Day.45 時は満ちた。運命のステージが私たちを待っている!

 これは以前、ロボットクラスAの担任教師・ヨルズが創造神わたしに告げていた教育方針だ。


「適性、素質、才能の有り無しは、一定量の練習と勉強トレーニングをやらせてから判定しても別に遅くない。ただ、どの才能を重点的に伸ばすべきかは、専門家の視点から早めに検討した方が良い」

 ──……ほう。と、言いますと?

「音楽に関して言えば、歌かピアノか、別の楽器か。分野はクラシックかポピュラーか。生徒には夢やら希望やらがあるかもしれないけど、教師がそんな現実性も計画性もない、抽象的な理想ドリームを基準に方針を立てたりしない」

 ──そういうものなのか? 私はむしろ、生徒の希望を叶えるために尽力するのが教師の務めかと思ったが……。

「俯瞰って言葉知ってる? 生徒はあくまでも他人。他人の希望をすべて叶えたいってのは、生徒の都合じゃなくて教師の都合、私情じゃない? 傲慢。過干渉。自分が全能だから相手も全能になれるとでも思ってんの?」


 辛辣な言葉を並べ立てながら、ヨルズは職員室の机で成績表に印を付けている。

 ロボット一号、体力不足。社歌を通した途中で燃料切れあり。ロボット二号、努力不足。教師が指示した一日あたりの練習時間を守らず。ロボット三号、学力不足。グループ授業の課題とは別途で学習レポートの提出を要求すべし。

 どうやらヨルズはただ成績を付けるだけでなく、それぞれの器量に合わせたトレーニング内容を考え、指示しているらしい。


 ──ヨルズ先生。エルフにしては、なかなかどうして働き者じゃないですか?


「別に? ワンツーマンしてるわけじゃないんだし。こっちから少し指示だけ出しておけば、この程度は他人から習わなくても、独学と自主練である程度は技術習得できるはずだよ──



 そんなヨルズの持論と教育的指導が功を奏してか、私が見ている限りでも、ロボットたちは着実に社歌のクオリティを上げつつある。……まあ、カチクの社歌だけど。

 今日は、待ちに待った月末の学内発表会。

 音楽堂のステージで、全校生徒を前に日頃の成果を見せるときが訪れたのは、もちろんロボットたちだけでなく。



*****



 ロボットクラス・グループ。

 妖精クラス・グループ。

 そして個人レッスンを受けていた生徒の順に、発表会はつつがなく進行した。


 発表会のトリを飾ったのは、ひたすら不安要素しかない妖精アルファ。

 スノトラのピアノ伴奏が始まり、客席中に緊張がほと走る。

 私や少年だけではない。今や彼女の壊滅的な音痴は、学校でも都市まち全体でも広く認知されている。彼女の演奏を聴いて何も文句を言わないのは、せいぜいアルパカトリオくらいのものだ。


「……………………え…………………………………………」


 アルファが自信満々に歌い始めた瞬間、両耳を塞ぎながら体育座りしていた少年が、ぽかんと口を開き次第に手を離していく。


「…………き、ける……………………」


 脇で椅子を下ろしていた私の裾をつまみ、少年は。


「聴ける…………ぞ、創造神!」


 興奮気味に、アルファの歌声をそう印象付けた。


「全っ然、いやふつー、いやぎりぎり最低限でも聴ける次元レベルだ! 合唱コンクールでは本番だけでも絶対に口パクでお願いしたい同級生くらいから、グループで誰よりも下手なのにカラオケで誰よりも曲数入れる先輩社員くらいにはレベルアップした!」


 ──それ、本当にレベルアップしているのか?

 しかし少年の感想もあながち見当違いではなく、彼女をよく知る他の妖精たちも、顔を見合わせながらざわついている。「聴いてやれないこともない」「常時炎上してたアパートが鎮火したくらいには平和」「そろそろ絶交するか移住するか考えてたけど考え直した」など、評価は上々といった様子。

 そして演奏が終わるなり、わあっと客席から歓声が上がる。拍手喝采、スタンディングオペレーション。彼氏のベータに至っては号泣だ。


「……いかがですか? 創造神様Cruthaitheoir


 集まってきた仲間たちに持て囃され、得意げに胸を逸らせているアルファを尻目にピアノ椅子から立ち上がったスノトラ。その微笑みこそいつもみたく穏やかに取り繕われていたが、赤い瞳の輝きからして、どうやら得意げにしているのは生徒だけではないらしい。


の仕事はさせていただきました。この仕事量であればあなたにも、怠慢やら無能やらと罵られることはありませんね?」

「すげえや、スノトラ先生!」


 客席から駆け寄った少年が、スノトラを希望に満ちた眼差しで見上げている。


「アルファの『妖精女王ティターニア』育成ミッションだけはどう足掻いても無理ゲーだと思ってました! マイナスの可能性がゼロパーセントくらいにはなったんじゃないですか?」

「『妖精女王ティターニア』の可能性はともかく、アルファちゃんは自信と意欲やるきだけは人一倍、いえ妖精一倍ありますからね〜♪ スーのお話をよく聞いて、正しい練習を適度にこなしたからこその、彼女自身のがんばりが順当に現れた結果です〜♪」


 アルファの成長にも涙ぐましいものがあるが、私が驚いているのは、少年が日に日に年相応の笑顔を見せる回数が増えていることだ。小生意気なのは相変わらずだし、都市開発の話をしている時はなにやら難しそうな顔をしているけれど、学校にいるときは……特に、スノトラと会話しているときは心なしか市長という役割を忘れているような無防備さを感じる。

 スノトラと何かあったのだろうか? いずれにせよ、周りの住民とそれとなく距離を置きがちだった少年が、生徒として教師の彼女に心を開いているのは良いことだ。


 ──よし!

 可能性が一筋でも見えたのであれば、挑戦してみる価値はあるっ!



*****



 私が大袈裟に咳払いをすれば、少年たちの視線はステージから一気に私へと集中する。


 知っているかね、諸君?

 実はもうすぐ──アレの時期が迫っていることに。


「アレ……? え、なに? なんだよ急に? よくわからないけど、俺……お前が急になんか発言するときって、だいたい突拍子もなさすぎて嫌な予感しかしないぞ」


 察しの早い少年へ、私は答えてやった。

 アレと言えばアレだよ。決まっているだろう、今の話の流れ的に? なんなら当ててくれても良いんだぞ少年。



 ずばり──『妖精女王ティターニアコンクール』だろう?



「ずばりじゃねえよ! なにそれ、コンクールぅ!? やっぱり唐突ぅ!?」

「はあ? 知らないの人間風情? 名前の通り『妖精女王ティターニア』を決めるコンクールだけど」

「知らねえよ! な〜にが名前の通りだよ! まじで? 『妖精女王ティターニア』ってコンクールで決めてるの!?」


 妖精事情を知らない少年のために説明すると、『妖精女王ティターニアコンクール』とは妖精が生息する世界や都市から、代表者を募って開かれる国際大会だ。いや、宇宙大会?

 百年に一度の催しもので、最も優れた音楽力を有する妖精に、現在の女王から称号として受け継ぐための「儀式」という側面もある。


 で、少年。百年に一度の大会がもうすぐ開かれるという、タイミングの良さにも驚いているだろうが……本当に驚くべきポイントはこの後だ。


「な、なんだと!?」


 まだ気がついていないのか? 

 私が最近のところ、やたらと『白昼はくちゅうゆめ』へ通ったり都市まちを留守にしていたことに。


「え……ま、まさか……創造神、やりやがったな!?」


 そのまさかだ! やってやりました!!

 生徒や先生にこれほど頑張らせておきながら、全能なる私が仕事をサボるわけにはいくまい。数多の神を跳ね除け、権利をもぎ取り、私が手ずからきみたちに、最高のステージを用意してきました!


 出場──いや、するぞ。

 私が作りし最高の世界、最高の学校、この音楽堂を舞台とした『妖精女王ティターニア』を決める戦いはもうすぐだ!



(Day.45___The Endless Game...)






【作者のあとがき】

 3章「学校」編が完結……と思いきや、EXパート「妖精女王」編にこのまま突入です! 新章ではありません。これはあくまで延長戦、都市開発要素なんか当然ありません。でも、結末クリアなきシミュレーションゲームに、攻略と無関係な臨時ミッションはつきものなんです!

 アルファは悲願だった妖精女王になれるのか……? 応援よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る