Day.43 市長も教師もやるべき仕事は同じですよ市長くん
「あと三話くらいが限度か……」
昼下がりの教室。
「そろそろ『学校編』も畳まないと、これが都市開発ゲームってこと忘れられるな」
「何のお話をしてるのかな〜♪ 市長くん?」
スノトラ先生の個人レッスンを受けながら、グランドピアノの前で呟く
この
「学校ってなんだかんだ大事な教育施設ですよね……」
急に悟ったような口ぶりを見せれば、スノトラはこてんと俺の隣りで首を傾ける。うわ、先生可愛い。あざとい。自分を可愛く見せる
「『開発ゲー』は道路とか区画とかダラダラ引いてるうちに一日過ぎていたりして、働いた時間と開発の進捗が比率として視覚化しづらいんですよ。その点、学校は固定されたスケジュールの中で進めなきゃいけない
「そうなの? スー、人間の
「学校のスケジュールを
スノトラは人差し指をあごに当て、考える仕草をしてから答えた。
「でも学校って〜♪ 同じ場所でみ〜んな同じ
「義務教育の難点ですね……ていうかスノトラ先生、なんだかんだ真面目に授業してくれますよね。エルフはニート種族なんて創造神は嘘っぱちだな」
「優秀なエルフは必要な仕事量と生徒との適度な距離感をきっちり掴めるんです〜♪ それに〜……」
あごから唇へと指を滑らせ、スノトラは少しだけ悩む素振りを見せてから、
「スー、女の勘で分かっちゃうんです〜……あの方、キレるとほ〜んのちょっぴりキケンなタイプ」
「キケン……? まあ、母ちゃんみたいなキレ方することは時々ありますけど……」
スノトラの作り笑いに今度は俺が首をかしげたが、創造神の性格の話なんかで貴重なレッスン時間を浪費するわけにはいかない。
俺は学校が始まってから一番気になっていた、大事なことをスノトラにたずねた。
「アルファは……妖精アルファは、どんな調子ですか?」
*****
前髪をかき分けたスノトラは、もちろん気のせいだろうけれど、その赤い瞳を数秒かけて穏やかな色に変えたように見えた。
数秒の沈黙を経てから口を開く。
「すべての種族においても、
わざとらしい上擦った声ではなく、少し低めの落ち着いた声色で答えるスノトラ。
「都市だって、土地を開拓してまもなく発展はできないでしょう? 言い換えれば、絶え間なく怠ることなく開発を続ければ、いかなる種族や個体でも成長することができます」
「そうじゃなくて……」
スノトラのやや遠回りな返答で、俺はわずかに業を煮やす。
「成長した結果、どうなるんだって話ですよ先生。アルファは『
なれる、と即答しない時点で結果はすでに見えている。
人間の俺にとっても常識だ。
音楽にしろ
あれほど「全能なる私」と豪語している創造神ですら、エルフたちの日課だという朝一のジョギングに混ざっただけで、あっさりと全能性を失った。あいつ、引きこもりの俺以上に運動音痴じゃん。
「……どうして市長くんが
質問を質問で返したスノトラが、さほど不思議そうでもない表情で俺の目を見つめてくる。
「もちろん、
「そ、そうなんですか? 初耳なんですが……」
「なんでも『千年に一度の
「千年に一度の美少女かよ!? どっかで聞いたことあるフレーズですけど!」
要するに、とスノトラは改まった態度で。
「奇跡の産物である
わずかに言葉尻を強めながら、今度は俺に詰め寄ってくる。
「先生には先生の、市長くんには市長くんに求められている仕事があります。アルファちゃんの心配をする暇と頭脳が余っているなら、その頭は、創造神様やこの都市をより効率よく発展させるための政策考案に使うべきだとスーは思います〜♪」
「スーは思います〜♪ って語呂良いですね……」
「市長くんがアルファちゃんを大〜好きなのはよく分かったけれど、必要以上に当事者意識を持って、彼女の夢や才能に無駄な責任を持とうとするのはやめた方が良いんじゃないかしら?」
「…………」
当事者意識──無駄な責任。
もっともな正論をぶつけられ、俺はその場で俯いてしまう。確かに俺は市長でこそあれど、学校の先生でもなければ音楽の専門家でもない。
もちろん
分かってるんだ。
頭では分かっているんだけれど……。
*****
「『
いつだかにアルファが口ずさんだ言葉。スノトラは眉を小さくひそめる。
「え? なあに市長くん?」
「あいつはパリピ系ギャル族で、好きどころかむしろ苦手なタイプだけど……自分で掲げた夢のために一生懸命努力できる、アルファの無駄なポジティブシンキングは嫌いじゃない」
俺は俯いたまま、小さな声でつぶやいた。
「自分で夢や目標を設定できて、自分で選んだ道を自信持って突き進めるなんて、それだけで十分すごいじゃないですか。周りにもちょくちょく反対されてるのに、諦めようともしないじゃないですか。──全部、俺にはなかったスキルだ」
ゲームのチュートリアル通りじゃない。
自分で夢や目標を選び、自分で決めたルートを進み続ける才能。
俺にもそんなスキルがあったなら、今ごろもっとマシな人生を送れたのだろうか。
よその
天神とか、
そんな大それた
(Day.43___The Endless Game...)
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