Day.42 苦手じゃ済まされない科目があるって本当ですか先生?

【作者のまえがき】

 今回も「都市開発」要素および「シミュレーション」要素は以下同文。

 ……え? さては更新頻度上げたいからって、尺を学校ネタで引き伸ばしてるんじゃないかって? そっそそそそんなはずはないだろう!?

*****






 創造神わたしの学校兼神殿も、ずいぶんとさまになってきた。

 朝から妖精たちが自由開放された敷地内を遊び回り、教室では個人レッスンが行われ、夜になればロボットたちも登校するなり学食で電池ディナーを食す毎日。そう……ロボットクラスが開講されてからは、学食には電池も常備されるようになったのだ。


「なかなか良い調子だろ? 創造神」


 カレーライスを学食で頬張る少年が、机の向かい側に腰掛けた私へ笑いかける。

 そういえばこの少年も、学校が始まってからは笑う回数が格段と増えた気がする。この世界へ喚んだ最初の頃は愛想のない態度ばかりだったが、ゲーム脳とはいえ人間の子どもである以上、仲間達と同じ空間で同じ勉強をする、今の生活こそ少年の本懐なのかもしれない。

 今晩もどこかの授業に出席するのかとたずねれば、


「ヨルズ先生の授業受けようかなって。特に小中の音楽科は感情やら根性論に頼りがちだけど、あの先生の教え方は理にかなってて好きだね」

 ──ロボットクラスのA教室か。さては少年、スノトラから別の先生に浮気かな?

「浮気ってなんだ……変な言い方するな! スノトラ先生は良いんだよ。午後に個人レッスンで一枠混ぜてもらえることになったから」


 市長の仕事もありながら、学校のいち生徒として勉強に励む姿はたいへん微笑ましい。しかもこの学校、住民の「信仰力」を底上げする目的がある以上「音楽」に特化したカリキュラムを組んでいるわけだが、教師陣の話によれば少年は全生徒の中でもかなり優秀なんだとか。

 ゲームの他にも得意なことがあったんだなあ、と神でありながら涙を流さずにいられない。……少年、本当に元・不登校だったのか?


 ともかく、少年には引き続き己が「日常こうふく」を謳歌してもらいたいものだ。

 今日も今日とてレッツ・都市開発! エンジョイ・学校生活!






*****



「市長くん、退学クビ。さよなら。やる気ないなら帰って良いよ」


 少年がヨルズからまさかの退学処分を受けたのは、授業時間の半分も過ぎていない頃だった。

 ──いやなんで!? ちょっと私が目を離した隙に何が起きた!? あとヨルズはちょっとやそっとで授業終わらそうとするんじゃない、懲りろよ職務放棄ニート


 今日の授業は校舎内の教室ではなく、もっと広々した体育館で行われていた。

 なんでもアルパカたちが突然学校へ現れて、ヨルズへ送りつけた指示書の通りに、で振り付けを覚え込ませて欲しいと依頼してきたとのことで。

 ……いやフォーメーションってなんだ? 集団体操の類か? ぜんっぜん意味がわからない。あいつら、社歌でどんな企業イメージを生み出そうとしているんだ!?


「ぜえ……はあ……」


 板張りの床にゴロンと大の字で寝そべった少年が、未だかつてない苦しそうな顔で呼吸しているのをヨルズが冷ややかな目で見下ろしている。

 私は気がついた。そうか──振り付け!

 カチクの社歌って、歌うだけでなく踊るタイプの音楽だったな、そういえば!?


「はあ……よ、るずせんせ…………これ……無理ゲーです…………」


 振り付け指導に早くも付いていけなくなった少年が、全身に汗かきながら諦めの表情を浮かべている。

 駄目だよ少年、諦めるな! 先生も生徒も諦めちゃったら、試合終了どころか完全試合だよ!


「コレ……『音楽オンガク』チガウ…………『体育タイイク』ジャン…………」

 息も絶え絶えに、

「ヤダ……オレ……キライ…………タイク、キライ…………」

 ロボットたちさながらの片言で、少年が授業の辞退を申し出る。


 もしやと思い少年を問いただせば、案の定、運動が著しく苦手らしい。

 音楽はできても運動は音痴。

 おまけに、一緒に授業を受けているのはロボットだ。少年が「ロボットと同じ動きなんてできるわけない」とヨルズにごねれば、


「アルパカもエルフも妖精も、全種族共通の振り付けだよ」

「人間……弱い……最弱サイジャク種族……」

「種族の弱さと自分の弱さを混合させるのはみっともないと思わない?」


 ──す、ストレートか!? 豪速球かヨルズ先生!?

 ヨルズは小さく息を吐き、倒れたままの少年に水が入ったボトルを差し出す。上半身を起こした少年が水をがぶ飲みする様子を眺めながら、腰に手を当て叱責する。


「人間には魔力マナがないのに、体力スタミナまで無くってどうすんの? 国語数学理科社会英語はできなくてもワンチャン生きていけるけど、体育だけはできないと許されないよ?」

「五教科よりも大事ってか……!?」

「全種族共通で、大人になれば身体能力の優劣がすべてだから。筋力、体力、柔軟力。身体フィジカルの強さが精神メンタルにも影響出るから。能力ステータス不足を自覚してるんなら、もっと身体鍛えたほうが良いよ」

「ぐぬ……」


 少年が嫌そうな顔をして、ヨルズを見上げるなり反論する。


「ヨルズ先生は運動とかするんですか? エルフはニート種族だって創造神から聞いてるんですけど……?」


 ヨルズは即答した。


「私じゃなくても、エルフはみんな運動するけど?」

「え?」

「朝一のラジオ体操、ジョギングウォーキングは毎日欠かさないから。スノトラとか『アース十六』なら筋トレ用にトレーニングルーム作ることもあるし」

「ニートってなんだっけ!?」


 ニート、イコール引きこもりという認識を覆された元不登校が喚く。可憐なお姿に反して、エルフたちはけっこう運動好きらしい。

 というのも……──


「私たちは極力仕事したくないわけ。必要最小限の労力で能率よく仕事してさっさと終わらせて、残り時間は自由なプライベートを過ごしたいわけ。だからコスパの良い仕事ができるように、疲れにくい体質を作るための運動は必須なわけ」

「な、なるほど……サボるための肉体改造……」

「デスクワークもリモートワークも、体力ないやつは脳の運動スペック低いから仕事効率悪いんだよ。食事睡眠の質と一緒。働きたくないなら動きな? 人生損したくなければさ」


 エルフ流の「仕事のサボり方」を伝授され、少年が肩をとほほと落とす。

 これからはエルフの先生たちに混ざって、少年も朝一のラジオ体操とジョギングに参加することとなるだろう。



*****



 創造神わたしは体育館の片隅で、ふと目に止まったバスケットボールを手に取った。

 設置されていたバスケットゴールを見上げ、片手でひょいとボールを投げれば、はストンとゴール網へ吸い込まれていく。


「……おい、創造神」


 その現場を目撃した少年が、私に歩み寄るなり。


「空飛んでるときもそうだけど、お前って何でもかんでも魔法で解決しがちだよな」


 ──え? いやまあ、だって神様だし?

 移動は魔法陣と空中飛行で済むし? 重い荷物も浮かせれば良いし? 少年や人間とは違って、からな。


 他人事ならぬ他神様事な私を、少年はじとりと睨んでいる。

 ……勘の良い諸君であればお分かりだろう。少年が次に投げつけてくる言葉を。


創造神おまえ、運動できるのか?」






(Day.42___The Endless Game...)

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