EXパート 妖精女王コンクール

Day.46 コンクールの審査神を紹介するぞ。一同控えおろう

 גבירותיי ורבותיי!

(訳:レディースアンドジェントルメン!)


 ……と言いつつ、創造神わたしは全能でこそあれどレディでもジェントルマンでもないんだが。

 本日は私が主催する『妖精女王ティターニアコンクール』にご参加いただき誠にありがとうございます、などといった仰々しい言い回しも、なんだかないだろう?


 諸君にはわざわざ説明するまでもないが、これはまもなく世紀の節目を迎える『無限むげんそら』で、その新たな時代を牽引していく妖精族の頂点を決するための、きわめて重要な舞台ステージである。

 今回出場する妖精はざっと五十匹! 数多の世界から代表者を募り、宝玉がごとき輝きを放つ芸術家アーティストがここ音楽堂に揃い踏みというわけだ。

 長たらしい前置きはもはや不要。

 さっそく、今回お集まりいただいたコンクールの審査員……否、審査しんを紹介していこう。


 今回審査にあたっていただく神様どうほうは、公平性の観点から前大会の運営規定にならって、己が世界まちに妖精が滞在していない神に限らせてもらったぞ。

 無論、この私も舞台進行こそすれど、審査には一切参加しない。

 そしてやはり、前大会の運営にならい審査神は五名招聘することとなった。手短な紹介となってしまい恐縮だが、同胞の皆さん。どうか神さながらの寛大な御心でよろしく頼むよ。まあ、さながらっていうかがっつり神様なんだがね!



*****



 はい一人目。


 私が古くから付き合いを持つ、褐色の同胞──『軍神ぐんしん』アレス!

 神殿では常にアマゾン族の巨乳美女を多く侍らせた、ハーレムの神でもある。ひゅーひゅー羨ましい! というか、超久しぶりじゃん。きみと会ったのはいつDay.25以来だ?


「……ふん、懐古に浸るほどの年月でも無い。名も無きבוראきさまと違い、我にとって一年とは刹那にも勝る短さ──」


 じゃ、二人目!

 次々行くぞ。


 まさか、私のような辺境の神の大地へ、あなたを呼べるとは思ってもみなかった。

 スノトラ含め麗しきエルフ族『アース十六』をこのそらに輩出した、もっとも『天神てんじん』に近しき存在とも名高い──『詩神しじん』オーディン!


「ごきげんよう、創造神くんCruthaitheoir。こうしてあなたと話すのは初めてですね」


 ごきげんよう、ようこそ私の世界へ。『白昼はくちゅうゆめ』でもほとんどお会いしたことが無かったですからね。私が神としてあまりに底辺過ぎるからだろうか……あるいは単にツイていないのかな? はっはっは。

 オーディンどのと私を引き合わせてくれた、スノトラには改めて感謝だな。

 今回はどうぞ、厳正なる審査をよろしくお願い申し上げます。



 では、彼との対話が三人目に移ろう。


 彼女も実は、古くからの長い付き合いなんだ。

 女神の中でも特に多くの従属を抱えていることで知られる、母なる存在にして『泉神せんしん』──伊邪那美イザナミ


「はあ〜い……こ〜ん、に〜ち、わ〜……」


 こ〜ん、に〜ち、わ〜。

 とまあこんな調子で、彼女はのんびりした口調が鼻に付く不思議ちゃんでも有名な女神だ。


「へ〜……そ〜、な〜ん、ですか〜……?」


 そ〜、なんす!

 ところでイザナミどの。きみは私と同様、人間を前世としていると噂に聞いたんだが本当か? 私もつい最近小耳に挟んだんだが。


「え〜……ど〜、な〜ん、でしょ〜……じぶん……そ〜ゆ〜の、けっこ〜、どお〜でも良い、から〜……」

 ──……そ、そ〜なんすね。

「あ〜、でも〜……じぶんが、かみさまに、なったのって〜……やりた〜い、ことが、あったから、なんだ〜……」

 ──え? やりたいこと?

伊邪那岐イザナギ……キルKILL、したいんだ〜……」

 ──……キル? ……や、やりたいっていうかりたいっていうか?


 イザナミによる突然の暴露KILLに、私が目を白黒させていると。


「なるほど、怨恨。怨恨それがあなたの未練ですか? イザナミくん」


 音楽堂ホール客席中央部、長机に横一列で座っている神々のうち、一番左端で腰掛けてたオーディンが口を挟む。

 私もときどき創造神室でやっている、上官座りをスマートにやっている。さすがはオーディンどの……私よりもずっとさまになっている。ぐぬう悔しい。


「ご存知ですか、創造神くんCruthaitheoir。我々がそらの導きによって創造主へと生まれ変わった、その動機は他でもない我々自身が有しているらしいと」


 オーディンは組み合わせた両手の甲から、知性と理性を併せもった穏やかな微笑みをのぞかせる。


「不死の肉体が欲しい。美女美男に愛されたい。より多くの子宝を設けたい。子宝ではなく純粋な財宝や資源に恵まれたい。恨む対象への復讐を成したい、あるいはむしろ、かつて取りこぼした生命いのちを救いたい。そういう前世の身をもって果たせなかった希望や野心──『幸福ねがい』を、死の淵で強く念に抱いたが神に選ばれている」

「え〜……そ〜なの〜……? じぶん、初めて聞いたけど……」

「無尽蔵の知識を蓄えたい私を含めた、ランキング上位層に位置する神々の見解による仮説です。実証はなく、立証する手立てもない。なにせ我々は前世の記憶を引き継いでいませんからね。迷信にも近しい噂話です──『妖精女王ティターニア』のように」


 ──前世に残した未練、ねえ。

 意味深な台詞を残す詩神に首をかしげながらも、私は審査神の紹介を続けた。



*****



 さて四人目は『妖精女王ティターニアコンクール』審査神として常連の、とりわけ歌唱にはうるさい、このお方!

 そらまで昇る声と地の果てまで堕ちる声のゴッド・オブ・リピート!


 Ya-hoo! Yo-ho! Hol-di-lia!!

(訳:ヤッホー! ヨッホー! ホル・ディ・リアー!!)


 ──『歌神かじん』ヨーデル、大先生です! ヤッホー!

 今日も素敵な裏声をどうもありがとう! ヤッホホー!


 そして、最後に今回の審査委神長いしんちょうをご紹介。


 彼もまたコンクールの常連だ。大会名をちゃんと覚えているか? 妖精の女王を決めるコンクールだぞ? いったい彼を呼ばずして誰を呼ぶというのか!?

 ずばり『妖精の王』という通り名を持ちながら、なぜか自分の世界には一匹たりとも妖精が住んでいない、非常にユニークでアヴァンギャルドな神様!


 誰よりも同族から嫌われた男──『森神しんじん』オーベロン!


「創造神くん。きみさ〜、なんで僕だけそんな超酷いナレーション? まじで悲しみの雨なんだけど?」


 あ、ちなみに妖精フェアリー族だけでなく半身エルフ族からも嫌われている模様。


「嫌われてないよ!? 僕の世界まち、エルフとズッ友・ドワーフ族がいっぱい住んでるんだからさ!?」


 ニート種族・ドワーフしか住み着かない世界を運営するオーベロンくんを委神長に迎え、今回の『妖精女王ティターニアコンクール』はこちらの五名に審査してもらいま〜す。

 いやあ、客席だけですでに豪華メンバーだなあ。委神長をのぞいて。

 以上をもって審査神の紹介と、ついでに開会式も終わろうと思う。さくさく進行していくぞ。なにせこのコンクールは、少年に言わせるところの「都市開発」要素っていうやつが皆無だからな!


 それでは、張り切ってコンクール本番といこうか。

 出場する妖精、一番手が入場だ!



(Day.46___The Endless Game...)

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