♪ すこ〜し段階ステップを飛ばしすぎてるかもしれませんね〜♪」


 猫かぶった甘たらしい声を奏でるスノトラだったが、目前の机には山盛りの唐揚げ定食ランチがどかりと置かれている。


「いかなる内容の事業でも〜、近隣都市を絡めた商業の発展とは、あくまで地盤が固まっているからこそ成立するものです〜♪ この学校と食堂くらいしか人と交流しうる建造物がない以上、アルファちゃんの脱皮よりも優先するべき事項があまりに多いのでは〜? ましてや学校は学生の〜、つまり交流する場所であって……」

「そこがポイントです、先生!」


 少年はびしりと、天井へ人差し指を突き上げた。


「俺はもともと、この学校を作った段階から『学園都市』を構想してたんだ」

「学園都市! 現代的で市長くんらしいコンセプトですね〜♪」

「けど学園都市ってさ、やっぱり一種の鎖国状態というか、学校に通う生徒と先生だけで成り立ってるようなクローズドなイメージがあるんだよ。それって俺はともかく、創造神のキャラとあんまり合わないコンセプトだなって……」


 私は目を丸くした。

 おいおい少年、私のキャラに合わないって……いったい私がなんだと思われているんだ? なんていうか、ちょっぴり心配になるんだが……。


「だってお前、祭り的な行事イベントかなり好きだし、『白昼はくちゅうの夢』だっけ? 神様の集会とやらにもしょっちゅう参加してるし。わりとオープンな性格してるじゃん? 開けっぴろげじゃん?」


 ──……へえ。私って、少年からはそんなふうに見えていたのか。知らなんだ!

 まあ確かに儀式は大好きだよ? 単純に信仰力が上がるし、賑やかで楽しいし?

 ただ、私は別に開けっぴろげとかじゃなくて、他の神々と多く交流するようにしているのには、相応の神様事情というかやんごとなき理由があってだな……。


「そして開けっぴろげな性格してるのはアルファもだ。格好こそめっちゃギャルで奇抜だけど……──」

「だあれが奇抜じゃい。ハイセンスだろうが」

「歌も踊りも、少なくとも高尚な感じはまったくしないだろ? こうして喋ってても全然高嶺の花じゃないっていうか、ギャラリーにはむしろ地下アイドル的な親しみやすさを持ってもらえるタイプだと思うんだよな。クラシックコンサートと違って気軽に聞いても怒られない、アーティストが目の前でライブしてたって素通りしても聞き流してもオールオッケーな雰囲気あるだろ?」


 ──おい、少年。横を見ろ。アルファが途端に不機嫌なりだしたぞ!


「というわけで、まずは近隣都市の住民も自由に行き来できるよう交通網を整えながら、全体的に学校も含めて『オープンド・サークル』な都市開発を進めていきたい」


 クローズド・サークル──閉鎖的空間の逆。

 開放的な空間で、住民たちと学校の同級生みたいな距離感で交流できるような都市作り。



*****



「どうだろうか? 創造神」


 少年に確認され、私は答えた──素晴らしい、と。

 まさしく私の目指す「最高の世界」にふさわしいコンセプトだ。

 少年が前々から掲げていた多様性社会がなんちゃらというコンセプトにも合っているんじゃないか?


「多様化社会の永久機関エンドレスループ、な! 忘れるなよ創造神」


 はいはい。

 ところで少年。商業都市ということは、要は商売ごとが大きく関わってくるということだろうが……その手の会議に、アルパカたちは加えなくて良いのか?


「あいつらはまだだ。まだ早い。ある程度計画を練ってからじゃないと、都市の利益より会社の利益を優先する連中は……あとは、わかるよな?」


 私は納得した。ごもっともだ。

 して、私たちが己の目指す都市を作るべく最初に考えなければならないのは……──



(Day.53___The Endless Game...)

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